第4章 『邂逅‼ 龍気体』
14話
「って、ただの連れ授業だったのかよ……」
二限の教室を出て、絶賛廊下を移動中の俺は横で共に移動している瀬名を尻目に、そんな愚痴をこぼす。
俺の横で歩いている瀬名も、そんな俺のぼやきにカチンときたのか、負けじと反論してくる。
「別に、そう文句言うほどじゃないでしょ! たまたま同じ授業とってたのが分かったから、声かけただけなのに、なんでそこまで気落ちしてるのよ!」
そう瀬名は言うものの、そこに至るまでの俺の背景を知れば、この感情はそう簡単に割り切れそうではない。
つい数時間前、約束の時間に校門で瀬名を待っていたのだが、瀬名の要件は単に授業を一緒に受けようという、大学生らしいただの連絡というオチだった。
一応聞いてみたのだが、俺の計画に協力する気は今のところさらさらないようで、本当にただ誘ってみただけとのこと。変に期待した自分が情けない。
とは言え、それならこの改良に改良を重ねた計画書Ⅱで彼女の興味を引こうと画策したのが瀬名はそれすらも許してくれなかった。なぜなら……
「だってあんた、特撮の話題出しちゃダメっていうじゃん……」
「当たり前でしょ、バレたくないんだもん」
まさかの全力オタばれ回避でそれも防がれる。
彼女のオタばれ厳守がここまでのものとは完全に想像不足で、それを告げられてからと言うもの、打つ手なしの俺はすっかり意気消沈だ。
結果、現在に至るまで俺は瀬名の横でまるで地蔵状態を貫いている。
そんな俺の態度に嫌気がさしたのか、瀬名はここぞとばかりに俺を責めたてる。
「特撮以外だって話す内容はいくらでもあるのに、それがダメってなった途端になんで黙っちゃうのよ、君は!」
「あのなぁ、こっちはもう一度誘う気満々であんたに会いに来たんだよ‼ それどころか、特撮まで話せないんじゃ、話す内容選ぶだろ⁉」
だが、俺が沈黙を貫いていたのはそれだけではない。
その訳には俺ではなく、瀬名の方に非があるといっても過言ではないだろう。
「それにあんた、すぐ他の学生に声かけられるから、話すタイミングが難しいの‼ 教室でも知り合い居たんだし、俺を誘う意味あったのか?」
「昔からの付き合いだから、無視するわけにもいかないでしょ。彼女達と話してボロが出るのも嫌だし、もろもろ考えても八神君が一番安泰よ」
「都合の良い男扱いしやがってぇ……‼」
勝手に世間話を話すボットとでも勘違いしているかの様子の瀬名に多少の憤りを感じる。
だが、そんな会話の中でふと気になる点があったのを思い出した。
「そういえば、一つ疑問なんだけど、あんたどうやって俺の連絡先知ったんだよ? それに、俺の履修もどこで知ったんだ?」
だが、俺がそんな些細な疑問を口にすると、瀬名はハッとした顔をしてその歩みを止めた。俺もつられて立ち止まる。
そうしてその驚きに満ちた目を俺に向けながら、瀬名は恐る恐る俺に確認を求めた。
「もしかして、八神君……キャンパス、使ってないの……?」
「あぁ、やっぱりキャンパスで読み方合ってたのか」
読み方が正しかったことに俺が安堵する傍ら、瀬名の方は呆れた顔で俺に大きなため息を吐いていた。
一方でこれまで見られた俺の蛮勇にどこか納得しているかのような表情も見受けられる。
「はぁ……君、本当に何も知らないのね。そんなに無知なら、龍法で特撮サークル作ろうとする気概も何となく理解できる気がするわ……」
「そう言われると、なんか誇らしいな……」
「別に褒めてないわよ……」
照れながら頬をかく俺に、有無を言わさない速さで瀬名のツッコミが入る。
そうして、止めた歩みを再開しながら、瀬名はその詳細について語りだした。
「キャンパスって言うのは龍法大公認の時間割アプリのこと。ある学生団体が配信してるアプリで、要は他の学生の履修がどんなものかが分かるようになってるのよ」
「えぇ⁉ 何その便利なアプリ⁉ 俺知らなかったんだけど……?」
革命的なアプリの存在に驚嘆すると同時に、それまで謎だった大学生の生態に少しヒントが与えられた気がする。
どうりで一緒の授業を取っている連中が多いわけだ。やけに連れで受けているなぁとは思っていたが、まさかそんな裏技があったとは。驚嘆と共に納得もする。
「知らないも何も、入学書類が届いたときに半ば強制的にインストールするよう指示があったはずなんだけど……スマホに入ってたってことは、八神君も一応は入れてたのよ。その存在を忘れてただけで」
「マジかー……虎徹大落ちた後の記憶って曖昧になってるからなぁ……」
そう言われて半年前の記憶を辿ってみるも、三月の一切の記憶が無いことに今気付いた。
四月からの記憶は入学式や新歓等、色々と覚えているのだが、虎徹大に落ちたことが分かった二月の後半から三月にかけての記憶に関しては驚くほど思い出すことができない。
おそらく、トラウマとして認識した無意識がシャットアウトしているのだろう。
