第48話たったひとり……
まず、先に血飛沫をあげたのは俺だった。
神速の速度で近づいてきた夜叉王の動きに追いつけず、そのまま左肩をバッサリ切られてしまう。
「グゥゥゥ!」
まるで動物が唸るような声をあげながら、カウンターの一撃を奴に喰らわすが。
「……」
奴は無言で弾き返し俺の腹に向けて思い切り蹴りを入れてくる。
俺はすぐさま回避し、奴の懐に入り、奴の腹を切り上げるよう為に低い姿勢にかえる。
だが突如花畑の地面が盛り上がり物凄い勢いで腹に強烈な一撃を喰らわす。
「ぐっ!」
よろけた俺に対してそのまま追撃をしようと大刀を振り上げ切り掛かる。
ガキィン!!と肉の裂ける音が聞けるのでは無く、金属同士のぶつかる音が響く。それは黄金の槍が間一髪のところで奴の凶刃を防いでくれた。
続け様に黄金の剣の振るうオウキ、奴はすぐさまバックステップをし距離を取るがそこで動きが一瞬止まる。
視線を下に下げると花畑の草やツルが奴の足に絡みつき動きを制限している。
(「なるほど……さっきの魔族の小僧か……」)
大量に出血している、肩を押さえながら俺は魔力を地面に流し、花のツルや雑草を操作する。それと同時に肩の治癒にも魔力を回す。
「ハァ、ハァ!!ハァ!、逃すわけがないだろうがこの野郎!!」
一瞬ベルゼに視線を移した、ハーディアスはオウキを見失ってしまう、だが彼は首筋に嫌な殺気を感じギリギリのところでかわす。
「ちぃ!」
かわされたことに、対して短く舌打ちをし直ぐに追撃に移ろうとしたオウキだったが、いきなり横腹が突然爆発する。
「……!?」
何が起きたか分からずすぐに横腹を触る。どうやら鎧が守ってくれたようだが黄金の鎧はかなりの損傷してしまっていた。
(「あの規模の爆発は相当なものですね…もし次同じ所にあの一撃を喰らってしまうと……」)
若干青紫になっている腹部をさすりながらオウキは剣をしまい槍だけを構える。
「存外、やるではないか……小僧共。そこに転がっているかつての同志であった。ポンコツよりかは楽しめそうだな」
「かつての同志?一体お前は!?」
「知りたければこの私を倒してからにしろ!」
槍と大刀が激しくぶつかる、オウキは全身の身体機能と感覚を魔力が許す限り回しながらなんとか奴の猛攻をしのぐのだが。
「人間でありながら……ここまで神に食い下がるとは大したものだが」
激しい剣戟の中で、ハーディアスの大刀に幾重にも魔力が重なっていくのをオウキは気づく。
(「くる!!」)
黄金の槍を防御の態勢に入り、すぐさま体と槍に防御魔術を唱え奴の一撃に備える。なんとか防いでから一撃を喰らわすのがオウキの考えであった。
だが、そんな考えなど見通していたのかハーディアスは怪しい笑みを浮かべる。
振り下ろされる一撃はオウキの槍を真っ二つに折りそのまま黄金の鎧と彼の防御魔術で作った鎧ごと切り裂いたのだ。
「哀れだな…もう少し経験を積んでいればそのような選択肢は取らなかったハザだが……まぁ人間の寿命では無理な相談だな」
切られたところから大量の血が溢れひび割れた黄金の鎧とコートを赤く濡らしていく、すでにオウキは意識を失ってはいるがまだ息はあった。
「立ったまま気絶とは…見事今楽にしてやる」
ハーディアスが止めを刺そうとした時、オウキの腹が黒いポッカリとした穴が出来る。
「な、何だ!?」
いきなり出現した穴に警戒したハーディアスの横から何かが飛んできた。
すぐに切り返し、飛んできたものを弾いた瞬間それはいきなり輝き出したのだ。
「これは、閃光魔術の類か!!」
判断が遅れたハーディアスはすぐに大刀で急所を守りに入ったが防御魔術までは回らなかった。
グジュっと肉をかき分けるかのような嫌な音が聞こえたことに気づいたハーディアスは本気の速度で一気に下がる。
「ぐっ!、やはり……その強かさ!魔族のくせに高潔さも無いとはな!」
いままで汗の一つも流さなかった、夜叉王の頬に一雫の汗がこぼれ落ちる。
彼がそこまで焦った相手が目の前に立っているからだ。
オウキの近くに、ベルゼが立っていたのだ。すでに肩の傷は治癒が終わり、魔剣を右手に持ち、左手には黄金の剣が握られていた。
「まさか、その若さで転移魔法を使えるとはなしかも閃光魔術で目をくらませてから一気に近づいてからこの私に致命傷を負わせようとは大した技術を持っているようだな」
「お前みたいな奴に褒められてもな」
よく見るとベルゼは足元がおぼつかないどうやらかなり血を流した為にかなり体力を消耗しているようだ。
だが彼の目は死んではおらず体中の魔力を二つの剣に集中させる。
「さぁ、続きをやるとしよう」
アストロは機能停止、オウキは重症を負い気絶している。今、この異世界の命運を握っている勇者ベルゼはたった一人で邪神群の創造主に立ち向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます