第36話勇者ベルゼの闘い方

 切られた、箇所を確認しながらダグウォールはブロギロンの剣を見て指を指す。


 「イマイマシィ、キカイゾクノマリョクヲカンジル。ソノケンハ、タイジャシンヨウニツクラレテイルヨウダナ」


 「そうだよ、なんでわかったのか知らないけどこの大剣には対邪神群の魔術アストロ様の技術で作られた最高傑作なんだからな」


 「おい、誰もそんな説明を求めてはいないぞ?それに奴に話したところであまり意味がないだろうに」


 「フン、マダイキノコリガイタトハオドロキダ」


 奴はそれだけ言うと失った腕をみつめる、ゴボゴボと水が沸騰するかの様な音と共に失われた腕が生えていくのだ。


 「嘘でしょ!、さっき切った腕がもう治りましたよ!」


 驚くブロギロンを、無視してダグウォールを観察する。


 「どうやら、一筋縄ではいかないかもしれないなここまでの再生力があるのは序列四位クラスでも無かったからな。おそらくこいつは……」


 今の俺より強いだがそれは言うべきではないかもしれない、これ以上二人に混乱してほしくは無かったそれに俺自信切り札がある。まずは様子を見るべきだろうと俺は判断する。


 「さて、俺から仕掛ける。二人は奴に隙がある時に頼む、くれぐれも判断は見失なうなよ!」


 二人がうなづくのを確認してから俺は一気に前に進み出る。


 空気を裂く音と共に俺は奴の左足を狙う。


 奴は、すぐに左足を守る為に拳を入れる、先程から奴を観察してわかったのは奴はまだ完全には感知してはいない。それに傷の治りが遅いと言うことは相当な魔力を、消費しているのだろう。


 (「やっぱりか!、ならここで攻め続けたら必ず勝機はある筈だ。出し惜しみはせずに全力でやるしか無いな!!」)


魔力で作った簡易的な魔力の剣を、引っ込め俺は少しだけ下がる。


 俺の魔力の、変動に気づいたのか、奴は俺の顔めがけて体捻って裏拳を放つ。


 「おいおい、その一撃食らったら俺死んじゃうじゃんか!」


 当たるスレスレのところでかわす。だが完全にはかわせず少しだけ額を切ってしまっていた様だ血が流れ左目の視界を赤く彩る。


 「やっぱり魔術のキレが悪すぎるな!だがこんな不利な状況でも俺は闘いが楽しくて仕方なくなってしまうぜ!!」


 奴の裏拳を交わしたのも束の間俺に蹴りが届く様に足を改造して伸ばした一撃が近づいてくる。


 だがそこで奴の動きが止まる、異変に気づいたからだ。奴の周りに浮かぶ無数の水の塊を。


 「やっと気づいたのか?だが遅い!」


 何かがくると思い奴は後ろに下がるが遅かった。


 「時雨」


 俺の号令と共に水の塊は無数の弾丸の形を作り奴の体に叩きつける。


 時雨、魔界で扱える初級魔術であり、本来なら水辺があるところ、雨の時に奇襲としてぐらいしか使う機会が無い。

 マイナー魔術だがかなりの魔力量があれば水の無いところでも使用可能になる。ひとつ、ひとつは大した事はないのだが無数の水の弾丸を喰らえばそれなりのダメージを、与えられるさらに……。



 「ムゥゥゥ、コレハ……」


 奴からだから焼ける様な臭いがしてくる、よく見ると奴の装甲の様な皮膚が爛れてきている。


 「気づいたな、それは魔界の酸を、混ぜた特殊な水だ。本来ならもう少し後で使うつもりだったの、だがね」


 「フン、コノテイドデカッタツモリデイル!!」


 奴が喋っている最中にベルゼは、一撃を喰わえそのまま数発の拳打を腹に叩き込む。


 「スパークインパクト!」


 一瞬ベルゼの腕が光、ビリビリと空気を、震わせていた。そして右手に電気を纏わせながら渾身の一発を、叩き込む。


 落雷が落ちたかの様な電撃が砦中に響き奴の体から煙が上がる。


 時雨によって体中が濡れていたせいで感電を、重なってしまったのだろうだが、ベルゼの猛攻は止まらない。


 彼は、腰につけていた爆弾を外して奴の体につけ自分は後ろに下がると同時に爆発させる。


 ドーーン!という低い地鳴りと共に奴が爆風に包まれると続けてアストロから盗んだナイフを奴がいるところへと投げていく、既に奴のいる場所は魔力で感知済みな為、ベルゼは一切の躊躇いもなくナイフを、投げる。


