第49話とっておきの援軍


 ベルゼの状態は極めて深刻であった。

 

   肩に深い傷、すでに治療済みであるがかなりの血の消失、それと治癒による魔力消費によって立っているのもやっとの状態であるが、それを脅威的な集中力と精神力です無理矢理体を動かしているのと同時に魔力回路を通常の二倍の速度で回しているようだ。


 これは死にかけの状態から治癒魔術を過剰にかけすぎたことによる感覚麻痺が体に起きている。今のベルゼは致命傷を負っても一定時間の間なら動き続ける限定的だが不死身の戦士に変わったのだ。



 対する、ハーディアスは腹部を貫かれた程度の一撃だが彼クラスの治癒魔術をかけてもまだ治っていないようであり、このままでは失血死するかもしれない状況である。


 「傷の治りが遅い……貴様その剣に魔術阻害を起こすように細工はしているな。本当に抜け目のないやつだ、しかも血液に染み込ませるとはなかなかのあくどい事ができる」


 「そりゃ、どうもこっちとしてはそれそれで倒れてくれたらよかったんだが……どうやらそうはいかないらしいな」


 ヨロヨロとした足取りでこちらに向かうベルゼに対して身構える。ハーディアスだが。


 ズキンと唐突に頭の奥に痛みが走る。そのおかげで一瞬目を瞑ってしまう。


 (「しまった!」)


感知力を最大にし、少しでも殺気を感じれば自動でカウンターできる魔術を行使する。


 シュ!っと空気の裂く音が聞こえタイミングよく刃を合わせる。


 「感触が軽いな……これはあたりかもしれん」


 即座に判断したハーディアスは背後に一閃大刀を振るう。


 「流石に……そう簡単にはいかないか!だが」


 不意にハーディアスの左足の太ももに激痛が駆け巡る。


 「また、小賢しい武器で!?」


 忌々しくハーディアスは睨み大刀を力任せに振るう。


 フッっと消えるようにベルゼは下がるが、自分の魔剣に違和感を覚え様子を見る、見たところ真ん中あたりのところでバッサリと剣が折れており腹部からは大量の血があたりの花を真っ赤に染め上げる。


 よく見ると、うっすらとハーディアスの大刀から魔力の刃が伸びている、熟練の魔術師というより魔剣士が使う古い戦術だ。


 「………」


 腹部の出血を見てから、ベルゼはさらに速度を上げる。もはや時間が無く一気に決着をつけるつもりでいるようだ。


 「くるか!」


 転移魔法とベルゼの剣技の猛攻にハーディアスは血まみれになりながらも致命傷は避けつつベルゼを隙をついて大刀を入れる。


 二人共かなりの刀傷がつき始めみるも無残な姿になる。


 そこで……ベルゼが賭けに出る!


 彼はおもむろに魔剣を至近距離で投げつける。


 「チィ!」


 ハーディアスはすぐさま反応し、かわすのだが今度はベルゼは懐から折れた黄金の槍を出し、奴の胸に突きにかかる。

 

 グサっと鈍い音と同時に鮮血が吹き飛ぶが胸ではなく、奴は何も持っていない左手を犠牲にした。


 「フン!残念であったな、このまま止めを!?」


 止めを刺そうと大刀を振ろうとした時、ハーディアスの右腕は動かなかった。


 「チィ、いつのまに!鎖が!?」


 ハーディアスの両腕に魔力で作られた鎖が巻いてあり、彼の動きを制限している。


 「だが!残念であったな!私にはまだ二本の腕がある……ヌォ!?」


 奴の腕が新しく生えることはなかった。奴の背後にはすでに誰かが立っており、奴の形態変化の阻害をしている。


 「すでに貴様の負けは決まっている。ハーディアス……大人しく私の息子に破れるがいい」


 「なぁ!!、貴様は!?」


 わずかに後ろに気を許した瞬間、黄金の槍と黄金の剣が深々と突き刺さり、ハーディアスはその場に倒れ込む。


 長い激闘の末、アストロが残した援軍と共にベルゼは勝利した。


 

 

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