第26話再び異世界へ

ザギルを、退けた俺はその足で急いで召喚陣に向かう。既に体はボロボロでどうにかなりそうだが今は気にせずに足を動かす。


 「ハァッハァッハァ!?」


 息も途切れ途切れになり、足の踏ん張りが効かなそうになるのをなんとか堪えながらひたすら走る。


 もはや飛ぶことさえできないほどに体内の魔力は枯渇している、ここが魔界だからと関係無い、少し休めば回復するのかもしれないがそうはいってはいられない。一刻も早くみんなが……仲間がいる異世界なら向かわなければならないのだ。


 ふらつきそうになる身体をなんとか気力で踏ん張りながら俺は召喚陣に手を触れる。


 瞬間、ブワッと当たりに風が吹き荒れ瞬く間に眩しい光に体が包まれる。


 「(待っていろ、みんな!もうすぐ行くからな)」


 満身創痍な体で俺は再び異世界へと向かうのであった。


  



  「ここは一体!?」


 しばらくして目を開けるとそこに広がっていた光景に対して俺は呻くように呟いてしまう。


そこに広がっていたのは、かつて自然豊かな場所ではなく、荒廃しきった世界が広がっていたのだ。


 たくさん木々や鳥達の囀りがが聞こえていた。のどかな風景がみるも無惨な惨状にへと変化を遂げていた。


 「転送場所はここで大丈夫な筈なんだが、一体ここまでの間に何があったって言うんだ」


  状況を理解できる、情報源としてあるのはオウキからの邪神群襲来のみ、あのあとどうなったのかまではわからない。せめてどこにいるのかだけは書いていて欲しかったがどうやらそこまでの余裕が無かったのかもしれない。



 「とりあえず、王都に向かうとするか。あそこならオウキはいる事は確実だと思うが問題はだな」


  目的地は決まった、あとは動けばいいのだが体が全く動かない。立ちあがろうとすると見えない何かに押さえつけられているような感覚に襲われてしまい立つことができない。


 「やはりか、やっぱり予想はしていた通りだったがここまでキツイもんだったか?」


 異世界から魔界に戻った時にある違和感を感じたいのだが、どうやら違和感の正体に今気づけたのだ。皮肉にもザギルにやられたことで確信できた事は対して少し腹が立ってしまうが。



 どうやらこの異世界は魔界に比べ魔素がかなり少ないようなのだ。その為、普段の強さの半分ほどでしか力が出せないようなのだ。さらには魔力もこの世界独特のものであり、魔術を発動するのにも少し時間がかかってしまうほどに弱体化をしてしまうようなのだ。



 「(まぁ、それでもこの世界では俺はかなり強い方だったのだがな…だが今回は少し笑えないかもしれんな)」


 魔界でのザギルとの戦闘で重傷を負っている状態で異世界による魔素の少なさがさらに追い討ちをかけているようで現状身動きができない。こんなところを誰かに見つかり襲われてもしたら確実に俺は殺されてしまうだろう。


 「とりあえず、治癒魔術をかけながら動くとするか」


 少しでも早く立てるようにする為に俺は怪我の治療より体力を回復させる方に専念する。幸い骨が折れているような致命的なダメージは受けていない。


 体力だけなら数分もかからずにすぐに済まそうではあるが魔術を使うのにも時間がかかってしまうのと既に俺自身魔力が枯渇気味である。もしかしたら魔力がほとんどない状態で王都まで向かわなければならない。



 さてこちらが治癒魔術を開始したと同時に何かが目の前に現れ始める。


 体は黒く、一つ目でいかにも生物なのか怪しい生命体が俺を方をじっくり観察してくる。


 「ちぃっ!?」


 まだ力があまり入らない腕を必死に動かして剣を抜く。軽々と振り回していた、愛剣は鉛のように重く感じてしまう。


 「よりによってここで出てくるとはなぁ」


 今、俺の目の前にいるのが邪神群である、こいつはただの下っ端タイプであるのだろう。


 「だが今の俺ではどうすることもできないな」


 この満身創痍であり、ハンデを背負っている体ではあまりにも不利すぎる。ここは見逃してもらえると信じるしかない。


 そんな俺の思いは脆く打ち砕かれてしまい、奴は奇声をあげ俺を襲ってきたのだ。


 「くっ!!」


 見たことない、タイプの奇行に一瞬気を取られてしまい、反応が遅れてしまう。奴の鋭い腕が俺の胸を貫こうとする。


 あわや、死を覚悟したその時。


 「ギィィィィィィ!!」


 また奇声をあげながら奴は動かなくなってしまう。よくよくみると何かが奴の体に突き刺さっているのがわかる。


 それは黄金に輝く槍であった。その槍を持っているものはこの異世界で彼しか考えられなかった。



 「よかった、間に合いましたか」


  聞き覚えのある懐かしい声が聞こえたので俺はゆっくりと顔を上げる。


 そこにいたのは短い白のコートと黄金の鎧を着ている。壮年の男が立っている。声色は相変わらずなのだが、顔のあちこちに傷があり、歴戦の戦士としての風貌に変わったていた。


 「遅かったな……」


 俺は嬉しさ堪えながら目の前の男を見る。


 「そうですね、数十年ぶりの再会がこんな形になるとは思ってはいません出したけど」


 そういうと男はこちらに手を差し伸べてくる。


 「ようこそ、異世界へ!こんな状況だけどベルゼかんげいするよ。そしてありがとう!よく来てくれた、戦友よ」


 笑いかける、彼の手を取り俺は答える。


  「ただいまオウキ。」



 





 


 

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