第27話荒廃した世界で勇者になる
俺はようやく自分の足で立つことができるまでに回復した。あれから、成長した戦友が用意した迎えの馬車に乗り、王都に向かっている最中であった。
「しかし、あなたは昔と全く変わっていませんねその姿をみるとあの頃の三人で共に闘った事がついこの間のように思い出してしまいそうになります。」
目の前にいる、金髪の男に言われ俺はつい綻んでしまう。
「まさか、最初に会えるとは思っていなかったんだがな。だがよく来てくれたよオウキ」
「いや、もしやと思ってな。あの時すぐにお前がこっちとは違う魔界にまぁ、お前から言わしたら元の世界の魔界になるのかな?誰かに引っ張られていたのは確認できたし、この一体で大規模な魔力反応があったのは確認したからな。それで怪しいと思ってきてみたらボロボロの君がいたわけなんだ」
ゴトゴトと揺れる馬車の中でオウキは涼しげに酒を飲んでいる。彼が酒を飲むときは決まって何か良い日がある時だけなのだ。それが俺と再会したから酒を飲んでいるとしたら嬉しい限りだ。
「さて、何故君がボロボロなのか聴かせてくれないか?きっと君のことだかなり無理をしてきたのだと思うのだがな」
「まぁ、それなりに無理はしてきたさ。ここにくるまでにいくつかの試練は乗り越えてきたんだからな」
俺はグラスに入っていた、酒を一気に飲み干す舌に残る味となかなか良い香りをしておりかなりの高級品のものだと見抜くだが味が残るとすぐになくなり、なんとも味気のないものに変わってしまう。どうやら元々は高級品だったのだろうがかなり薄めているのだろう。これでは少しマシな安酒といったところだ。
「で、あのあとこの世界はどうなったんだ?ここまで荒廃した土地が広がっているという事はまさか邪神群によって………」
「あぁ、あのあとどうにか手紙を送りたかったのだが一気に忙しくなってね、どうにか君に助力を頼みたかったのだがそこまでの余裕がなかった。すまないと思っている」
オウキは、グラスを置くと深々と頭を下げ謝罪をする。
「いや、俺こそ勝手に帰ってしまったようなもんだしお互い様だろ?頭を上げてくれそれに俺とお前の仲だ別にそこまでかしこまらなくてもいいだろうに。お前の誠意は充分に伝わったよ」
「そうか、すまない。どうも王国での生活が長くなると礼儀や作法など染み付いてしまったね。君がそう言ってくれるなら僕も少しは楽になれるよ」
オウキは、すぐに姿勢を正して深く椅子に座る。その動きにも一切の無駄がないように思えるぐらい完璧なのだが彼が歳を重ねて得たであろう。自然な動きが俺達の過ぎ去った時間の流れを感じてしまうのは何故だろうか?
「とにかく現在の状況を知りたいのだが一体何が起こっているんだ?」
「そのことについては王都で話します。現在我々が置かれている課題と現状を」
オウキが言い終わると同時に馬車が止まる。どうやら王都に着いたようだ。
馬車から降りて最初に目に映った物をみて俺は驚いてしまう。
「なんたことだ!?」
厳重な警備で門は守られており、所々に直した跡が沢山ある。なによりさらに驚かせたのが前に来たときはあったはずの王城がみるも無惨に真っ二つに、切り裂かれ焼け爛れている。
「奴等の奇襲を受け、王都は半分壊滅的状態になりました。彼等はやはり知性がありちょっとした策を練る頭があったんですよ」
悔しそうにオウキは話す、どうやら彼にとって後悔するような事が起きてしまったのだろう。
「我が主君である国王をはじめ殆どの大臣達が亡くなられた。まさに一瞬の出来事によって王都は半ば機能停止にまで追い込まれてしまった。後継者はいたがまだ幼くてね、仕方なく代理として王国を指揮する新たなリーダーを決めることにしたんだ」
それは一体……っと聞くまでも無かった。俺としても考えられるのは一人しかいなかったと思う。
「まぁ、言わなくても分かると思うけど唯一邪神群と戦闘経験があり、カリスマ性があったのはあの機界の王であったアストロを少しの間代理を務めてもらったよ。今はもうしてないけどね、今は同盟国として私達に協力してくれている。まぁ同盟国と言っても彼一人しかいないけどね」
苦笑混じりにオウキはどこか懐かしむように語っている、少し切なそうな表情になるのは彼にとってここが故郷だからだろう。
「さて今の現状は……はっきりいって存亡の危機にある。魔王軍と共に邪神群を攻めているのだがあまり効果がなくてな。」
「そうか、戦力的にはどのぐらい差があるんだ?」
オウキは少し顔を曇らせ、何やら兵士に合図を送った。しばらくして兵士は何かを持って来た。
受け取ったオウキは丁重に扱う、よくみると所々を赤く濡れていて赤黒くなっている巻物であった。
「それは……」
しばらく沈黙の後、俺はオウキに巻物について問うのだが彼は口をつぐんだままゆっくりと広げていく。
そこに書かれていたのは、この異世界の地図だがそれには普通の地図とは違うところがある。
地図の中心点には王城とかかれてあり、その周囲は黄色く塗られていた。少し離れた場所には紫に塗られた土地があるそれ以外は青く塗られている。
「現在邪神群の数は百体なのだがそのうち三体の司令塔がいるのだが奴らが強すぎてな。多分昔から俺達が三人がかりやっと倒せた奴らよりも遥かに強くなっています。それに加えて低級の邪神群の強さの上がっていまして次第に劣勢立たされました」
