000 プロローグ2 小さな魂の売り込み

小さな魂がこんなに輝くまで誰にも気付かれなかったのには理由があった。


 新参者の新しい魂を除けば、どの魂も多かれ少なかれ輝いている。しかもその輝きと同じ光の強さの滑り台を滑るのだから、ある程度輝いてしまえば皆同じに見えてしまう。


 小さな魂は黄色が好きだ。


 虹のグラデェーションの中で黄色を選ぶので、その輝きといったら。

 日々、黄色周辺を担当している神様があまりの眩しさにサングラスをかけたくのも頷ける。


 強い輝きの魂は時に使命を担ったり、神として新た選ばれ進化したりするのだが、その時は輝きに見合った大きさになっている。

 でも小さいままの魂は、大きな魂の間では目立たないので使命が与えられるはずもなく、輪廻の枠から忘れ去られた形だった。

 それでも他の魂の世話をして徳を上げ、あの子にこの子にと巻き込まれるものだから、磨いた数は前代未聞。とうとう小さいままでも誰の目にも留まるほど、何なら神様のサングラスさえ役に立たないほどの輝きをもってしまった。



 オレを見つけた神様はヘタリと座り込んでうんうんうなって考えた。オレの経歴? を調べて頭を抱える。


 本当だったら数回程度新しい魂になれるほど、いや、神として迎えるべき時すら超えてしまった状態に、途方にくれて悩みに悩む。

 ちなみに広場で魂の世話を任されている神様達より輝きが強いらしい。



 そんな姿に同情されても……。ねえ、オレ、どうしたらいい?とりあえず、生まれたいんだけど。


 小さな魂のオレの望みは単純だ。不老不死、大金持ちに権力者、世にいう願望なんて知らない。純粋無垢な真っ新しい魂なのだから。


 生まれたい。


 腹の底から「おぎゃあ」と泣いて地上の空気を思い切り吸い込む。それだけでいい。 とにかくオレを生まれさせて!




 もっと偉い神様を呼んでこなくては!力なく立ち上がった神様は、これ以上オレがうっかり徳を積んでしまわないように(余計なことをさせないように)小さなオレを抱き上げると、白い服のヒダにオレを押し込んで隠し、絡れる足元の魂達をモノともせずに駆け出した。

 そう、神王様の元に。




「神王様、大変です。とんでもない魂が見つかりました!」

 まるで新種の珍獣よろしく高らかに差し出されたオレを二度見する、この星の最上位の神様。ガックリと肩を落とすと盛大に溜息をついた。


 


   




「信じられない、何やってるのよ! 怠慢、と思われたって文句は言えないわよ。信用ガタ落ち。どうすんのよ。こんな子、うちだって無理よ」


 神王様を叱り飛ばしているのは、どこぞの星の女神様。オレを持て余した神王様が女神様の星でオレを引き取って欲しいと交渉中。どうやらオレの力が強すぎて身体となる器が見つからないので、女神様の星で器を用意してくれないかということだ。


 女神様の星、実は近々天災に見舞われるらしい。それもかなり危険な部類。下手をすると星が丸ごと吹っ飛ぶクラス。当然、そんな天災を阻止するべく使命を持った魂を仕込み、ついでに神王様の星から転移者まで送ってもらって対策をしている。恩を売った星。だからこそのオレの売り込み。


 オレ、いつの間にか厄介者になってる?


「うーん、あの二人のとこならね〜。何とかなる? ちょっとくらい変でも、分かんないかも〜。でも三年よ。天災が起きるまで、たった三年。そりゃ〜上手く行ったら生きながらえるけど。三年後は星はボロボロ、親どころか本人の生死も分からない。確実にどん底よ。そんな運命じゃその魂様に失礼じゃない?」


「構わん、構わん。一度でも生を受ければ何とかなるじゃろう。流石に一度も生を経験させずに神にならせる訳にはいかんじゃろ? まぁ、こんだけ綺麗な魂じゃ。何をしたって上手く行くはず。危機に面しておるお前さんの星には願ったり叶ったりじゃと思うが……。」


「はぁ……。綺麗すぎて運命が読めないから困るのよ。ただでさえ転移者で博打を打とうって時に。でもいいわ。分かった。うちで引き受ける。」

「うん。……最悪、たった三年かもしれないけど、目一杯な幸せを約束してあげる。おいで、綺麗なちびっ子魂君!」


 こうしてオレは、まだ生まれてもいないのによその星で生きることになった。たった三年。されど三年。 確実に幸せが約束されている! 初めての生まれる命にオレは嬉しくてぴょんぴょん跳ね回った。


 こうしてオレはこの星を救うべく勇者一行の一組の夫婦の元に生まれることになった。

 

 女神になりたての若き神が大喜びで作り上げた星。若さゆえの過ちなのか、誕生間もなく巨大隕石の軌道にこの星があることが判明。

 隕石を打ち砕くために大急ぎで魔法を発展させ、カリスマ性を高めるために魔王を創り、それを打ち倒す勇者を誕生させた。それでもまだ力が足りず、他の星から人を呼びわざとらしいまでに魔力を底上げした人物を勇者の仲間に放り込んだ。

 魔法剣士、サチ。地球からの転移者で溢れるほどの魔力と地球らしい発想でこの星の運命を握る。その魔力に心酔し、勇者達を裏から支える努力家の賢者シリウス。オレはその二人の子として生を受けることになる。この星を守るための足枷とならないように、ちょっとだけ発達を早められて。




 ーーごめんなさい。わざとじゃなかったの。小さいのにあんまり綺麗だったから、素敵ねって、羨ましいなって、あなたみたいになりたいなって思ったの。ねえ、どこにいるの?

 小さな青い鳥はもう一度会いたいと広い星と生命の広場を何度も行き交い、あの小さな魂を探すのだった。

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