第25話越えるべき壁
正面からやり合っても勝ち目は無い、どうにかして逃げ切り、召喚陣に触ることしか無いとベルゼは考えていた。先程の一撃で既に脇腹は黒くくすんでいる、どうやら内側はかなりボロボロになってしまっているようだ。
(「魔族は普通の奴等より回復するのに時間は掛からない、治癒魔術さえかければこんな重症は治るだろうが……」)
本来なら魔界にいる魔族は、魔力の制限がなく、他の種族に対しておおいに有利が取れることになる。だがそれが同じ同族同士になってしまうと話は変わってくる。この場合元々の実力によって決まってしまう事が多い。
今の状況でベルゼは全ての魔力を戦闘のサポートに回すしか無かった。少しでも違うことに使ってしまうと勝てるイメージが湧かなかったからだ。
幸い動くことに関してそこまでの激痛が走る事は無い。
(「まだ…やれるさ、奴を声さえすればいいだけの話」)
黒い色に変色した脇腹を、抑えながらベルゼは知恵を絞り出す。奴の攻撃に隙はあったのか、癖はあるのか?、欲張るなら一撃を加えてやりたい。
痛みに耐えながら必死に魔力を体に流す、さっきみたいに反応できないのは困る。感覚を研ぎ積ませ、すぐに動ける事ができるくらいの反射神経にする為に体を強化する。
そのまま一気に奴との距離を詰め、そのまま奴の胴体を一気に切り上げるように剣を振るう。
だが奴はかわすことなく、なんと素手で俺の一撃を止めてしまう。
「ッ!!」
掴まれた剣を抜こうとするが、まるで岩にでも刺してしまったかのように奴の手から剣が抜ける手応えさえ感じない。
「やはり、その程度の力で私に立ち向かうのは、いささか無謀過ぎますな若、それでは今向かわれようとしている場所に行かれましてもあまり役に立てるかどうか………」
「随分と喋るじゃないか、ザギル説教は父上にこれでもかと聞いたからもういいんだけどな!」
俺はさっきまで必死に抜こうとしていた剣を手放し奴の懐の深いところに入る。奴のデカい手の下にいき死角になるようにしながら。
「ムゥ!?」
油断していたのか、死角に入った俺を見失ったかのかはわからないがザギルの反応が遅れる。
「これが、俺の精一杯だ!ちゃんと受け止めてくれよ!」
俺は足で踏ん張りそのまま勢いのまま奴の腹に目がけて魔力を込めた拳の一撃を喰らわせる。
「こ、この魔力の量とあの構えは!?」
かわす態勢に入る前にザギルの脳裏に懐かしい記憶が蘇る、それはベルゼの放った一撃はかつて共に競いあった彼の父親と同じ技であったからだ。
「黒士葬!!」
ベルゼの手に集まった、魔力の色が黒く変化しそのまま奴の腹に深々と入る。
拳が入った瞬間、何回も破裂音がしてザギルを数メートル後退させる。
「黒士葬」かつてベルゼの父が使っていた奥の手であり、魔族の基本技の一つでもあった。この技を何十年も研鑽し必殺の一撃にまで昇華させたのだ。受けた相手は本来は体の内側と少しの間魔法を使えなくする魔術師殺しの技でもあるが、ベルゼはまだその域には達しておらず、魔力が相手の内部に届く前に爆発してしまう「爆裂拳」のようなものになっているのだ。
それでも、ベルゼはザギルに一撃を与える事に成功した、よってこの勝敗はベルゼの勝ちになる。
「若の勝ちですな、いきなされ」
最強の武人に勝利した余韻に浸ることなく、ベルゼは軽く頭を下げ、剣を拾いそのまま召喚陣があるところまで飛んでいく、その後ろ姿をザギルは目で追う。
「やれやれ、ワシの歳をとったのかもしれんなだが不思議とこれほど気持ちのよい負け方は久しぶりであったな」
ザギルは、かつての若かりし頃の魔王をベルゼに重ねながら彼の無事を案じるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます