第3章 『潜入‼ 英雄会』
8話
「懐かしいな……」
龍法を出て、数十分。田吉駅からは環状線のほぼ反対に位置する駅で下車した俺は、そこから徒歩およそ十五分ほどの距離を歩いて、ようやく虎徹大学へと到着した。
俺の目前には、今ではもはや懐かしいとまで言えるそのキャンパス群が広がっている。
半年前、持てる力すべてを出し尽くして挑み、そして敢え無く敗れてしまった虎徹大学。
受験に落ちた場所であるとともに、英雄会との出会いでもあるそんな虎徹大を再びこの目にして、俺は一人複雑な感情を抱いていた。
龍法大が昔ながらの赤レンガ造りの校舎が多いのに対し、虎徹大はと言うと何層にも連なる巨大なビル群や全面ガラス張りの校舎が目を引く、先進的なデザインが有名だ。
まさに校風である文化と革新を如実に表していると言えるだろう。
だが、わざわざ感傷に浸りに来たわけではない。
本来の目的遂行のため、キャンパス内に入構すると、どこも見るからに熱気にあふれており、日曜とは思えないほどの大盛況を誇っていた。来月の学祭準備をしている龍法大学の連中よりも、その熱量はすさまじい。
だが、その理由に関しては構内掲示板に張り出されてあったあるポスターですぐに判明した。
「そっか、龍虎戦って今月だっけか……」
龍虎戦、それは犬猿の仲である虎徹大と龍法大の両大学が毎年、春と秋の年二回に開催するスポーツの対抗戦だ。ポスターを見る限り、今回はラグビーで覇を競い合うようである。
普通、こういった大会は数十ほどの大学で開くものだが、一対一の対決の場をわざわざ整えるほどに龍虎の因縁は深い。
発端は、大学開校時のお互いの創設者の意見の相違だったと伝えられている。
虎徹大の創設者は学問を万人に与えようとして、系列校を作らずに内部生無しの一般入試の姿勢をとったようだ。
一方の龍法大の創設者はその逆、世界に通用する類いまれなる人材育成のための系列校を作り、中高一貫の独自カリキュラムを施した内部生のみを入学させる姿勢をとったらしい。
もともと共同して一つの大学を作るはずの彼らだったが、そんな意見の食い違いからお互いの仲は絶縁、挙句互いの大学をけなしりあう関係にまで至り、龍虎の対立が生まれたそうだ。
そしておよそ百年以上が経った今でも、その軋轢はいまだ健在している。例えば、倍率は高いが総偏差値では劣る龍法大とその逆の虎徹大ではどちらが勝っているか等々。
ただ、今日の朝見たように、うちの龍法大はそこまで龍虎戦に固執しているわけでもないのだが、虎徹大ではそうはいかないようだ。
そんな龍虎の確執を表すように、虎徹大の学生たちは妥当龍法と言わんばかりの勢いで一致団結を組んでいる。
「龍法の奴らなんかに負けてたまるかよぉ‼」
「そうだ、そうだ‼ 親が金持ちだっただけの坊ちゃんに俺らが負けるはずねぇ‼」
「金持ちの内部生がしゃしゃりやがって‼」
いいぞ、もっと言え‼ 心の中でそう言いながら俺も龍法批判に加勢するも、ふと我に返って、ここに来た本来の目的を思い出した。
「って違う、違う……英雄会の観察に来たってのに……」
俺がここに来た目的、それはロー・テクター実現のための第一歩として、瀬名を勧誘するための綿密な計画づくりに他ならない。
その参考として、英雄会が一体何を行ってヒーローを作っているのかを盗み聞き……ではなく、あくまでオマージュさせていただこうと考えたわけだ。
だが、学祭や入試で虎徹大に来たことはあっても、肝心の英雄会の活動場所はどこを探しても見当たらなかった。
それっぽい部室棟にも足を運んでみたが、収穫はゼロだ。
歩き疲れて途方に暮れる俺だったが、そんな俺の耳に、突如として爆音が聞こえてくる。
「うおっ⁉ 何だ、今の音⁉」
音のした方へ行ってみる。どこかで聞いたようなその音に誘われるまま、キャンパスの奥の方へと走ってみると、そこにはまるで体育館のような巨大施設が置かれてあった。
入り口に近づいてみると、その付近には大きな看板があり、三つのアルファベットの大文字が書かれてあった。後にも文字が書かれてあったようだが、俺にはそれで充分だった。
「SFX……間違いない、特撮だ‼」
わざわざその名称を使うあたり、洒落た連中然り、特撮にずいぶん詳しいと思える。間違いない、ここが英雄会の総本山だ。
入口も微妙に空いている。スパイのような身分で堂々と入るのは忍びないため、何とか隙間からのぞきこめるかと四苦八苦するも無理そう、というより無駄だった。
他に入り込める場所はないか、そう考えて別の出入口を探そうと画策するも、後ろから突然声をかけられる。
「こんにちは! 入会希望者ですか?」
「ひゃ⁉ ひゃい⁉」
しまった。覗くのに夢中で後ろに注意を向けていなかったために、驚きのあまり、つい変な声が出てしまう。
声をかけてくれた学生の方も、見るからに俺のことを不審がっている様子だ。
「そ、そんな驚かなくても……とって喰おうってわけじゃないんだから……」
「いや、ごめん、ごめん。いきなり声かけられたから、つい……」
「でも、わざわざここまで来たってことは入会希望だよね? 英雄会の。名前と学年は?」
こうなったら作戦変更。盗み聞きではなく、潜入捜査に舵を切ろう。
「え~と……名前は八神英路、学年は一年生で、学部は文学部。英雄会に興味あってこっちに来たというか……」
騙しているみたいで良心が痛む。嘘はついていないだけ、まだセーフだろうか。
しかし、そんな俺の裏事情など知らないその学生は本当の入会希望者だと信じてくれたようで、喜々とした顔で俺を迎えてくれた。
「やっぱりそうだ‼ 僕は英雄会の一年生を総括する一年リーダー。同じ一年だからタメでいいよ」
「おぉ、一年リーダー……‼」
リーダーというカッコいい肩書にどこか羨ましさを感じる。俺も虎徹大に受かっていたら、そうあれたのだろうかと意味のないタラレバを考えてしまった。
「入会するかはさておいて、とりあえずホール内を案内するから、僕についてきてよ!」
そう言って、一年代表は俺が開けるのを渋っていたホールの入り口を軽々と開く。
ただ、まだそこは本当にただの入り口だったようで英雄会らしき施設はどこにもない。どこからか、いろいろな作業音がするだけだ。
「二階からホールの全体が見えるから、そこで色々説明するねー」
そんな彼の言葉につられるまま、俺も階段を上って二階へと上がる。
そうして、ホール全体を見回せる二階もとい観客席に移動すると、そこに広がった光景に俺は唖然とした。
「すげぇ……‼ これが英雄会……‼」
「そう、虎徹大学公認学生団体、英雄会。その全てがここ、特撮研究所で行われてるんだ‼」
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