第29話 煌冷香の煌びやかな人生がやってきた。のかな??ん?
「煌ちゃんっ!ここだよ!」
「あ、郁美ちゃん!!」
夕方。学校帰りに川辺で待ち合わせた2人。沈みかけの夕陽が真っ赤に萌える中、野球を終えた少年達が帰宅する姿を遠くに見守りながら歩く。端から見れば友達にしか見えない2人。確かに友達だけど、今日こそその関係性を変えたい郁美の表情には強い決意が見えた。
「どうする?どこかにスイーツを食べに行く?」
「ううん。郁美ちゃん。私、ちょっとダイエットをしようと思って。」
「え、煌ちゃん。そんなことしなくても十分かわいいのに、、」
「そう言ってくれるのは郁美ちゃんだけよ。クラスのお友達だって痩せろというもの。」
私以外、煌ちゃんの魅力がわからないのかと言いたげな顔で、郁美は煌冷香の温かそうな手を見つめた。そして、そっとその手を握りしめた。
「郁美ちゃん?」
「ここは砂利道だから。転ばないように手を繋いでよう。」
「そうね。どうもありがとう。郁美ちゃんは先見の明があるのね。」
煌冷香は、どこか寂しげな顔をしていた。その理由は、もっとしつこくスイーツを食べに行こうと誘って欲しかったからだ。断り切れない形でなら行きたかった。
しかし、郁美には違う理由に見えたんだ。いや、そう思いたかった。
「煌ちゃん、、それで、イタリア行きの話はちゃんと断れたの?」
「それがね、さすがに一人暮らしする上手い言い訳が思いつかないのよ。一層のこと、諦めて行ってしまおうかと。。」
「そんなっ!!諦めないでよ!!日本にいたいのでしょう!?」
「うーん、どちらかと言えばイタリアに行きたいのだけど、ちょっと訳があって。」
郁美はショックだった。どちらかと言えばイタリアに行きたいって?私が居るのに、離れたくないという気持ちなど、この子にはないのかもしれない。そう考えると言葉にならない感情に胸を締め付けられた。そして、ちょうど歩く先に見つけたベンチに腰を下ろそうと提案し、煌冷香を座らせた。
「ここでお話しするの?」*飲み物とお菓子を持ってくれば良かったと後悔している煌ちゃん。
「うん。少しだけここで。」*切なくて泣きそうな郁美。
「わかったわ。」*自動販売機を探してキョロキョロする煌ちゃん。
「煌ちゃん。今日は大事な話がしたいんだよ。」*お願い、行かないでと切羽詰まっている郁美。
「うん。なんでもお話しして?」*鞄の中に食べ損ねたお菓子が奇跡的にないか探す煌ちゃん。
郁美は思いきって告げた。今の正直な気持ちを。
「煌ちゃん。わがままなのはわかってる。でも・・・行って欲しくないよ。そばにいたい。だって、、好きだから。煌ちゃんの気持ちは?少しでも私と同じ気持ちはある?」
煌冷香は今の正直な気持ちを漏らした。
「ない・・・。」オカシ・・・
「え?」*煌ちゃんの言葉が信じられない郁美。
「ん?」*お菓子がないことが信じられない煌ちゃん。
しかし、郁美は諦めなかった。*煌ちゃんはお菓子を諦めた。
「ねぇ、煌ちゃん。まだ私のことを振らないで欲しい。もっと私のことを知って、その上でダメなら諦めるから。」
「ふ、振るっ!?それって、私が郁美ちゃんを振るってこと?」
「何度でも言うよ。私は煌ちゃんと付き合いたい。好きなんだよ。」
「なんですって!?」*初めて聞いたような口ぶりの煌ちゃん。
「付き合おうよ。もしも嫌になったら、、その時は振ってくれて良いから。」
「試験期間と言うことですか!?れ、レベルが高すぎます!!それは通常ある恋愛の仕方なのでしょうか!!??」
「いや、、お試しで付き合うというのは、、そうあることではないと思うけど。でも、今好きじゃないからといってこれから好きにならないとは限らないでしょう?チャンスが欲しいよ。」
「今好きじゃないなんて、そんなわけない!」
「じゃあ、、」
夕陽が沈み、煌冷香の顔を影が覆った。数秒の間、、煌冷香は自分の想いを整理すると、ポツポツと話し始めたのだ。
「私は、今までに恋をしたことがないの。だから、この好きが郁美ちゃんの言う好きと同じかはわからない。」
「だからこそ、確かめて欲しい。煌ちゃん、、」
「あのね、考えてみたの。その、、郁美ちゃんと、、いや。私が誰かと、、その、貴、キスをするとか、、そういうことを。」
「うん、それで?」
「考えただけで、顔が熱くなってしまったわ。そんな事が起きたら、血圧が上昇して倒れてしまうかもしれない。」
「そ、それは・・・。なら、ゆっくり時間をかけて慣れていけば・・・。」
煌冷香はベンチから立ち上がると、しっかりと郁美に向き合った。その姿はまるで、川辺の見守り地蔵。そう、穏やかな慈愛に満ちた顔だったんだ。
「どのみち、私はイタリアに行ってしまうかもしれない。だから少しお待ちくださいませ。あと一度だけ、思い切り知恵を絞って抗って見せます。そして、日本にとどまれるとなったあかつきには、お答えします。必ず。」
「煌ちゃん・・・。」ナンテコウゴウシイカオダ・・・
煌冷香は、そっと郁美の両手に自分の両手を添えた。そして、ニッコリと微笑み、「やっぱりあんみつを食べに行こう。」とその手を引いた。
郁美の心の声
(煌ちゃん。お願い、この手をどうか・・・離さないで・・・。)
煌冷香の煌びやかな恋が今、、始まり欠けていた。*誤字ではありません。
続く。
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