第39話対峙する両軍

 あれから、数日が経ち。すっかり全快したベルゼとオウキは仲間達と集まり、すぐに支度をしてオストリア平原へと向かう。


 距離はそこまで遠くは無いが、馬で出発してしばらく経った後、布陣する。


 現在、決まっているのは右翼にアストロ、左翼にオウキの部下である、バリーというベテランの兵士が務める。そして中央主力部隊はベルゼ、ブロギロン、ジンバル。


 少し、後ろに離れた本陣はオウキが今、敵方の動きがどう動くか、探りを入れている。


 総勢三万、あとは魔王軍の援軍を合わせると三万五千ほどになる。


 対する、邪神群は総勢百体ほどではあるがその一体、一体が数百人分の戦力と同じクラスになるらしく、あまり兵力差は変わらない、それに指揮官クラス三体が待ち構えている。


 「状況的に四体いた、奴らの主力一体を倒せたのはかなり戦術の幅が広がるのだが、それでもこいつら三体を倒さない限りこちらの勝利はかなり絶望的すぎる。

 あちらは感情の無い兵士でこちらは生身の人間、少しでも負けるとわかれば皆逃げていっていまう。どんなに優れた指揮官がいても人の心までは制御できませんからね」


  

 「だろうな、だがどうする?俺やお前やアストロが出張れば奴らの三体の足は止められる。だがその間指揮するものもいない」


 この軍は、ほぼオウキの私兵になりつつある。幼年の王から離れてもう十年程たっている。もはや軍閥といっていいほどに悪い方向に成長してしまっているのだ。


 「もはや、この軍は王国というよりお前を慕ったもの達で構成されている。だから、万が一があってはならない。既にお前が前線に出る事事態がこの戦の負けに繋がるかもしれん」


 「なら、どうするんです?、仮に三体を倒せても多分、奴らにはこの戦を仕掛けた黒幕がいる筈その場合はどうするつもりですか?」


 「その件についてはアストロと話はつけてあるので大丈夫だ。とりあえず目の前の戦に全力を注ぐしか俺達のできる事は無い」


 詰め寄る、オウキをあしらい、俺は自分の持ち場に向かう。


  (「すまんが、この戦はどうあってもお前の指揮で勝たなければならない。俺とアストロはお前を王にする為に動くことを決めているのでな」)

 

 遡るほど少し前、俺達は魔王城に避難している、幼年の王を様子を確認した。


 実は、王はかなりの病弱気質であり、既に政務を行う事がほとんどできていないとの事。さらには王位をオウキに譲るつもりでいるらしいのだが周りの側近が反対しており、オウキに対して暗殺指示が下されている。


 王が存命なら、まだ抑えられるがもし亡くなってしまうとオウキの立場が危うくなる。


そう考えた俺とアストロはどうにかオウキに功績を残せるようにしておきたいと思い黙って動いているのだ、現にある程度の根回しと反オウキ派なら対してある程度対処している。あとは彼に大きな実績を積むだけだ。


 (「いくら何でもここまで国に尽くしてきたオウキが殺されてしまうのはあまりにも酷い。それに忠誠を尽くす、王も死ぬかも知れない、ならこの国は生まれ変わる必要がある」)


俺は、中央の陣に戻りオウキの合図があるまで待機する。あたりには急に霧が立ち込み視界を悪くする。


 「こうも視界が悪いとなるといつ始まるかわからないな」


 遭遇戦になるかも知れないと思った俺はすぐさま近くの兵に対して警戒を強める様にと指示を出すそうとした時だ。


 「伝令!?、お味方!右翼、左翼隊、敵軍と遭遇し、迎撃しております!敵方の数は三千ほど!」


 「バカな!」


 伝令の知らせを聞き、俺は絶句してしまう。本来聞いていた数とあまりにも違いすぎていた。


 「右翼と左翼は持ち堪えられそうか?」


 「どちらとも、なんとか耐えております。ですが左翼のバリー様の部隊が少し苦戦気味の様子と聞きました」


 「そうか、すぐにこちらから援軍としてジンバルを向かわせる。ジンバル!」


 「はい!」


 呼ばれると、風の様に静かに現れたジンバル、アストロから何かもらったのか、その腕には薙刀と腰に巨大な銃みたいなものを両腰に装備している。


 「直ちに二千の兵を率いてバリー殿の救援に向かってくれ!何か嫌な予感がする。もし優勢になったらお前は本陣に戻りオウキの護衛に回ってくれ!」


 「はい!」


 すぐさま、ジンバルが準備にと取り掛かる為に姿を消したと同時にすぐに早馬がきた。そのまま早馬は力無く落馬し這う様にこちらに近づいてくる。どうやら追撃されたのか?あちこちに数センチの風穴が開けられており、見るも無残な姿になりながらも必死に口を動かす。


 「ハァ、モ、ハァ、申し上げ……ま……す。テキが目の前に………迫っております」


 もはや、口を動かすのさえ必死な兵士はベルゼにの方に目だけ動かし。


 「そ、その数……い……ち…まん」


 掻き消えるような声でそれだけ告げ動かなくなってしまう。


 一万、その数だけを聞いた。周りの兵達に動揺が走る。

 「落ち着け、この俺がいるのだ。それにこちらにはアストロが作った新兵器があるんだ。それにまだ負けたわけでは無い」


 剣を引き抜き、濃霧に向けて剣を向けベルゼは息を吸い。


 「ベルゼ隊はこれより敵と交戦にはいる!!各々方閃光のオウキに勝利を、もたらすぞ!!」


 オウキの名前を出したことにより、彼等の戦意が復活し雄叫びをあげる。


 「(士気は充分、あとは俺達がどこまで優勢で立ち回れるかだな?あとはアストロを信じるしか手はないか」)


冷や汗をかきながら、ベルゼは濃霧の向こう側にいるであろう敵に向かいにらみつける。


 ここに第二次オストリア合戦が幕を開ける。この合戦が多くの人物の運命を決めることになるとは誰も思ってはいなかった。

 

  まさに運命の分岐点である戦なのだ。




 

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