第26話 コアなファンが多かった煌ちゃん

 笹島郁美。高校一年生。

 バスケ部に所属し、スラッと背が高い。髪の毛はショートカット。つり目の綺麗な顔立ちをしている。かわいいよりはかっこいいと言われるタイプだ。


 中学のバスケ部では、非公式の自称ファンクラブみたいな後輩たちから人気だった。しかし、郁美は甘えられるより甘えたい性格だった。高校に入ってすぐに、煌冷香の友達である恭子と同じクラスになり、世話焼きの恭子と付き合うようになった。恭子とは半年付き合った。世話焼きの恭子だったはずが、次第に口うるさくなってきたので喧嘩別れしていた。


 煌冷香とは、恭子を介して知り合った。その時の衝撃を郁美は今でも強烈に覚えている。


(あの時、私は恭子の隣で静かにしているしか出来なかったけど、、煌冷香ちゃんのかわいさに、心底驚いたんだ。薄い茶色の髪は、光に当たるとピンクにも見えた。私とは対照的に、守ってあげたくなるような可愛らしいあどけない顔。少し天然っぽい性格。お嬢様らしいなって思った。あの時はただそれだけだった。


 だけど、久しぶりに会った煌ちゃんは、、思いっきりぽっちゃりしていた・・・。え、久しぶりとは言え、数ヶ月だよ?その変わり様はなに??って思ったよね。まぁ、言わなかったけど。。でも、朗らかで裏のない煌ちゃんの瞳はそのままだった。そして、そして、、)


「・・・めっっっっっちゃ、、癒やされる。。あの、ふにゃんとした雰囲気。スライムスマイル!!ああ、好き。。抱きついて甘えたいっ!!」


 郁美はぽっちゃりしてからの煌ちゃんに恋心を抱いていたのだった。


 この玄人感溢れる郁美の性癖に、煌冷香のような恋愛に疎いタイプが上手く付き合えるのだろうか。しかし、モイラが預言した煌冷香の恋は郁美のことに違いなかった。なぜなら、郁美はぽっちゃりした煌冷香が好きだ。痩せて欲しいなど思ってもいない。むしろ、沢山食べる君が好きモードだ。つまり、


「郁美ちゃんと付き合うなら、貴方はダイエットできないわ、、煌ちゃん。」


 3人の女神、モイラは、煌冷香の前に現れはしなかったが、モイラのいるべき世界では煌冷香をちゃんと見守っていた。


 モイラの1人、アトロポスは以前、煌冷香に「庶民の感覚を知るために庶民の小学校へ通いなさい」と告げに来た。次に現れたのはラケシス。「イタリアには行かずに日本で恋をしなさい」と告げた。あと1人、クロートーはまだ現れてはいない。


「ついに、郁美といい線いってるようね、私たちの煌ちゃんは、。」

「ええ、クロートー。でも、煌ちゃんはまだ気づいていないわ。あの子って恐ろしく鈍感よね。」

「ピュアなだけよ。私たちより天使みたいな子だからね。」

「それにしても、煌ちゃん。むっちむちでかっわいいわね!」

「歯が抜けてたころもかわいかったけど、今もたまらないわね。」

「そうよ、このまま郁美と付き合えば良いのよ。」

「だめよ。忘れたの?」


 癒やし系ぽよぽよ煌ちゃんに夢中になっていたアトロポスとラケシス。しかし、クロートーはそれを戒めた。それにはちゃんと理由があるからだ。


「忘れてはダメよ。あの子がこのままだとどうなるか知っているでしょ!」

「ごめん、、そうだったわ。」

「あの子はコレステロール値が上がって体調不良に、そしてモテなくなる。」

「恋愛が下手くそな煌ちゃんは、ストーカー化するのよ。その最大最悪の結末を迎えるのが、、58歳、、。」


 私たちのことを愛して止まない煌冷香。私たちもあの子を愛しているわ。私たちが導いて、必ずあの子の運命を変えてみせる。


「だから、今のうちにぽっちゃりした煌ちゃんの写真を撮っておきましょう。」

「動画もね。でも私、触りたいわ。あのお腹、、あのほっぺた、、」

「触ったら昇天してしまうかも。今いるのが天なのにどこに昇ってしまうのかしら。」

「私時々、ここからあの子にマシュマロを落としたくなるの。きっと喜ぶわ。」

「大丈夫よ。あの子は自分でマシュマロを焼いて食べているわ。その隣でお餅を焼いていたときはかわいすぎて悶えたわよ。」


 うーん、、痩せさせなくても、よくない??


 痩せたい煌ちゃんにとって、魔の誘惑は食べものだけではなかった。郁美と天使達による魔の誘惑は続く!?


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