第28話 煌ちゃんを甘やかしたい無自覚な悪魔の誘惑、郁美。

 笹島郁美。高校一年生。普通の高校に通う普通の女の子だ。しかし、郁美を普通だと思っているのは本人だけだったんだ。。


「郁ちゃん。ちょっと話せない?」

「え?あ・・・恭子。」


 放課後。部活に行く前に教室で準備をしていると、つい最近まで付き合っていた恭子に声をかけられた。郁美は、またかと内心、恭子に引き気味だった。なぜなら別れてからずっと、復縁を迫られているからだ。


「ごめん。部活に行かないとだから。あと、よりを戻すのは無理だよ。」

「なんで!もう束縛しないって言ったじゃん。束縛したのだって、郁ちゃんが悪いのもあるんだよ!?」

「・・・私は悪くないよ。私はただ普通に、友達と仲良くしたいだけ。」

「でもっ、向こうはただの友達って思ってないよ!私はただっ、、」

「ごめん。もう行くね。恭子には私よりもっと良い人がいるよ。。」


 このやりとりは何度もしたんだ。今更、何かが変わるわけではない。誰にでも人柄が良く、まして容姿でも人目を惹く郁美は人気があった。だからといって、恭子を裏切るような気持ちはなかった。付き合いたての頃は恭子をなだめもしたが、四六時中、友達付き合いについて厳しく干渉されたのは郁美にとっても辛かったのだ。


「待って。もう一度、付き合ってみてダメなら諦めるから!」

「ごめん。それに私、今好きな人がいるんだよ。」

「え・・・。だ、誰?この学校の人?」


 別れてまだそんなに経っていないというのに、他に好きな人が出来たと知らされた恭子は、突然のことに驚きを隠せなかった。だから心配だったんだ。この学校の友達に違いないと、、だから私は心配だったんだと泣きそうになった。


「違うよ。この学校の人じゃない。もう行くね。ごめんね。」


 返事を待たずに、教室を出た郁美。これ以上話せば、余計に恭子を傷つけてしまうかもしれない。それに、好きな人を教えたくない。なぜならその好きな人は、恭子から紹介された恭子の友達である煌冷香なのだから。


(まさか、私が煌ちゃんと会ってるなんて、思わないだろうな。煌ちゃんが悪いように思われないためにも、内緒にしておきたい。)


 このところ、郁美は部活を休んででも煌冷香と放課後デートを楽しんでいた。あまり休みすぎてはいけないと、今日は部活に出ることにした。でも本当は、少しでも煌冷香に会いたい。


 あのかわいい笑顔が見たい。美味しそうにご飯を食べる純粋な煌ちゃん。ものすごくかわいい。教養があって品がある。いつだって前向きで、色んなことに興味がある人だ。そして何より、あのぽっちゃりしたところがかわいい。


「ああ、煌ちゃん。最近、美味しそうな食べものを見つける度に、煌ちゃんに食べさせてあげたいって思うんだよ。。」


 郁美は部室で思わず叫びそうになった。


 全力で・・・甘やかしたいっ!!煌ちゃん!!


 そう。この恋は煌冷香にとって麻薬だった。こいつと付き合えば、確実にダイエットは頓挫する。そしてその未来は、、モイラが見せたあの、衝撃の未来なんだ。今、煌ちゃんは大きな人生の岐路に立たされていた。甘美な恋と食べものを選ぶのか、不幸な未来を変えるのか。。


 続く。

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