2.冒険をしたい星

 いつも同じ場所にいるということは、同じものしか目に入らないということだ。


 渦を巻く銀河、しゃらしゃらと音を立てて流れ、やかましい天の川。

 ご近所づきあいが大変だと話す、近くにいる数個の星たち。


 幾度も目につき、耳を掻きまわすそれらに、言葉にしがたい倦みを感じていた星は、自分の居場所から思い切って逃げ出してみた。


「どこにいくの?」


 そう聞いてくれる幼なじみの星がいたけれど、ろくな返事をしなかった。


「どこか遠くへ、ちょっと行ってくるだけだよ」


 前へ前へとひたすら飛んでいけば、星々や隕石がどんどん遠く後ろへ遠ざかっていく。これは気持ちがいい。

 とっぷりと満たされた暗黒物質など、星には何の障害にもならなかった。


 他の星たちのおしゃべり、無口の隕石、飛翔するデネブとアルタイルなど、珍しいものを目にしながら、星はどんどん地球に近づいていった。


「あれ、何かおかしいな」


 スイスイ進むのが難しくなったことに気づいた時、月が忠告してくれた。


「やめときなよ。もう家へ帰りな」


 それをすべて聞くことが出来ずに、星は地表へと吸い込まれるように落ちていった。


 星が初めて知った地球には、人間という生き物が住んでおり、誰かが空を指さす。


「あ、流れ星だ」


「願い事を言おう。明日も平穏に暮らせますように」


「そんなのでいいの? 無欲だねえ」


 空気を切りながら、星は地面に落下した。


 落下した拍子にその体は二つに分かれた。ぴょんぴょんはねた二つのかけらは、ひとつはとある国のガス灯の中に、もうひとつはとある職人が住む家の煙突の中に入った。






 それ以来とある国のガス灯は、昼も夜もなく輝きを放っているという。


 まぶしすぎるため、近くに住んでいた住人が引っ越しを余儀なくされたという話だ。


 そして、もうひとつのかけらは――


 職人が誰にも彼にも秘密にしたので、どうなったかはわからない。


「俺の家にお星さまが落ちたって? どんな冗談だよ。面白いホラを思いつくもんだなあ?」


 職人は友人との酒の席で、こう話していたという。

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