第40話「友」を支える為に……
バリー、彼は今年で七十になる。老将であり、数少ない王国の歴史を知る生き証人である。
出身は一般市民であり、順当な出世はしていなかっしていなかった。「将軍」の位をもらったのはオウキが「閃光大将軍」になってからのことである。それまでは数人を率いるだけのただの名の無き兵士に過ぎなかった。
だが、ある日にオウキと出会い少し話をした。それでお互い意気投合し、そのまま別れる事になったのだが、後日軍からの通達で将軍として推薦され、一ヶ月も経たないうちに数千の兵を率いれる程の部隊を任され、数々の国内での内戦に活躍し、いつしか「老勇のバリー」といわれる程にまで出世を遂げてしまうことになる。
だが、バリーは悩んでいた。ここまでの地位を与えられながら……何故自分のようなものを気にかけてくれ、さらには部下にまで迎え入れてもらった。
あの偉大な「将軍」に目をかけてもらえるのはありがたいが同時に不安でもある。
それから何年もたった頃、思い切ってオウキに聞いて見たのだ。何故自分のような物を部下にしたのか?こんな老いぼれよりも優れたものがいっぱいいる中で何故私なんだと。
しばしの沈黙の後、彼はこう答えたのだ。
「何、簡単なことですよ。昔からあなたを見ていました。過去の功績もね、それで少し興味を持った私が試しに少しの間自分の手元に置いてみることにしたんですよ。
そしたら軍は何故君を将軍にしなかったのかと疑問が湧いてしまう程にあなたは優秀であったのとその経験を活かした的確な判断力があり、その才能を欲しくなりましたね」
その目は真っ直ぐに私を捉えていた。透き通るような青く何も不純物がない、この若者に疑いの目を向けていた事が恥ずかしい事になった。
「ただ、本音はあなたみたいな人が側にいてくれると安心するですね、今は遠く離れてしまった私の戦友いや……親友達とあなたはどこか似ているのですよ。だからこれからも、私を支えてほしいですよね。一人の友として」
その言葉に私は目頭が熱くなった。彼はこの老骨を彼の親友、「勇者」や「王」と同格に接してもらっている事に私はその場で深く頭を下げ彼に私の今の気持ちをこう告げた。
「私、バリーは死ぬまであなた様に仕え、あなたの親友達の様に支えていきたい!」
私の決意を聞いた。かの「大将軍」は口元に笑みを作り、真っ直ぐ俺を見つめ。
「そうか!これからもよろしくな!バリー」
今まで敬語で話す、将軍がここまで砕けた口調で話す事は後にも先にも無かった。
あれからさらに年月がたち、今わたしはーー…。
「将軍!!バリー将軍」
切羽詰まった、兵士の声でゆっくりと目を開け周りを目だけで見渡す。どうやら私は長い目を見ていた気がするようだ……。
「よかった!お目覚めだ!、早く!将軍を連れて撤退を!」
(「まだ、はっきりしないぼんやりとした状況の中にいる。どうしてか……体が鉛のように重い、特に今日はいつも以上に重く感じる……それにあの夢は一体、何故私はあの日を思い出していたのか)」
「な…何故撤退を、するのだ?すでに敵兵が目の前にいるのだぞ……みすみすここを奪われてしまうと我が軍は総崩れとなる……速やかに…持ち場に行きなさい」
「それはできません、将軍」
毅然とした態度で兵士は命令に逆らう、いくばくか声が出しにくいのと、口の中が血の味がするそれだけで自分の身に何が起きたのか……ある程度推測がついてしまう。
「大方……敵のほ…砲撃があったのだろう?それも直撃だろう?で、今私の体は……」
聞かれた兵士は、目を背けながらゆっくりと震える口を動かす。
「将軍は……すでに…腕と足の傷が酷く、とても歩けるかわからない状態で……顔の半分が火傷で多分左目も一緒に焼かれているで喪失しているかも知れません」
「そうか…道理で足に力が入らないはずだ」
「ですので…、医療部隊と援軍が来ますのですぐに治療をして、いただかないと…………」
弱々しくなる兵士に対して、私は首を振る。
(「そうか……さっき見えていたのは…走馬灯だったのかもしれんだな」)
残った目さえところどころ視界が黒いのは多分残った目も一部焼かれたのだろう。
「心配するでない…現在我が隊はどのくらい生きている?」
「幸い、殆どの兵は前に出ていた為に陣に残っていた。我々数名程でしたので被害はそこまで酷くはありません」
「そうか…なら…この場に治癒魔術が使えるものはいるか?」
「私が使えますが…完治まではできません。ある程度の応急処置と痛みを和らげるぐらい…しか…」
答えた兵士は言葉を詰まらせそうになり、涙が溢れ始める。
「何も君のせいでは無い。相手が上手だったようだなら私のする事は決まっている」
