第9話邪神群に対しての奇襲作戦
機械文明の首都だと思われる場所に今現在俺達は向かっている。ムゥから聞いた話ではここにはいまだに彼等の風化していない遺跡や、ダンジョンがあるらしい、もしかしたら彼等の滅亡した理由などがわかるかも知らない。そうなれば「邪神群」について何かわかるのかも知れないと微かな期待を胸にオウキと一緒に向かうのであったが着いた場所の景色に俺は少し絶句してしまう。
「なんですか?ここは?」
俺と同じように困惑するオウキ、無理もないそこにいたのは無数の「邪神群」達がまるで遺跡を守っているかのように辺りを巡回しているのだ。
その動きには一切の乱れは無く、彼等の目についているセンサーのようなもので敵がいないかを探しているようだった。
すぐさま、俺達は物陰に隠れ周囲を観察する。敵の数はざっと五体ほどだがそれでも油断出来ない一体、一体が並みの兵士数十名ほど強く決定打に欠けている為奴らを倒すのに騎士クラスのやつを呼ばなければならない。
「奴らに知性があるのか?、それともあらかじめ用意されていた命令で動いているのかその辺はまったくわからないがとりあえず今日は一旦撤退するとしましょう」
気付くと既に辺りは薄暗くなっている、これ以上はこちらが不利になる、ここはオウキの意見に従い万が一の事を想定しながら少し距離をとった場所で野宿することにした。
「すいません、今更なんですが何故勇者になろうと思ったのですか?」
飯も食べ終わり眠ろうとした時にオウキが唐突に話しかけてきた。今まで忙しくて話すタイミングがなかった。そもそもオウキ自身も今回は任務の為同行している感じで俺に対しても割り切った感じで話しかけていた為、今回のように彼が俺に興味を持った感じで話しかけてきたのは初めてであった。
「珍しいなぁ、お前から話しかけてくるとは」
魔族である俺はあまり人間との交流が少ない、元いた世界でもあまり会う事は無かった。そもそも魔界に人間がくるのは珍しい事なのだが、王族だった俺自身あまり城から出る事は許されておらずそれに自分を鍛えることに集中していたからそれどころでは無かった。だから俺はオウキとの距離感なんかわからないからとりあえず砕けた話し方の方がいいと思い今の口調で話してしまう。
「嫌、別に何故魔族の方が勇者を目指した理由が知りたかったからですかね?あなたほどの強さが有ればそれなりというか下手したら魔王を目指せるぐらいの力がありますからね。そんな方が自分達にとって天敵であるはずの勇者になろうなんて何故そう思ったのか少し興味を持ちましてね」
「あー、昔父さんが持って来た本の中に勇者の物語の本があってなそれを読んでたらな。まぁ、カッコよかったのもあるし、何より強い奴とやり合えると思った。黙っていて悪かったが元々俺はこの世界の魔族では無くてな、別の世界から来たんだよ。まぁ元いた世界に刺激がなくてな……そんな理由かな」
「別の世界から!?、それは……結構大変だったでしょう、慣れない世界に来るなんて」
オウキの驚き方はいつもの彼からはあまり想像ができないほど狼狽していたのがすぐにいつもの冷静な彼に戻った。
「まぁ、この世界でも魔族は恐怖の対象だと言う事はわかっていたからな。あまりその辺は心配していないかった。ある程度は覚悟はしていた、意外だったのはここの人間達はまだまだ強い奴等がいるってことだよオウキお前も含めてな」
「そうか、私も魔族の王族の方にそこまで言われると気分がいいですけど、あなたの世界の人間は一体どんな感じだったのですか?よければ教えてくれるとありがたいです」
「あぁ、いいぜ。話してやるよ」
それから俺は元いた世界のことをオウキに話した俺にとっては特に楽しいことではないのだがオウキは真剣な眼差しで話を聞いてくれていた。その事が意外であり、少しばかり嬉しかった俺は珍しく説明口調になりながらも魔界での人間の暮らしや魔族達の生活などを話した。自分が人間に対してここまで喋り続ける事は今まで無かった。彼に対して例外なのかも知れない元々愛想が良くない挨拶もしなかった俺がここまで話し込むとは思いもしなかった。
「まさか、君達のところの人間はそこまで腑抜けになっているとはしらなかっただろうな」
