第27話 鈍感系主人公という職業に就いた煌ちゃん

 ついに煌冷香が母親とイタリアに移り住む日が一ヶ月を切ったある日。当たり前となった放課後デートをしていた煌冷香と郁美。


「で、まだお母さんは説得できていないの?」

「うん。そうなの。良策思いつかずよ。このまま一度、イタリアに行ってみるのも良いかと思って。。」


 煌冷香は母親を説得する方法が思いつかなかった。次々に母親は、イタリアで煌冷香が通う学校を決め、荷造りを始めている。


「この家は帰国したときのためにそのままにしておくのよ。必要な物はあちらに行ってから揃えれば良いわ。」

「わかりました、マミー。」


 この家がそのままと聞いて、ここで一人暮らしができるかもしれないと淡い期待をしていた。だが、まだ高校生の煌冷香を日本に残して行くような両親ではない。うつむきながらも、イタリアに移り住むことに覚悟が決まりつつある煌冷香を見て、郁美は焦りを感じた。


「煌ちゃん。ちょっとヘラを置いて、話を聞いてくれる?」

「なぁに?郁美ちゃん。でも、焦げちゃうよ?」


 二人は行列の出来るお好み焼きやさんで、チーズ明太もんじゃを焼いていた。初めて郁美がここに連れてきてくれた以来、煌冷香はもんじゃ焼きのとりこになっていた。神妙な顔つきで煌冷香に話そうとする郁美。できれば話ながら食べ続けさせて欲しい煌冷香。郁美はクスッと笑った。


「私は、、煌ちゃんのそういう所が好きなんだよ。」

「??どういうところ?あ、お餅の塊発見(´。✪ω✪。`)✧*。」

「オプションでお餅をダブルにしておいたんだ!」

「そうなの?私も郁美ちゃんのそういう所が好きよ!」


 少し目を大きく見開いた郁美。煌冷香からの好きという言葉に、決意を固めた。


「煌ちゃん。私は煌ちゃんが好き。」

「ありがとう。私も郁美ちゃんがだーいすき。」

「あのね、私の好きは、煌ちゃんと恋人になりたい好きだよ。煌ちゃんの好きは友達として?」


 小ベラでもんじゃ焼きを器用にこそぎながら、郁美の言葉を明晰な頭脳で分析する煌冷香。好きの違い??恋人?友達?チーズ明太もんじゃ?*分析しきれなかった煌ちゃん。


「・・・もんじゃ焼きが好き。郁美ちゃんも好き。好きの違い??」

「煌ちゃん。煌ちゃんは、私と居ると楽しい?私はすごく楽しくて、ずっと一緒に居たいと思うよ。」

「うん、私も郁美ちゃんとたくさん遊びたい。とっても楽しいよ?」

「・・・じゃあ、他の誰かにとられたくないとか、、き、キスをしたいとかは?」

「えっ!!!???き、キスですか!?日本では挨拶でキスをしないと教わりましたが!」

「確かに、海外では挨拶でするけど、日本ではしないね。えっと、でも恋人とはするでしょ?」

「む、難しい質問ですね、、今私の頭の中はこのもんじゃ焼きのようにぐちゃぐちゃです。」

「煌ちゃん、、もしかして、今までに恋をしたことは?」

「恋・・・。郁美ちゃん。よくぞ聞いてくれました。それこそ、何度と試験で学年一位をとっても、今だわからない未知。。そして私はある人に、恋で失敗しやすいと言われたことがあるの。」


 ある人とは誰なのか、煌冷香は郁美に言えなかった。絵の中から現れた女神といえば、笑われるだろうと思ったからだ。


「それはきっと、まだ煌ちゃんが恋を知らないからじゃないかな。心配してくれたんだね。」

「そうなの。でも好きの違いって、よくわからないわ?」

「うーん、誰よりも1番好きで、その人のことを考えると心が温かくなる。そんな感じかな?」


 煌冷香は頭の中で、自分にそういう相手がいるか考えてみた。ダディ、マミー、世界で1番好きね。モイラも大好き。特別よ。あ、


「郁美ちゃんも1番好きだし、考えると温かく感じるかも。」

「本当!?じゃあ、付き合って下さい!」

「もちろん。いつでもお付き合いします!次はどこへ!!??」

「煌ちゃん、、食べ歩きのことじゃないよ。。恋人になって欲しいって意味だよ、、」


 この時、煌冷香の頭の中には、イッツァスモールワールドの世界が繰り広がった。世界中の人がニッコリと笑って踊っていた。あ、兵隊さん…。ウフフ


 このあと、郁美とどんな話をして、いつ家に戻ったのか、煌冷香はまったく覚えていなかった。


「はっ!!??寝てる!私、ベッドで寝てる!!」


 イッツァスモールワールドから戻って来られたのはその日の就寝するときであった。


「え?ええ?恋人って、恋人のことですか!!??」


 日本の漫画界には、鈍感系主人公という枠があり、とてつもなく人気な職業だ。煌冷香ほど、その職業に適した類い希なる才能の持ち主はいなかった。


「なるほど!モイラが言っていた、近日中に私が恋をする相手は郁美ちゃんだったのね!そっか、なるほど!!見つけました!!」


 恋の相手を見つけた喜びで、ものすごい満足感を得た煌冷香。謎が解けたことでサイダーを一気飲みしたみたいにスッキリしたのだった。


「良かった!あー、わかったらすっごくスッキリして眠くなってきた!よく寝られそう!!」


 ニッコリと笑い、数秒後には眠りに落ちていた煌ちゃんだった。



 続く

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