13話
「ようやく完成したぁ~‼」
計画書の最後の一文字を打ち終えた俺の体は蓄積された疲労のためか、重力に身を任せるように目の前のノートパソコンへと倒れこむ。もうキーボードを打つ力さえ残っていない。
英雄会に潜入してからはや三日。
リーダーと別れた後、無事虎徹大学から抜け出すことに成功した俺は、一切のものに目もくれず、まっすぐ自宅のアパートに帰宅した。
そのまま部屋にこもると、英雄会で獲得した多くの見識を基にして、ひたすらに計画書の練成を繰り返した。
一方で、リーダーからもらった様々な資料を駆使して、瀬名を勧誘するための特殊道具の製作にも身を削る。
そうして三日三晩が経った今、ついに瀬名の期待に応えられるような、綿密且つ壮大な計画書(+アルファ)が完成を迎えたのだった。
のだが、
「うう……頭が痛い……」
寝ずに肉体を酷使し続けたのが仇となったか、体はへとへとなまでに疲弊し、頭はまるではっきりしない。
すべては俺の夢の実現、そしてリーダーとの約束を果たすためと意気込んだためか、この三日間大した睡眠をとることなく、ぶっ続けで作業に勤しんでしまった。
しかし、その甲斐あって完成したこの計画書は、まさに文句のつけようもない完璧なものとまで言える自信がある。
瀬名が指摘、要望した計画実現に至る具体的なプラン、設定の再構成に加えて、たとえオタばれしてでも入りたいと思わせるその他もろもろも当然含めた。
その結果、合計として百ページを優に超える、もはや卒論並みの計画書が完成した。俺が今出せる集大成と言っても良い。
「あとは、瀬名に会えればいいんだけど……」
そんな望みを口にするも、さすがに三徹を敢行した俺の体力は既に限界を迎えていた。
動かない体に鞭を入れてスマホで今の時間を確認する。
全休だし、ガイダンスだからとこの数日間授業に出ていなかった俺だったが、明日、いや、今日の授業からの出席は必須だ。何が何でも大学には出向かなければならない。
さりとて眠気がやばい。その前に少しでも寝られる時間があるだろうか、そう思って画面を見るも、時刻はとうに明け方を迎えてしまっていた。
「もう八時か……二限の用意しなきゃじゃん……」
気づけば既に夜は明けていて、閉め切ったカーテンからは明け方の温かな日の光が差し込んでいる。それすらも気づかないほどに、計画書の作成に集中していたようだ。
しかし、画面に映っていたのはそんな残酷な時間の知らせだけではなかった。
なにやら通知が来ているような節があると思い、朦朧とした頭で再びその画面をのぞき込むと、そこにはこの疲れを吹き飛ばすほどの、まさに福音ともいえるそれがそこにはあった。
今、最も連絡が欲しい相手からのメッセージが。
『明日、校門前、十時半 瀬名小英』
「おおっ‼ しめた、ベストタイミングだ‼」
疲れなどまるで無かったかのように、椅子から勢いよく飛び起きる。
内容が簡潔すぎて分かりにくいが、該当時刻に該当場所に集合という意味だろう。
送信時間は八時間前。つまり、今日の約束に違いない。急いで返信を送って会う約束を取り付けた。
すぐさま出来上がった計画書を印刷してリュックに詰め、同時に登校するための準備にも取り掛かる。
完全に王手に差し掛かった。後は俺の持てる限りの力を使って、瀬名を勧誘するのみ。
だが、そう意気込む一方で、俺はとある不信感にも襲われていた。
その疑念の元凶は、瀬名からのメッセージが届いた、他ならぬそのアプリケーションの存在に尽きる。
「キャンパス? なんだ、このアプリ……」
しかし、この何の変哲もなさそうなアプリを契機として、俺と瀬名の関係が完膚無きまでに叩き壊されることを、このときの俺はまだ知る由もなかった。
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