しばらくのあいだ左翼隊は指揮官不在のまま敵を迎撃していた。左翼本陣が砲撃を受けた事に対して少し動揺があったが皆なんとか事態を収束させ迫りくる邪神群を食い止める。
「なんとか…食い止めただが、本陣にいる、バリー様がどうなったか心配だ」
左翼隊総勢五千は敵の三千ほどと交戦し、見事迎撃ができた。それもアストロの新兵器があっての事なのでもあるが、数が不利な状況を押し返した、左翼隊の勇猛さに相手もしばらくは動かないであろう。
だがそんな事は無く、すぐに伝来の叫ぶような声がこだまする。
「敵の第二波きます!その数、千ほどですが!魔力量がとんでも無い!」
「やはり、最初は雑兵を当て、その後に主力を当ててくるか。やはり向こうにはかなりの戦上手がいるかもしれないな」
状況は不利、兵士の疲労。指揮官の不在すでに左翼隊は絶望的な状況に追い込まれる。
「もはや……これまでか…すみませんバリー様私たちはここで……」
前線指揮官が撤退を、決意した時。
「全軍、これより!攻勢に出る!」
聞き慣れた声に前線指揮官が顔を上げる。
「バリー……様!?」
だがその姿を見て絶句する。顔を半分は包帯で覆われて血が滲んでいてさらには両足は力無くブラブラ揺れている。
そして極めつけはおびただしいほどの血でできた。血溜まりが地面を赤くドス黒くぬらしている。
彼は死を覚悟して前線に立つ事にした。彼が愛用している大刀は流石に持てず、赤い槍を手に巻きつけて持っている。実は利き腕の指が何本か持って行かれている為に槍が掴めなかったのを、無理矢理またしているのだ。
最後に彼は側近達にこう告げている。
「私が死んだら、指揮権を援軍にくるものに渡してほしい。もし援軍が来なかった場合は、前線の指揮官に譲ってくれ、それと最後の命令だ」
周りの側近達は涙で前が見えなくなっていた。彼等も王国によって出世できなかったのをバリーが取り立てて優秀な彼等を側近にまで出世させた。いわゆる恩人でもある。
バリーが彼等を助けたのは、自分もオウキに助けれ出世できた。だから彼等にも同じように接していくかつてのオウキがそうだったように「友」として。
「必ずオウキをいや…英雄であり、無二の「友」に勝利をもたらすのだ!!」
その言葉は何十年経っても側近達の耳に残り続けている。彼等は口を揃えて言う「忘れる訳がありません」と語る。
「全軍!私に続け!」
満身創痍なバリーの号令と共に左翼隊の大攻勢が始まる。戦力差は数では勝っているが質ではあちらの方がかなり上である。
それでも左翼隊の善戦は目覚ましいもので邪神群第二波を迎撃する事に成功し、主力なら向かっていた、一万の内、三千程を左翼に振らなければいかないほど大躍進をしていた。
その中でも鬼神の如く活躍をしていたのはやはり死にかけのバリーであった。彼は槍を縦横無尽に振るい邪神群、数十体を打ち取っていたのだ。
それに感化された周りの兵士達が奮起し敵を死に物狂いで討ち取る。残るのは奴等の残骸のみでますます突き進んでいく。だが左翼隊の快進撃は唐突に終わりを告げる。
彼等の目の前に異様な邪神群が現れる。それはまるで悪魔のような姿であった、漆黒の翼は生え、体は機械的な装甲で守られている。だが顔には機界達が言う、バイザーみたいなのがついている。手足もかなり太く、それに大刀を、携えている。そう奴が二体目の邪神軍の指揮官なのだ。
「ふん、まさかこんな死にかけのジジィ一人に私が出張る事になるとな……さっさと終わらせるとするか」
「……フフフ」
不敵な笑みだけ浮かべ、バリーは突進する。
「コイツ、すでに……」
何かに気付いた邪神群の指揮官は、丸腰でバリーの一撃を受け止めた。
前線の兵士達はある異変に気づいた、そして彼等はその場で涙した。
「やはりか……、すでに死んでいたのだな。それも私と会う少し前に」
奴は、バリーを馬から下ろす。
全員が息を呑む中、奴は撤退の命令を出す。
「人間たちよ……その者の勇気と執念に免じて少しの間攻めるのをやめる、そのかわりその彼を手厚く葬ってあげてくれ」
それだけ告げると、残った兵力をまとめ上げ、奴は撤退していったのだ。
「老勇」のバリーは死んでもなお、魔力だけで体を操り闘い続けていた…だがその魔力も切れ彼の長い人生は幕を閉じた。
ジンバルが、援軍についたのはバリーが死んだ時と同じでありボロボロになった左翼本陣には側近達が泣いている声と彼の遺品となった大太刀「閃勇機」に暗い影が落ち、まるで泣いているかのように見えた。
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