第21話魔界での戦い

 既に外は逃げ惑う魔族の人々でいっぱいであった。あちこちで火の手が上がり叫び声や安全な場所に誘導している魔族の軍人もいる。まさに地獄絵図であった。


 俺達が到着する頃には既に大量の魔族の血が地面を、染め上げていた、既に人型の形を保っていない死体がたくさん転がっている。


 「これはひどいな」


 流石の俺も壮絶過ぎる光景に息を飲む。これが本当に奴等がした事なら許す事はしてはいけない。


 「なんだ!そこにいるのは民間人か?それとも援軍か?、だがダメだ!早く逃げろここにいる奴は君たちみたいなのがあいっ!?」


 俺達の姿を見つけた、逃げていた兵士が避難するように促した瞬間、何かが彼の首を切り裂いてしまう。あまりにも早すぎたのか、少し遅れてから血が噴水のように噴き出す。


 兵士の命を奪った奴は案外近くにいた。一つ目の青色の瞳でこちらを睨んでいた。さらに特徴的なのは上半身と下半身の間は長く太いケーブルようなもので支えているだかであったのだ。片腕には下半身しか無い魔族の遺体を持っており、上半身には青い色の水晶みたいなのが入っていた。


  「おい、アストロ奴は強さ的にどの位置にいる奴はなんだ?」


  俺は自分の体が震えている事に気付きながら後ろにニ、三歩ほど下がってしまう。決して怖気付いたわけでは無いと言いたいがそうも言ってはいられない。奴との射程距離がわからないのだ。もしかしたらこの間合いでいるとすぐに殺されてしまうそんな動物みたいな本能でこいつの事を警戒してしまっているようだ。


  「あのとくちょうな見た目から序列四位、「水のセラフ」ウェンディーと私はそう呼んでいる。奴は正真正銘の邪神群の中でトップクラスの強さを持っている本当の化け物」


 「そうか、ちなみに俺達が勝てる見込みがあると思うか?」


 ベルゼの問いかけにアストロは暫く黙ってから新しく作り直した大剣とサーベルを手に持つ。


 「まだわからない。が今回は二人とも万全の状態だからここから勝てる見込みはあると思う。それにここで邪神群の序列を倒しておくのは後々私達にとっては有利となるだろう」


 「そうですね、前向きに考えないとダメですね。私もアストロさんに見習ってここで奴を倒します!!」

 黄金の剣と槍を持ちオウキは既に戦う準備に入る既に二人は戦う準備はできているようだ。なら俺も覚悟を決めるしかないだろう。


 (「正直な話コイツとやり合うのは死ぬ覚悟を、決めなきゃならないと思っていたのだがこの二人のお陰ですこしだけ楽になった気がする。ありがとう二人とも」)


スーとゆっくり鞘から剣を引き抜き俺は赤い刀身に魔力を、こめつつ構える。


 準備は整った後はどちらが先に動くかで戦闘が始まる。互いにどう攻めるかでしばらく睨み合いが続く、その間5分程。


 しばらくの間、静寂が訪れてまた5分がたった頃奴の方から動きがあった。


「「「!?」」」


 三人に緊張が走る、誰も奴の動きに予想ができない右からくるのか、左からなのか、あるいは正面から堂々と、攻めるのか俺は奴がどう動くのか頭の中で考えながら戦略を練っていた。


 だがそんな必死に考えている。俺を嘲笑うかのように奴は誰もが予想しなかった行動を見せたのだ。


 奴の上半身にある水晶みたいなのが縦に割れ、腕に持っていた下半身だけの死体を水晶の口が食べ始めたのだ。


 ゴキ、バキ、グチュグチャと骨をすりつぶす音、肉を味わうように食べているような咀嚼音が響きわたる。


 このあまりにも虚をつかれたような行動に対してアストロは首を捻っていたが俺とオウキは顔色が真っ青になってしまっている。


 それは少し時間を遡るが、研究所で調べほしいといった奴等の体についてみてもらったが驚くべき事実に俺は背筋が凍りそうになる内容が書いてあったのだ。


 「奴等は序列クラスになると活動する為必要なものそれは人、厳密にいれば人が持っている天然の魔力を好物としているのかもしれない、気をつけてくれ」と所長からの調査結果にはそう書いてあった。


 (「博士、どうやらあなたの仮説は正しかったようですね。だけどこれで我々が負けてはいけない理由と魔王に対しての交渉の材料として使えます」)


