第22話 肉まんを頬張る煌ちゃんはどんなゆるキャラよりかわいかった

 高校1年生の秋。父親が仕事でイタリアに行くことが決まり、母と煌冷香を日本に残して先に旅立ってしまった。母親は勤務する大学を辞め、イタリアの教育機関に勤められるように根回しに忙しい。そんな日々の中、煌冷香の悩みは尽きない。


「グルメを極めるか、初めての恋を取るか、、究極の2択だわ。。」


 考えてはいけない。感じるのよ、煌冷香。まずは頭の中を整理しましょう。


「まず、イタリアに行けば日本では食べられないような美味しい食べ物が待っている。とても魅力的だわ。だけど、モイラは言っていた。日本に残れば出会いがある。恋をすることになるって。」


 ん?ちょっとお待ちなさい、煌冷香。ここにまずトラップがあるわね、、。


 モイラは恋をすると言っていた。だけど、恋人が出来るとは言っていなかったわ。そうよ、、気づかなかった。ただ片思いをするだけなら、私、美味しいものを存分に食べる方がいい!


「でも、、もしも恋人が出来るのならきっと、、私の胃袋以外にも、、そう。心が満たされるかもしれない。。でも、食べれば多幸感は十分ある。でも恋がしてみたい、、イタリアで恋はできないのかしら、、。あ、そうだ!!」


 モイラが煌冷香の前に現れるのは全部で3回。すでに2回現れている。いつ会えるかわからないモイラに会えないときに、困ったことがあれば、、


「朝のテレビ番組の占いを観ろって言ってたんだった。そうだ!マミーがテレビを禁止しているからつい忘れていたわ。」


 幸い、煌冷香の母親は現在、多忙を極めている。朝も軽く挨拶を交わすとすぐに仕事に出かけるのだ。


「テレビ、見放題じゃない!明日の朝は必ずチェックしないと!!」


 煌冷香はすっかり忘れていた朝の占いを観ることにして、すぐに就寝した。そして翌朝、、


「じゃあ、お母さんは先に出るわね。煌ちゃん、間食はダメよ?」

「わかってるわ。いってらっしゃいませ。」


 母親が仕事に出かけると、煌冷香はすぐにテレビにかじりついた。

「ああ、もう少しで始まる。危ないところだったわ。さぁ、私にヒントをください!ええと、なんだっけ、、そう!ブラウンマッシュルームさん!」


 数分、テレビの前に座り待っていると、CMが明けて占いコーナーが始まった。占い師は絶対に顔を見せたことがない謎の女性だ。


「やぁ、ブラウンだよ。きのこの季節になったね。ラッキーフードはきのこのホイル焼きだ。マッシュルームは必ず入れたまえ。」


 なによ、全然ヒントになってないわ。だけど、きのこのホイル焼きは美味しそうね、と煌冷香はがっかりした。


「それから、2つの道で迷っているのなら、こうしたまえ。」


 煌冷香は思わず立ち上がった。

「来たわ!私にヒントをくれるのね!!さぁ、お願い!教えて!」


「ええとね。一番都合の良い方法を考えてごらん。どっちも叶う方法とかさ。じゃ、今日はこれで占いは終わり。それから、今日からブラウンが監修した運が良くなる魔法のにくまんが全国のコンビニで発売されるよ。食べるが良い!」


 こうして、占いのコーナーは終わった。煌冷香はすぐに支度をすると、学校に行くために家を出た。そして、コンビニで運が良くなる肉まんを3つ買うと、途中の公園でブランコに乗りながら食べた。


「もぐぱくもぐぱく、ごくん。うん、また美味しいものを見つけてしまったわ。生地が最高ね。これで運まで良くなるなんて、素晴らしい占い師さんだわ。」


 素直でピュアな煌ちゃんは、全面的に占いを信じていた。いや、信じても良いんだけどね。ただ、肉まんは食べられるだけ食べた方が運が良くなると思ってしまった。この日の放課後、煌冷香はまたコンビニで4つの肉まんを買うことになる。願いが叶うのは7つのボールが揃ってからだと何かの漫画で知っていた。


「さてと。一番都合が良くて、どっちも叶う方法か。うーん、試されているわね。イタリアにも行けて、日本で恋人も作るには、、。とりあえず、そろそろ学校に行かなくっちゃ。」


 煌冷香がブランコから立ち上がろうとすると、最近しっかり育ったおしりに、とどめの肉まん3つが効いたのか、、ちょっと引っかかって外れなかった。


「んっしょ、え、あれ?は、はさまって、、えいっ!嘘でしょ、抜けない、、どりゃぁぁぁぁ!!」


 煌冷香が思い切りおしりを振って勢いよく動くと、ブランコからは抜けられた。がしかし、勢い余って煌冷香は前に思いっきり転んでしまったのだ。


「あっっっっ!!!」どしんっ!


 その時だった。煌冷香の頭脳に衝撃が走ると、幾何学模様が浮かび、素晴らしいアイデアが閃いたのだった。


「・・・・!!!?そ、そうだ!わかったわ!!日本に残って恋人を作る!!」


 泥だらけになった煌冷香。とんでもないアイデアが浮かんだようだ。


「そうよ!しっかりと結ばれた恋人なら、一緒にイタリアに行ってくれるはず!マミーには先にイタリアに行ってもらいましょう!!」


 こうして、煌冷香の素敵未来計画が始まるのだった。



 続く。

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