「あぁ、昔はそんな事は無かったらしいのだがな元々は内乱の鎮圧のために俺の親父は派遣されたのだがあまりにも酷い状況だったのを力でねじ伏せていたらいつのまにか統一してしまいそのまま国王として数100年程統治していたんだ。まぁ統一するまでのあいだに人類側の主力部隊は壊滅させていたお陰ですんなりと統一ができたと思ったがまだ残党部隊潰したら訳の分からん宗教団体やらいろんな国内の、諸問題が出てきて平和的に解決するのにそのくらいかかってしまったと父さんは遠い目をしながら疲れ切った口調で言っていた気がするよ」
「それはあなたの父親に同情してしまう。それにそんなゴタゴタに巻き込まれながらもなんとか統治したのも凄いと思いますけど」
「まぁ、人と違って寿命が長いのが俺達の利点みたいなもんだし、ちょっとやそっとの毒物なんかには耐性があるからな。なかなか殺せないんだよ俺達の魔界ではな」
「そうですか、なら我々は運が良かったかも知れませんね」
「おいおい、どうしてそうなるんだよ?」
「そのおかげであなたのような方がこの世界にきてくれたのですから。それに私なんかより強いお方が味方なんだ。これほど頼もしい事はないですよ」
真っ直ぐな瞳で伝えてきたオウキに対して少し照れながら俺は少しそっぽを向いてしまう。
(「こうやって、面と向かって褒められるとやっぱり恥ずかしいな」)
「もう、今夜は奴等が多いから一旦朝まで待ってから見に行くとする。だから俺は寝る!!」
照れているのを隠すためにベルゼは少し早口に捲し立てながら野宿用の薄い毛布を顔にかける。
その様子を楽しそうに見ながらオウキは独り言を呟く。
「この、「邪神群」の騒ぎが収まったらいつかベルゼ殿の魔界にも行ってみたいですな」
おそらくわざと聞こえるように言ったのだとわかっていた。だが既におれとオウキの間には少しだけ友情めいたものが芽生えていたから。
「………考えておくよ」
俺ははしばらく沈黙してから答え、オウキは何も言わずに彼もまた明日の朝に向けて少しばかりの休息をとる。
朝になり、木陰の隙間から入る、朝日の眩しさにゆっくりと瞳を開ける。近くで寝ていたオウキはすでに起きて干し肉を齧っていた。
俺達の食糧については研究所のところでもらった保存食があるのだが、ここから魔王の城までは約二、三日かかるらしい。食糧も見積もってもあまりここには長くはいられない。だが魔王に協力を求めるためにはここの遺跡を調べ奴らの危険性を伝えなければまず交渉するのは難しいだろう。
(「結局のところ、奴等とは直接やらなければいけない。まぁそれはいいんだがな、俺としては願ったり叶ったりではあるが」)
俺が暴れられることにはいいのだが、今回は場所が悪すぎる、貴重な遺跡があるために充分に戦えないかも知れない。誤って壊してしまうと魔王に見せる証拠も無くなってしまう。戦闘には最新の注意が必要になるだろう。俺にとってこれほどやりづらいのは初めての経験である。
(「まぁ、やるしかないか……、まぁ考えるにしてもまず腹を満たさなければならないとな」)
昨日は疲れてそのまま寝てしまった為に何も食べていなかった為に腹の虫がずっと鳴いていた、食べ物を欲していた。魔界ではそこまでお腹が空く事はなかったのだが人間界にくるとどうにも少しだけ消費が激しいようだ。
(「まぁ誤差ぐらいな感じだからあまり心配はいらないだろうが少しだけ考えておくか」)
その後、オウキと一緒に今後の方針を決め、俺達は遺跡の場所に戻るのであった。
どうやら昨日の夜よりかは数は減っているらしく警備している奴らの数も4体ほどであった。
「数は少ないが、速攻で決めなければならないな一体ぐらいならなんとかできるが、二体、三体目は流石にキツくなるな」
二回程の戦闘で奴らの強さはわかってきた、俺では一体倒すのに時間は少しかかるが倒せるが二体同時は少し厳しいぐらい、一方オウキは一体までも勝てるか怪しいレベルで二体同時はとても無理な感じだ。
そこで俺達は一体目を奇襲です速攻で倒し、二体目も二人で一気に決め、残る二体は連携しながら闘う方針を決めた。
まず先に動くのはオウキに決定していた、どうにも奴等はかなりの魔力を持っているものに反応するらしくベルゼの方を警戒している。
その為、二人は一旦離れることにし、俺が囮になる事で奇襲を成功しやすくするようにする。
「ちっ、魔術なんかまったく使わないのになんで俺が囮にならなければ……」
俺は不服そうしながらも相手が近づいてきてるのを観察するが俺の仕事は相手を引きつけるだけのことだが必ず一体だけが俺に気づくようにしなければならない、二体同時だと奴等は連携を取る為奇襲がうまくいかなくかも知れない。極めて小難しいことをやらなければならない。
「さぁ、早く来い来ないともっと逃げるぞ」
私は、少し離れた場所で奇襲ができるタイミングを探っていた。
(「ベルゼさんのお陰で、奴は少しずつ孤立していっている、奇襲をするなら今がチャンスかも知れない」)
邪神群の一体は少しずつ距離をとりながら周囲を警戒する、だが周りは遺跡の壁だらけで奴からしたら敵がどこに潜んでいるかはわからない。奇襲側にすれば絶好のチャンスである。私は気配を消して相手が通り過ぎるのを待っていた、私自身もこんな人数で奇襲をするのは初めてのために持っている槍に汗が流れる。
そこで邪神群の一体が完璧に私から離れ後ろから狙える状態になった。
(「今だ!!」)
私は躊躇わず動いた。そして黄金の槍に全力を込め一気に奴等のコアがあると思われる場所に一気に突き刺す。
邪神群の体内に突き刺さった槍は奴の内部を強引に削りながらすすみ、何か硬いものにあたりそこで止まる。
(「どうやら、核を突いたようだなならば!!」)
そのまま一気に引き抜く、私の槍には右側には小さな鎌がついており、そのまま奴のコアを一気に引っこ抜きにかかる。
普段の奴等なら力任せに抵抗できたのだがいきなりの奇襲の為に判断が遅れてしまったようだ。コアは簡単に抜けてそのまま奴は動かなくなってしまう。
(「よし!!、次だ!」)
一体目を仕留めてもまだ近くにもう一体いる為、身を低くして奇襲の機会を伺う。
もう一体は、ベルゼの魔力に釣られていたが、近くで聞こえた。雑音に気づき、急いで向かうがすでにそこには雑音の元は消えており、気のせいだと判断したのか一瞬だけ奴は警戒を解く、その瞬間何かが物陰から移動するのを捉えてしまう、いや正確には捉えてしまった。
奴等は機械ではあるが生物のような反応を示す為に奴は横切った物体が物がわかってしまい、ものすごいスピードで駆け寄ってしまった。そしてそこに転がってしまっている、「物体」に気を取られてしまったのが奴の命運が尽きた証拠であった。
一瞬のうちにコアを抜かれ何が起こったかわからずに倒されてしまう。奴が最後に見たのは硬い地面だったであろう。
「お前たちを昨日観察していて良かったよ、おかげでこの方法は思いつかなかった。案外機械のくせして仲間意識があるんだな」
奴等の核を持ちながら静かに呟く。あの狼狽え方はまるで人間みたいであったが、それも仕方ないかも知れない、奴が必死になって確認した「物体」を持ち上げる。
「物体」の正体は最初に倒した個体の腕であったのだ。私は昨日の奴等の動きを見ていて彼らに仲間意識がある事を見抜き、すぐにこの手を、実行に移したのだ。結果は思った通りに奴は引っかかってくれた。
「さてもう二体も同じ手順で!?」
すぐにもう二体も奇襲しようとしたがピタリと私は動きを止めてしまう。
「どうやら、終わったようだな」
そこに立っていたのは二体の「邪神群」を抱えて立っているベルゼがいたからだ。
「いや、こいつらは他の奴らと違って弱かったからなすまんな、そっちにいっちまったやつを確認してからこいつらをたおしにいったんだ」
唖然とする私に対してベルゼは余裕の笑みを浮かべる。彼が弱いといった奴等は私が真正面でやり合って勝てるギリギリのラインの奴等なのだから。
(「まったくこの方は本当に頼もしいお方だ」)
彼の異次元の強さに驚きつつも私と彼のあまりにも違う力量の差に少しだけ非力な自分を卑下しそうになってしまう。
「オウキ、そんな顔をするなよ、さっきお前が倒したのは俺の世界の人間ではまったく勝てない奴らだったんだからな、無論お前の国にいる奴らでさえ奇襲しても勝てるか怪しい。はっきり言うがお前は人間界では最強の強さを持っている。もしかしたら地上界最強かも知れんぞもっと自信を持て」
気を落としていた私に対してベルゼは優しく言葉を選んで励ます。
「あぁ、そうかすまない少し自分を、見失いかけていたかも知れない」
「そうかなら、次俺たちが向かう場所である遺跡内部は用心してくれここの異様さは別格だからな」
少し気を持ち直したオウキの様子を伺いながら遺跡の場所を指す。俺達は魔力を目で見ることに対しては苦手な為に遺跡内部から流れる異様な気配は感じとれてしまう。
二人共緊張した汗をかきながら遺跡内部に侵入するいよいよ、彼等古代機械文明について知ることができるのか。この世界の謎が解き明かされるのは俺達二人にかかっている。
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