しかし、キャンパスは確かに便利なアプリではあるのだが、冷静に考えてみたらそれは俺にとってあってないようなもののように思える。
何せ、今まで苦労したとはいえ、大学生活が別に大変だったというわけでもないのだから。
「んー 確かに便利かもしれないけど、知り合いの少ない俺からすれば、それほど必要ってわけでもないな。他には目新しい機能とか無いのか?」
「他には各授業の難易度とか定期テストの過去問とかも見れるし、トークの機能を使えばDM飛ばしてテキストの売買なんかもできたりするわね。後は龍法大学内のタイムライン投稿とか、基本的に他のSNSができることは大体できるわよ」
「んー……まぁ、便利っちゃ便利だけど……」
キャンパスに備えられている時間割以外の様々な機能について話を聞くが、俺にとってはどれもパッとしないものばかり。
だが、そんな中でもタイムラインの投稿と言う点に、俺はある可能性を感じる。
「ん、でも待てよ? キャンパスのタイムラインに特撮好きな奴って投稿すれば、仲間集まるんじゃないか?」
何かを成し遂げるにあたって、広告と言う媒体は最大の武器になりうる。
俺が愛するかの特撮作品ですら、今ではその関連玩具の販売のためのプロモーションに過ぎない。手段と目的が置き換えられるほどに、広告に秘められた力は膨大なものだ。
それに、外部生の星ともいえる瀬名が特撮オタクなのならば、他にも特撮に精通している留龍法生がいても何らおかしくはないだろう。
そう思って、進言してみたのだが……
肝心の瀬名はどうも俺の提案に乗り気ではないようで、その口調はどうも重い。
「まぁ、できなくはないけど……止めといたほうが良いわよ」
「えぇ⁉ なんでだよ! 効率良いじゃん!」
そう熱弁するも、瀬名はいまだ暗い表情のままだ。
まるでキャンパスには何か不都合なことがあるかのように、頑なに俺にキャンパスを勧めようとしない。
「知らないなら、そのままの方が多分幸せよ。真実が必ずしも幸せとは限らないからね」
「なんだよ、いきなり……」
いつになく合理的ではないことを言う瀬名に何とも言えない不信感を抱くも、逆にそれが俺の直感を刺激した。
見識深い瀬名の忠告だ。理解はできずとも、ここは飲み込んだ方が良いのかもしれない。
そう納得して諦めようとした途端、俺はある妙案を思いついた。
このキャンパスに無知であるという事を口実にすれば、瀬名と一対一で話すチャンスになるのではないだろうか。
「そうだ‼ なら、俺にキャンパスの使い方教えてくれよ‼ ちょうど今、昼飯時だしさ、一緒に昼ごはんでも食べながら、さ?」
「えぇ……さっき教えたくないって言ったばかりなんだけど……」
露骨に嫌な顔をされるも、キャンパスが目的では無い俺にはそんな対応、屁でもない。
席について、いざ学食を食べるという状況になったら最後、嫌でも俺の計画に耳を貸すしかなくなるはずだ。
「頼むよー ほら、今日授業付き合ってあげたじゃん? その貸しを返すっていうかさ」
そう言って、俺は今日のことも引き合いに出す。法学部で不条理が嫌いな瀬名のことならば、なおさら断りづらい状況だろう。
そもそも、あんなに分厚い計画書に加えて、それを補強するための様々な小道具を持ってきてというのに、むざむざ帰ってやるわけにもいかない。
だが、瀬名はそんな俺の目論みを見据えたのか、
「あぁ……そういう事ね……」
と独り言を口にすると、
「でも、そうね。借りを作りっぱなしは癪に触るから、今回は八神君に合わせてあげてもいいわ。どうせ食堂行くつもりだったし、物のついでってやつ」
「うっしゃ‼ それじゃ、とっとと食堂に……って、すぐ食堂なのね……」
俺たちが適当に歩いていた方向は偶然にも食堂だったようで、それは俺たちの目と鼻の先に存在していた。
外からでも見て分かるほどに、中は人、人、人でごった返している。
完全に昼食時だからとは言え、その人混みの多さにはどうも気が滅入りそうだ。
「うわぁ……かなり混んできてるなぁ……」
「そうはいっても、空いてないってわけでもないでしょ。ほら、あそこでいいんじゃない?」
そう言って瀬名が指さしたのは食堂奥の、それも端も端の場所だった。ピンポイントでそこを選んだ理由に少し疑問が残る。
「いいけど、わざわざ端まで行くか? 他もちらほら空いてるけど……」
「だって、キャンパス知りたいってのはどうせただの口実でしょ? 元より興味なさそうだったし、それに顔に書いてあるわよ、私をあなたの計画に勧誘したいって」
「えぇ……なんでバレてるの……?」
俺の頭の隅から隅を見透かされていたようで、背筋が凍った。
しかし、となるとなぜ引き受けてくれたのかが少々不可解だが、それは瀬名なりの筋の通し方というものらしい。
「あくまで借りを返すだけ。特サーに入る気なんて更々ないけど、話だけは聞いてあげるわ」
「生意気言いやがってぇ……その言葉後悔させてやるよ……‼」
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