第14話 9歳でキラーと呼ばれて25歳でホラー
気がつけば、煌冷香は小学校3年生になっていた。長い髪はツインテールにして、控えめなレースのついた白いブラウスと赤いチェックのスカートを履いている。おしとやかではあるが以前よりは控えめで悪目立ちはしない。通学も徒歩が日常になっていた。
「おっはよー、煌ちゃん!」
「あ、おはよう。凜ちゃん。あ、きょんちゃんも!」
「おはよう!煌ちゃん。体育一緒に組もうね~♪」
「もちろん!」
きょんちゃんとは3年間同じクラスだった。そして、なんとか他の友達とも仲良くなれた煌冷香。小林先生ときょんちゃんが煌冷香の一般人教育をしてくれたおかげである。
しかし、煌冷香の世間ずれは筋金入りだ。思わぬ所できょんちゃん達の背筋を凍らせることも…。
「おはよー!きょんちゃん!煌ちゃんー!」
「あ、みっちゃん!おはよー!」
「おはようございます、みっちゃん。その作業着、とても似合ってますね!」
「え…?あ、ジーパンのこと?さ、作業着…。間違ってはないケド…。」
「煌ちゃん…。。またキラー冷ややかになってるよ。」
裏のあだ名がキラー冷ややかになっていた煌冷香だった。
そして放課後はというと、担任ではなくなっていた小林先生に、週一回だけ常識訓練を受けていた。煌冷香は家政婦の草王子さんがいなくなってから、小林先生に心の拠り所を見出していた。
そう、煌冷香。2回目の淡い恋であったが、まだ本人は女性にしか恋をしないことに気づいていない。
「先生、失礼します。」
「西園寺さん。久しぶりね。さぁ、ここにかけて?」
「はい、先生。とってもお会いしたかったです。」
「それで、今週はどうだった?」
「キラー冷ややかは今だ腐蝕できていません。所々でだしてしまっているようで・・・。」
「そう、でもあまり深刻に考えないことよ?貴方は中学も普通校に通うつもり?」
「・・・母は、受験してそれなりのところに行けと。。」
「なんにしても、先生は西園寺さんの良さを知っているわ。お友達も沢山出来たし。何も心配することないわよ。」
「先生、、ところで、そろそろ先生と婚約したいのですが、我が家に来ていただくことはできますでしょうか?」
「西園寺さん、、。気持ちは嬉しいけど、先生は生徒と結婚することは出来ないわ?それに、私たちは女同士だから日本ではまだ結婚は出来ないのよ?」
「そうですか、、では、人知れず愛を育みながら、社会の流れを注視していくしかないのですね。。」
「西園寺さん、、どこからどう説明したらいいのかしら、、。」
西園寺煌冷香。9歳。
彼女は欲しいものが手に入らないことがあるという現実が未だに受け入れられなかった。あの数千万はするであろうモイラの絵ですら、父親に懇願して手に入れていたのだから。。
放課後、自宅に帰ると、煌冷香はモイラの絵に話しかけていた。
「モイラさん。貴方たちのおかげで、私は社会の仕組みを沢山覚えたわ。私の未来は変わったかしら?」
こうすると、必ずその晩の夢で、煌冷香は未来の夢を見る。今日の夢は、、
「ん、あ。また明晰夢ね。ここは、、パーティー?社交界かしら。。」
今日の夢は、25歳になった煌冷香の姿だった。綺麗なドレスを着て、一流の家柄の男女が集い、交流を深めているようだ。
「あ、あれは私の好きな人。なぜかこの頃の記憶がなんとなくわかるのよね。。え、そ、そんな、、彼女が婚約を発表している・・・!!まって!うそでしょ!!私と付き合っていたはずなのにっ!!どういうことよ!!私は別れたりなんてしない!!!」
25歳の煌冷香は、一流企業の社交パーティーで、好きな女性に二股をかけられていたことを知る。そして、ドレスをまくり上げると、婚約を祝う人だかりの中に飛び込んでいった。
「誰にも渡さないわぁぁぁぁぁ!!!!」チョアーッ‼キーック‼
暴れ狂う煌冷香。9歳の煌冷香は、その体験を自分がしているように感じていたが、、頭の中ではただただ驚愕していた。
(うそでしょ、、こんな荒れ狂って泣き叫ぶ未来なの・・・?こ、これはいけない。回避しなければ。。なんなんだろう、私って。どうやら一般教養だけでなく、、恋愛について学ぶ必要がありそうね。。)
夢の中とはいえ、哀れにも引きずられて会場を追い出されながら、煌冷香は決意した。ドレスは破れ、アイライナーが涙で落ちて、顔はゾンビに近かったが、煌冷香の目には熱い何かがまだ宿っていたのだった。
「私、恋愛マスターになるわ!!!」
続く。
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