第51話そして伝説へ…
あれから、数年経った。街は復興し始めかつての栄華を取り戻し今では魔王の国と同じぐらいに繁栄している。人々の暮らしは昔とはあまり変わっていない、一時期はかなり技術力が進んだことはあったのだが今ではその面影すらないのである。
「そうか……やっと劇場が開かれるのでですね」
私は、劇場の再会の話を聞き複雑な感情になる。
去っていく、部下を見ながら、不意に近くにある一つの書類に目を向ける。
そこに書いてあるのは、数年前にあった。戦後授与式での名簿一覧である。その中に書いてあるのはかつてこの国を救う為に命をかけた。仲間達の名が書かれている。
(「もうあれから……数年の月日が流れるのか、いや仕方ないことなのでしょうね。あまりにも激動であったのだからね」)
コンコンと誰かが扉を叩く音が聞こえた。
「はいれ」
私は入るように促し一人の男が入ってくる。軽く会釈してから彼は私をこう呼んだ。
「陛下……時間です」
「陛下」と呼んだ後に少し間があったのはまたしても間違えて呼んでしまったという葛藤があったのだろう。
「そうか……わかった今行く…」
何も言わず、素直に立ち上がる私を見て唖然とする、部下が珍しく声をかける。
「ご指摘されないのですか?いつもなら「将軍」と呼ぶようにとよく言われておりますが……」
「そうだな……だが私もそろそろ慣れないといけないと思ってな。私も子供でもないからね」
私は、新しく新調されたコートを羽織り目的の場所へと向かう。
今更ながらこの国で変わったことは、まず光の帝国と名前を変えたことだ。そしてもうひとつは私このオウキが初代皇帝に即位したことである。
これはかつてベルゼとアストロによる、策略であった。どうやら二人とも私を皇帝に、するつもりだったらしく戦後すぐに私は即位することになった。
前王は当時は幼く、これからの王国を引っ張っていけるか難しいところがあり、邪神群との対戦による功績から誰も私の禅譲に対して反論するものはいなかった。これで私も歴史というものに名を残すことになってしまったのだ。
「まったく、勝手に国を背負わされるとはとんでもない置き土産を残しておくとはな…」
「何か、言いましたか?」
「いや…少し昔を思い出してな……」
街の人々が頭を、下げてくる。だが未だに慣れることは無い。二人に託された感じはするのだが私はあまり望んではいなかったが……盟友二人の最後の頼みをやり通す。それだけが今の自分にできる最大のことだと思ったからだ。
しばらく歩いて、帝国から少し離れた平原に向かう。なんの変哲もないこの平原に六つの巨大な像が立っている。そこには大きな慰霊碑が立っておりそこには戦死者の名前が書いてある。
「ベルゼとアストロは一体何をしているのだろうか……」
慰霊碑に手を当てながら、つい思ったことが口にでてしまう。
重症を負った私は、あの後すぐに何者かに抱き抱えられていたらしく私だけこの帝国に残しどこかに去っていったらしい。
その後、二人の姿は誰も分からず、あの戦争で行方不明になったことに整理されてしまう。
だが諦めきれなかった私は、ここに召喚陣を構築し残すことにした。現在私ができる事であり、彼等の帰りを私は待ち続けることにした。
それから、色々な出来事があった。魔王との結婚をし、帝国を地上界最大の経済国家にまで成長させそれにベルゼ、アストロの伝記を作り上げたりなどもした。
激務の中…私は毎日この慰霊碑に来て祈りを捧げていた。もしかしたら彼等が帰ってくると信じて。
あれから三十年弱、私は年が七十という年齢に達していた。既に息子に皇帝の座を譲り、オストロ平原の近くに小さい小屋を立て毎日慰霊碑に挨拶をしている。かつてつけていた、黄金の鎧は息子に渡してあるが、剣だけは渡してはいない。
この剣は勇者が持つにふさわしい、私はそう考え生涯手放すつもりは無い。だが彼が帰ってくるのなら、渡すつもりでいる。
黄金の剣、かつての王に渡されたこの宝剣既に老いぼれの私にはいらない代物だが彼には必要になるだろう。そう願い、私は今日も慰霊碑に祈りを捧げる。
「やはり、今日もダメかぁ」
今回も彼は現れなかった、私は失意のうちに慰霊碑から離れようとした時何かがこちらに向かってくるのを感じた。
そこに現れたのは…巨大なドラゴンであった、どうやら少しずつ生態系が戻ったらしくおとぎ話にいた神話の生物まで復活しているようであったのだ。
「ドラゴンか!」
素早く、剣を引き抜き奴の首に切り掛かるだが、薄皮を切る程度でまったくダメージが入っていない。
「クッ、やはり歳か!?」
単純にパワーが足りていなかった、既に現役を退いてしまったオウキにはとても勝てる相手では無かった。逃げようとも既に体力がない、さっきの一撃が彼の全力であった。
ドラゴンは、切られた場所をさすり激昂してオウキにブレスを吐く。
「ここで死ぬわけにはいかん!」
無理矢理魔力を回し強引に飛ぶ、なんとかかわすことはできたが、次の瞬間奴の大きく開いた口がオウキを食い殺そうとしていた。
覚悟を決めた、オウキだったがそうはならなかった。なぜなら爆風と共にドラゴンの首が真っ二つに切れていたのだ。
「まったく……やっと久しぶりに帰れることになったのになんだぁここは、って!俺の銅像が立っているじゃあないか!!」
「仕方ないでは無いか、この世界ではワシとお前は英雄じゃよ。まぁお前の場合勇者でもあるからな」
懐かしい声が聞こえる、だがどうやら限界らしい今までの無理が祟ったのか。どうやら私も……
「おい!爺さん!大丈夫か!」
懐かしい声にかけられ私は黄金の剣を彼に渡す。
「爺さん、その剣……」
「最後に……あえて……嬉しい」
それだけ言い残すと彼は息を引き取る、穏やかな最後であった。
彼に託された黄金の剣の意味を理解したこの男は静かに彼に向けて告げる。
「ただいま……オウキ」
この日、伝説の勇者が帰還したと同時に一人の英雄が新しく英雄として語り継がれ伝説になるであろう。
それから…ベルゼとアストロはオウキの息子と共に帝国支えていく。
時が経ち、世代が変わろうとも光の帝国いや、この時、名を変え閃光の帝国となる。
あれから何百年経っても人々はベルゼ達の、存在を忘れることは無かった。
彼等は今も国のブレーンとしてこの国を支えている。だが一番人々の中で残っているのは、三人の勇者の中でただひとり人間であり、生涯彼等が帰ってくる事を信じて待っていた。伝説の皇帝の事を忘れてはいない。
さらに百年後、魔界に帰ったベルゼの代わりにアストロが一人でこの国に住んでいた。
彼もそろそろこの国から離れようとしていた。
その時の彼が最後に言った。
「この国の人々はもう大丈夫じゃ、しっかりとベルゼとオウキ意志を受け継いでいる」
それだけ言い残し彼もいなくなった。
彼等がいなくなった数十年でこの国は崩壊し内乱状態になるが、ある日とある場所だけでは戦はしないという戦時条約がある。
それはオストロ平原の慰霊碑、そして初代皇帝オウキの命日。例え国がなくなっても、血で血を争う戦いの中でも彼等の中には伝説の人物を敬う心はあったのだから。
オウキのことばかり取り沙汰されるが、実は一番取り沙汰されたのはベルゼある。そこにはこう記されている。
勇者オウキ、アストロがここまで知名度を上げたのはひとえに勇者ベルゼの功績によるもの、もし彼がこの世界に来なかったら我々人類はとうの昔に滅んでいた。彼こそがこの世界にとって勇者なのである。
こうして、ベルゼが目指した勇者は人々に影響を与えこの世界では魔族であらながらさらに別世界の人でありながらも命がけで回ってくれた真の勇者様として永遠に語り継がれていく事になる。
魔界の王子が異世界で勇者をやってもいい筈だ @kasugamasatuki
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