第3話 いざ潜入

 チェックインはカフェの営業中でも行えるのだそうだ。

 俺は荷物を一式持ってカフェの中へ向かう。


「ごめんください。宿を予約した御幸みゆきですが、チェックインをお願いできますか」

「はい、承っております。こちらの宿台帳にお名前と住所をお願いします」


 そういわれたので、いつも使っている偽名と潜入用の身分証を提示する。

 この島にいる間は御幸みゆき 樹里じゅりがボクの名前さ。


「はい、受付はこれで終わりです。それではお部屋に案内しますね」



 店の裏手にあるペンションのエリアに案内されると、そこには約五棟の建物があった。

 よく手入れされた白い板材の部屋の中には、最低限のキッチンとトイレ、シャワールームが備え付けてある。


「ご飯はカフェで食べても大丈夫ですし、釣った魚なんかをここで調理されても大丈夫ですし、食べに出ても構いませんよ。

はい、こちらがカフェの回数券です。

一枚につき八〇〇円の券として使えますので、晩御飯時などでご利用ください」

「ありがとうございます。冷蔵庫も使えますか?クーラーボックスに氷を入れておきたくて」

「はい、自由に使えますよ。

あと、そこの壁のボタンですが、押すとオーナーのスマホに繋がります。

何かご入用の際や緊急連絡にお使いください」

「はい、ありがとうございます」


 一点疑問があったので確認してみる。

「すみません。こちらネット回線はございますか?」

「はい、インターネットですが……こちらのテーブルにWi-Fiルーターを用意しています。暗号キーなどは机に入っているメモをご確認ください。

スマホならカメラでQRコードを読み込めばつながると思いますよ」

「かしこまりました。また何かあったらあのボタンで確認しますね」

「はい、ごゆっくりどうぞ」


 割と至れり尽くせりでいい宿だと思う。

 ちょっと小屋が古めなのと防音材がないのか音が筒抜けになるのが玉に瑕だが、小屋同士は充分に離れているので気にならない程度だろう。


 むしろ、筒抜け状態は今回の調査にはちょうど良かった。

 部屋の中に仕込まなくても外壁に盗聴器を仕掛ければどこからでも音が聞けるからだ。


 一応、電球などを観察するだけで盗聴できる仕組みもないわけではないが、それができる装置を持ってきてはいないのだ。

 精々、タックルボックスにばらして入れてきた指向性マイクで窓の振動を拾うのが限界だ。


 まぁ、依頼人へ音声を提出するから古いタイプのマイク付き盗聴器が一番楽なのはあるのだが。


 ターゲットがカフェに戻るのを確認してから、俺は店の外壁に盗聴器を仕掛けに行くことにした。

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