第28話機界の王は今……

 「勇者」の称号を授けてもらってからすぐに俺とオウキはある場所に行くことになった。まだ会っていない旧友がいたからだ。


  「アストロさんに会いに行きましょう」とオウキが言うもんだから、何も言わずついて来たのはいいがまさか王国の地下施設に行くことになるとは思いもしなかった」


 「本当にこんなところにいるのか?こんな薄暗い場所にあいつがいるとは思えないんだけどな?」


   「まぁそんなこと言わずにお願いしますよ、確かに元々彼がいた所とはあまりにも違いすぎていますが隠れるには適しているのですよ」


  昔にアストロがいた場所と比べるとかなり老朽化していて周りのものは錆だらけでしかも入り口が下水道からだった為にかなり汚水の匂いがして鼻が曲がりそうになるほどだ。


 「よく、あいつも耐えることができたもんだな?普通なら吐きそうになってんぞこんな場所」


 「まぁあの人は機械ですから、あまり匂いに関してはわからないでしょうね。それよりも来て欲しいと言われたからには何か役に立つものができていて欲しいんです」


 あの後。オウキからアストロについて聞くことができた、どうやらあいつは「邪神群」と初めて遭遇した経験と彼等についての情報を功績として称えられて「機界の王」としての地位が約束された。

 

 それと彼等に対抗できる技術力も評価されこの国、初の初代技術局長としての立場を手に入れたのだが肝心の研究所、元々彼がいた場所は邪神群に見つかり破壊されてしまう。


 その結果王国の地下にある使われなくなった研究施設を借りて研究しているのだがやはり研究所を破壊されたのがかなりの痛手になりあまりうまくいってはいないらしい。


 「だがよくそんな状態で局長の地位を維持できたな数十年成果無しなんだろ?」


 「まぁ、そうなんですけど…それは軍事的面ではねってところでね。なによりこの国が彼一人を国として認めてしまったのと、私と同じく邪神群に対抗できる最高戦力の一角だったのからでは無いでしょうかね?、それに彼は素の強さが私よりありますから国家クラスの武力はありますよあの人」


 「確かに「歩く国」って言われていたんだろう?本人的には「機界王」として呼ばれたいんだろうと思うけどさ、その呼び方も、妥当だとは思えてくるしな」


 「えぇ、まったくその通りですね」


 その後も、昔話に花を咲かせながら俺達は奥へ奥へと進んでいく。


 やがてオウキが歩くのをやめ、周囲を確認し始めた。どうやら目的地には着いたようだ。


 「…少し待って下さい」


 それだけ告げるとオウキは当たりの壁を触り始める。


 「なんだ?、いきなり壁なんか触り始めて」


 少し茶化す様にオウキに言うが、彼は真剣に壁を触り続けていた。


 「見つけた」

 

 そして何かを見つけたらしいのだが俺にはまったくわからなかった。しばらくしてオウキがある一面の壁を一つずつゆっくりと押し始める。


 すると突然。



 ズズズっとオウキが今触っている壁がめり込んで行く。


 ガコンっと何かがはまった音がするとゆっくりと人が一人通れそうな扉が現れる。


 「古風なんですが、この方が邪神群には感知されないらしいんですよ。まぁ、安全性は確かなのかも知れませんが私からしたらかなり面倒なことなので新しいやり方を考えてもらいたいです」


 心底嫌そうな苦言を言いつつもこの何十年間文句を言わなかったオウキにも非があるのだがそれを言い始めてしまうとキリがない。


 しばらく俺達は地下室のさらに奥の方へ足を進めていく。


 さっきまでの場所とは違い、かなり改装が施されていたのだろう。既に下水の匂いは無く、さっきまでより出力が違うのか、かなり明るくなっている。さっきまでの場所とは大違いなのだ。


 不意にオウキが突然足を止める。


 俺はすぐさま周囲を警戒するが邪神群達が放つ異様な気配も感じない。だがオウキが止まったのには理由があるのかも知れないし、もしかしたら気配を消せる敵もいる可能性もあると考えてしまい剣を手から離すことは出来なかった。


 「そこまで警戒しなくてもいいですよ、それに目的地にはつきました。少し待っていて下さい」


 周囲を警戒する俺に対してオウキは笑顔を向けできた。歳をとってもその純粋な笑みを見てしまうと俺は懐かしさと安心感を思い出しやっと警戒を解くことにした。


 その様子を見てからオウキは「ではいって来ますので、すぐに帰って来ますので待っててくださいね」と告げてから何も無い壁に歩き出す。


 するとそのまま壁の中にオウキが吸い込まれていく様に入っていく。俺はその光景を呆然と見ていることしかできなかった。


 オウキが壁に入ってから数秒ほどで壁から顔だけ出す形で戻ってきたのだ。


 「ウオ!!」


 いろんな魔族を知ってる俺でも流石に不意打ちしかも壁の中から頭だけが現れる光景には出会ったことは無い。

  思わず叫んで転びそうになるのを必死に耐えるのが精一杯であった。


 「お前、その出方は心臓に悪過ぎるだろうが」


  少しだけ怒った口調でオウキに文句を言うとオウキは何がおかしいのか笑っていた。


 「何がおかしいんだ!?」


 「いや、だって昔とは逆だなと思いましてね。本来なら私が嗜め、あなたが悪ふざけをする。でもまさか私が驚かせる側になるなんて夢にも思いませんでしたからそれにこうやってふざけることができたのもなんだか懐かしくなりましてね。これであなたにもいくつかの借りは返せましたかな?」


 「お前がそんな風に思っていたとはな。これは一本取られたよ。ったくこの国の最高司令官様が子供みたいな悪ふざけする様な身近な人だとは誰も思わないだろうな」


  ちょっとした皮肉を込めてオウキに、ささやかながらの反撃をするがあいつは笑顔のまま「えぇそうですね、誰も思わないでしょうね」とだけ答えたた。


  (「相変わらず、受け止めるまでが早過ぎるなもう少しだけ否定するとかしないのは少し心配になってくるが……」)


 するとオウキは俺の手を掴み先程の壁に向かうのだ。得体の知れない恐怖とまだ覚悟をしていなかった為に少し及び腰な俺をみながらオウキは振り向きこう告げる。


「でもそれでいいのです。私にはかけがえのない友人がいますからそれだけで幸せなのですから」


 その言葉を聞いた俺はなんだかむず痒くなるがそんな彼の気持ちを聞けてどこか安心してしまうのだが何の説明もなしに壁に吸い込まれにいくのは辞めて欲しい。

 

 「てか、まだ俺は心の準備ができてーー」


 俺の話しを聞かずそのまま壁へと吸い込まれる俺達はいよいよアストロの元へ向かうことができるのだが、俺はあいつにここまで苦労させられた事の礼をしてやると深く誓う。

 



 


 



 

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