第30話 ついに煌ちゃんがヒロインの恋愛ドラマが始まりそうな予感がしそうな予感がしそうな予感

 始まりかけた郁美との恋。その恋が危ぶまれる自身のイタリア行きについて。この2つの悩みに答えが出せないまま、2週間が過ぎていた煌冷香。そのストレスは煌冷香の食欲に大きな影響を与えていたのだ。思春期突入の煌ちゃん、、ホルモンバランスの乱れにより食べ盛りとなっていた。


「病院で再検査して下さいね。」


「な、今…なんとおっしゃいましたの!?」


 学校での健康診断の結果が配られると、煌冷香は保健室の先生に呼び出された。ちなみに保健室の先生…養護教員の幸子・マクレガーは米国と日本のハーフである。くっきりとした顔立ちで(特に胸に)迫力のある30代の女性だ。煌冷香にとって、この学園で1番のお気に入りの先生である。


「貴女の年齢でこのコレステロール値は異常です。薬を飲んで治療することになりそうね。」


「そ、そんな…。そんなことが両親に知られたら、私はイタリアに連れて行かれて、美味しいものを見ながら指をくわえるえせオーガニック美人になってしまいます!」


「その方が貴女のためかもしれませんね。」


「そんなぁ…。先生っ、私がもしも自分で痩せる事が出来たなら、病院に行かなくても済みますでしょうか?」


「痩せると言っても、数値を正常にするなら15キロは痩せないと。それでも再検査はしないとね。数値が下がっていれば何も問題ないのですから。」


 なんということでしょう、郁美ちゃん。貴女の気持ちに真摯に向き合い、イタリア行きを阻止したかったはずなのに、私は煩悩に支配されていたなんて。思い当たることも多すぎるわ。お米が美味しすぎるのよ…、麺が輝いて見えるのよ…。


「わかりました、、私、痩せます!先生っ!決して楽な道ではありませんが、歴代偉人を輩出した西園寺の家に生まれたからには、そのくらいやり遂げてみせます!」


「とりあえず…、激しいダイエットは体に悪いから、」


「では!ごきげんよう!ありがとうございました!」


「あ、ちょっと!お待ちなさい!」


 煌冷香は保健室を飛び出した。その目には薄っすらと涙が滲んでいた。大好きな幸子先生に悟られまいと飛び出してきたは良いが、逆にあの豊満な胸に飛び込み、ふかふかと慰めてもらえば良かったと後悔していた。


 そんな自身の潜在的な女好きを自覚することなく、放課後になると、煌冷香は習慣となっていた間食するための寄り道をせずに、まっすぐ帰宅すると自室にこもった。


「モイラ様…。私はなんて愚かなのでしょう。せっかく貴女たちが未来を案じて知らせてくれたというのに…。いつの間にか庶民の食べ物に夢中になり、未来を変える努力をしなかった。恐るべし商人の巧みな商戦技術、、」


 煌冷香はモイラの絵の前でひとしきり泣くと、持ち前の知能を活かして計画を立て始めた。IQ140の頭脳を持つ煌ちゃん。ナ、ナンバース…カタカタカタ…チーン


「優先するべきは健康!それには体重を減らしコレステロールを減らせば良いのね!ならば相対性理論から弾き出して…スタッフ細胞を培養し、インフレーション理論によれば…えっと年齢と身長と体重を入力して…ぶつぶつぶつ…」


 煌冷香が数時間で複雑な計算式をPCに打ち込むと、それはアルゴリズムにかけられ、AIによってなんかすごいことになっていた。ピーガタガタガタシャキーン


「よし、明日の朝には人類史上最も効率の良いダイエットスケジュールが出来上がる。2つ目に優先することはっと……。うん、イタリア行きの阻止ね゙。これは難しいわ。ううん、私なら出来る。ダディの天才的な頭脳を受け継いだこの私なら!」


 本気を出した煌冷香は凄かった。瞬く間に日本に留まれる方法案を思いつく限り書き出すこと、その数は百に近かった。


「うーん、この中から…そうね…。この3つが有力かしら。もつ鍋屋を開くというのはなぜ思いついたのかしら。食べたかったからね…。」


 もつ鍋屋を開店してしまえば日本に留まるしかない。そんな案を黒く塗りつぶすと、自分でも根を詰めすぎていることに気づいた。空腹すら感じなかったのだから。


「少し気晴らしに…走ってきましょう。1時間走れば300グラムは痩せるはずよ!あの日食べたステーキがなかったことになるわ!」


 煌冷香はすでに暗くなった道を走りながら、いつしか持ち前の前向きだを取り戻していた。無駄に悩んでも仕方がない。一つずつ地道に解決していくしかない。いつしか高台にある公園の長い階段を登り切っていた。高台から見下ろせる一面の明かりの灯る街は煌冷香にとって我が城下町であった。


 

「よし。決めた。郁美ちゃんとお付き合いしましょう。初めての社交パーティーで踊った相手の名前など覚えていないわ。初めての恋だってそのくらい淡いものかもしれないし。恋というダンスもきっと相性があるに違いないわ。踊ってみないことには始まらない!!さぁ、オーケーストラよ!!音楽を聴かせて!!」


 上下ジャージに首からタオルをかけた西園寺家の令嬢は、汗だくで恋のヒロインになることを決めたのだった。ちょっと恋を甘くみた感じで。。



 続く。


 

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