「てことはこの王城つまり、ここが陥落すると人類は…この世界の人々は滅亡してしまうのか?」
どこか、他人事の様な言い方になってしまったと今更思うが、それを咎めるほどオウキの器は小さくは無い。
「いや、既に多くの民は魔族の国に疎開させています。それに現国王も今はそちらに移ってもらっていますのでわたし達は全力でここを死守しているのですが、撃退はできるのですが、攻めに転じると負け戦が続いてしまいます」
「やはりさっきいってた奴らが出てくるのか?」
「そうですね、一体だけでもかなり厳しいのに三体同時とかは流石のわたしも無理でした。それに現在最高戦力であり、この国の総司令として負傷するわけにはいかないので不利なら撤退しなければならないのです」
オウキは短く息を吐き、その場でいつのまにか用意していた酒を飲みはじめた。確かに飲まずにはやってはいられないだろう。
「せっかくわたしの部下が命を賭けて書いてくれたのに恩に報いることさえできないのは歯痒いばかりですよ」
「つまり、代わりに前線に出られて尚且つ最低限の強さのある人材がいなかったというわけか」
「この世界で邪神群を相手にした、わたし達でないと勝ち目は薄いと思いました。
アストロにはあるお願いをしておりまして今は動けません。
魔王の彼女は大反抗作戦が失敗の時に負傷されてしまいましたので実質私しか彼等に対抗できる人が田舎だのです」
「状況は分かったが、あちらの戦力ばかり言われても仕方ない。
こちらの戦力はどのぐらいなんだ?」
「現在は魔族と人間の混成部隊約三万、王国親衛隊三千程、魔王親衛隊千程、予備が五万ほどで約八万程が我が軍の最大兵力であり、数的有利だが邪神群と戦えるのはほんの一握りだけだ」
「で俺がやるべき事は総司令殿?」
「まずあなたにやってもらいたい事はわたしの補佐あるいは全軍の指揮か、前線の指揮をしてもらいたいですね」
少しだけ俺は眉を細めてしまう。
「いきなり来た俺に任せるのか?」
「既に敵はそこまで迫って来ている、悠長には考えられない。それに、もう彼の様な犠牲を出したくない」
並々ならぬ決意を感じた俺は最後に一つ確認したくなった。
「お前いつから総司令官になっているんだ?他の貴族がいるはずだろう?」
「お前に手紙を出したその数日後ぐらいに長距離からの狙撃を受けまして、その時に皆さん運悪く作戦会議をしている時にです。殆どの方は亡くなられてしまい軍を指揮するものがいなくなり、やむなく私が総司令官としてこの場を任される事になりましてね、とんだとばっちりを受けましたよ」
疲れた表情でオウキはコートについている。総司令の証である。エンブレムを苦々しく見つめる。
「まったくこんな物をつけていきなり司令とか柄にもない事をやらされるとは思ってもいなかったですよ」
「まぁ、それは仕方ない事だろう。一応世界の危機を伝え魔王との交渉を成立させた英雄様なんだからなお前」
苦労語る、オウキに対して俺は少しだけからかうのだがオウキの顔が怒るわけでもなく、少しニヤついていたのだ。
「な、なんだ?その顔は何か企んだいるわけではないんだろうな」
「企む?まさかそこまで考えていません。ただ、アストロはうまく貧乏くじを引かずに逃げてしまったのでようやく道連れにできる仲間が見つかりましたのでね」
タイミングを測っていたのか、オウキが言い終わると同時に誰かが入ってくる。その手にはオウキと同じようなコートと勲章が目に入る。
「チッ、最初からそのつもりだったのか、つくづく食えない奴になったな」
「君の口からそんな言葉が聞けるとはね、だけどねこの報酬は君が本来受け取るべきものだったんですよベルゼさん」
俺は、渋々もってこられたコートを羽織る。勲章は付けずに俺はオウキに見せる。
「どうだ?これで気がすんだか?」
「いえ、私からあなたに伝える事があります。これは亡き先代の王が本来言うべきでしたが代わりに私が言わせてもらいます」
先程の従者達に、目配せをするとたちまち彼等は跪くその跪く先は俺の方であった。
あっけにとられる俺をよそにオウキが静かに口を開く。
「異世界から旅人ベルゼ、かねてからあなたが欲しがっていた。「勇者」の称号を与える、それと同時にこの国で将軍の位を授ける」
それは、あまりにも唐突すぎた。聞いていた俺も自分の耳がおかしくなってしまったのかと疑ってしまった。
「おい、てことは俺は……」
「あぁ、あの時からこの十年間君が帰ってくることを我が民は待ち侘びていた。無論この私もだ!よくぞ帰って来てくれた!我が「勇者」よ!」
俺は勢いよくオウキに抱き着き、声を殺して泣いたのだ。こんなに嬉しいことは無かったからだ。
勇者として認められたのか知りたかった……それがこの異世界での心残りになっていた。だが今十年越しにやっと答えを聞く事ができた、勇者になる事が目標となっていた俺は晴れて「勇者」になることができた。
これからが大変になるだろうと思うが俺はこの瞬間だけ全てのことを忘れて嬉し泣き続ける。幼い頃の憧れが叶った達成感に胸がいっぱいになりそれが溢ふれ涙としてでできているのだ。
後日魔王領に暮らし始めた市民達はベルゼが「勇者」になったことに大層喜んでいたらしい」
ここから「勇者」ベルゼとしての物語が幕を上げる。
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