皮肉な事に博士の仮説は今、目の前に広がる惨劇によって立証されてしまった。だからこそ彼等の犠牲を無駄にはしない為にも俺達は勝たなければならない。


 奴は、まだ食事に夢中な為こちらの事はあまり気にしていないのだろうが、もしかしたらこちらが先に攻めてくるのを誘っている場合がある為下手に動く事ができない。そうして奴が食べ終わり、こちらに視線を移した瞬間。


 音もなく、奴は既に俺の目の前に立っていたのだ。そして俺の首を断つべく、強靭な指を首元に滑らしていく。


 「クソがぁぁ!!」


 俺は油断はしたいなかったが全く反応できていなかった己自身に怒りながら奴の凶刃を防ぎきる。


 「グゥ!?」


 だがそれでも奴の腕の動きで起きた風圧で首の薄皮が切れてしまう。どうやら完全に防ぐ事はできなかったようだ。


 (「やはりか!、それに今ので確信した。コイツは別格に強い奴だ」)


たった一撃で奴の力の差がわかり戦慄するが怯んではいられない。そのまま俺は治ったばかりの羽を広げふわりと少しだけ浮きそのまま、後ろにさがり始める。


 逃げる俺に対して水のセラフは追い討ちをかける為にそのまま俺の顔目掛けて拳を振るう。


 「おい!、忘れているようだが相手は俺一人ではないぜ」


 人の言葉を理解できるか知らないが、お構いなしに俺は奴に忠告しその一気に全速力で一気に横にずれる。


 ズレた後ろから、オウキが槍の渾身の突きを奴の拳めがけて放つ。


 奴の固い装甲と国宝の槍が火花を散らしながらぶつかり合う。どちらがこの突き合いに勝つのか、しばらくの間、押し合いが続いたが先に限界が来たのはオウキの方だった。


 「流石にまだ無理でしたか、それでもあなたの腕にダメージを与える事ができてよかったですよ、これで私も先の戦いでの情けなかったのを消す事はできるのらでしょうかね!」


 槍を引きながら横にサイドステップをする。水のセラフはまだ全体重をかけた一撃の力を放った、一撃であり押し合いに奴は勝利した。だがあくまで押し合いだけである。オウキがタイミングよく後ろに引くことにより、オウキという支えを失いそのまま前に倒れ込みそうになる。わずかな隙であるがそれを見過ごす程人類最強は甘くは無い。


 前に倒れ込みそうになる奴が拳を突き出した右手首に黄金の剣を入れていく。

 

 音も無く、右手首は飛んでいき奴は自分の失った体の一部を凝視していたがすぐにまた腹部に衝撃を受ける。そこには黄金の槍が軽く突き刺さり、そのまま勢いよく近くの壁まで吹き飛ばす。


 (「やはり、手応えがまるで無い、手首を切り落としたの反応が無い。博士は生物だと断定はしていたが私から言わしてもらえば機械のような感じがするのだが、それにまるで抵抗がないのが気になる。もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれない。なら先手を取り続ける必要がある!)」


 追撃はせずに距離をとり、オウキは合図を送るがその前に奴が動き出したのだ。立ち上がると同時に体に水を纏い始める。失った右手も水で作り出していた。


 (「どうやらここからが本番のようですね。ここまでが奴にとっての様子見だったのかもしれませんが今更動いても遅い」)


既に奴が何かしようともこちらの主力が動いていたのだ、アストロは改良したクロスに小型のブースターをつけており機動力を底上げしている。そのままトップスピードで奴の核めがけて大剣を突き刺す。


 大量の砂埃をあげ、結果がわかるのは砂埃が明けてからと思ったのだが突然急速に下がる人物に目を疑ってしまう。


 「アストロさん!、腕が!」


 見るとアストロの左腕が吹き飛ばされていた、それだけでは無くつけていた左側のクロスも失っている状態であり、あまりのダメージの深さに俺のアストロのそばによる。


 「やはり、一筋縄ではいかないようだな気をつけろ二人とも奴は序列こそ一番低い奴だが一人でこの魔界を滅ぼせるほどの力を持っているかもしれん」


 ゆらりと立ち上がる人影に俺とオウキは構える、そこにいる、奴はゆっくりと俺達に近づき姿を現すのだが。


 「これは!」


 「一体なんなんですか!?」


 砂埃がはれて現れたのは青い色の竜の姿をしたセラフの姿であったのだ。

 



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