 「うわぁ、あそこまでやる必要があるのかなぁジンバル?」


 ベルゼの戦い方に若干引き気味になりながらブロギロンはジンバルを見る。


 「いや、私でもそこまではしないけど。アストロ様が評価するだけの事はあるかもしれないと思っていたけど想像以上に、強い……いや敵だったら嫌過ぎて闘いたくないね」


 「ジンバルがそこまで言うなんて、一回闘った僕の身にもなってよ〜、もし本気ならやられていたのかもしれないのに……」


 「確かにね、あの水の魔術の時点で私達はアウトだと思う。でもそれより気になるのは、ブロギロンから見て魔力量と体力が多いのはどっち?」


 ジンバルは、少し浮かない声でブロギロンに、確認する。 

 すぐにブロギロンはまだナイフを投げ続けているベルゼとダグウォールの魔力を計算し、彼も不安そうにジンバルの肩を叩く。


 「やっぱり、ベルゼ様の方が圧倒的に不利だね全てに置いてあいつに勝ってない。むしろここまで善戦しているのかわからないくらい」


 「そこがもしかしたら勇者たる所以かも知れないと言う事かしら、多分実力差を経験で補っている様に見えてくるわ。それに彼は「魔剣士」の称号もあった筈、その彼が剣を抜いていないのは何か策があるのかもしれないね」


 二人が分析しながら観戦している中、やっとベルゼがナイフを投げるのをやめる。


 そして爆風の中から人影が現れ一気にベルゼの顔を狙うかたちで拳をあげる。


 「やっぱり、この程度ではやられるわけないよな流石にお前達の回復力にはいい加減飽きているんだけどな!」


 すんでのところでかわし、続けての追い討ちはいなして距離を取る。


 完璧な回避、いなしをしていても頬には切り傷があるのといなした右手は青紫になってしまう。


 (「やはり……今まで闘ってきた奴の中でこいつが一番強いな。それも厄介な事に完璧にかわしてもダメージが残る、こっちの治癒魔術で打撲程度ならすぐに治せるがまともに奴の一撃でももらったら俺の敗北だなこりゃ」)


 圧倒的な強者と闘いたいそれが異世界きたもうひとつの目的だった時もあったが今は違う、世界を守る為に友人達の幸せの為に今は闘っている。


 だが、ベルゼは確信するこのままではいずれ負けるだろうと今は小手先の技で削ってはいるがそれは微々たるダメージにしかなっていない。


 (「そもそも魔力量が違うのもあるのだろうがやっぱり万全の状態で戦えないのがキツイよな……なら無理矢理自分の有利な方に持っていくだけだな」)


ベルゼはゆっくりと剣を抜く、その剣は何かエンチャットされているのか赤黒く刀の周りをうねっているのだ。


 (「さて、あの魔術が発動するまで、少し時間が掛かってしまうそれまでは本気の時間稼ぎをするしか無いな」)


 「ドウシタ、魔族よ貴様の強さはそんなものなのか?まだやれるだろう?」


 どうやら学習して流暢に話せるようになってきたらしい。


 「あぁ、まだまだこれからだ。魔剣士の呼ばれる意味をお前に教えてやろう!」


 「いいぞ、この王にここまでの手傷を負わせたのは貴様が初めてだ!!」


 その瞬間、奴の魔力が急激に上がり、抜き身の刃を作り上げそのまま突進して行く。


 限界まで身体強化をしたベルゼとダグウォールの剣がぶつかった瞬間、力と力のぶつかり合いで刃同士の間に空間が生まれ小規模な衝撃波が襲う。


 床にヒビが入り、壁は崩れそうになり天井は落ち始める。


 「うお!!、このままでは巻き込まれる、ジンバル逃げるよ」


 「そうね!」


 身の危険を感じた二人はすぐに砦から出る、砦内ではベルゼと、ダグウォールの剣同士がぶつかり合う音が響き渡っているだけであった。



 「これが、かつて最強といわれた勇者の強さ」


 

   後日、二人共どちらがこの言葉を口にしたのかわからないとだが二人はこの日の事は、活動停止するまで回路に刻みつけておくだろうと後の回顧録では語っている。







 

 

 


 

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