第12話 どうしたのかしら庶民の皆様は、、

 煌冷香が小学校に入学してわずか2ヶ月。

 並み居る婚約希望者から離れるため、父の提案で煌冷香は不登校になり、わずか数日で庶民が通う小学校へと転校が決まった。

 大学で教鞭を取る母親は反対したが、まだ6歳の煌冷香が強く自分の意思を示したことに絆され、渋々了承したのだった。


「おはようございます、煌冷香さん。新しい学校へ参りましょう。」

「おはよう。ええ、お願いします。」


 運転手に車に乗せられると、徒歩なら25分の場所にある小学校へと向かう。他の小学生たちは各々に友達と通学しているのが車の窓から見えた。


「本当に制服じゃなくて私服で通ってらっしゃるのね。皆さん、動きやすそうな、、服を着てらっしゃるわ。ねぇ、私は普段通りの服を着てきましたけど大丈夫かしら。」


「・・・よくお似合いですよ。きっと学校で一番の可愛らしいお嬢さんだと噂になるでしょう。」


 運転手は一般庶民である。煌冷香は庶民から見てパーティーにでも出席しているかのようなドレスを着ていた。髪には初日ということもあって赤いリボンをつけていたので良く目立つ。そんな煌冷香を見てクラスメイトは度肝を抜かれるだろうとわかっていたが言えなかった。


(煌冷香さんはきっと、、普通の小学校には馴染めないだろう。言うより一度、体験したほうが早い。。すぐにまた別の金持ちが通う学校へ転入することになれば良いのだけど・・・。)


 西園寺家はとても品格のある家だ。逆に浮くことになるだろうと運転手は心配していた。そしてそれは正しいわけだが、煌冷香の悲惨な運命を塗り替えるにはどうしてもこの試練を乗り越えなければならない。


 運転手が付き添い、煌冷香が職員室に行くと、担任になる先生を紹介された。


「西園寺さんね。色々聞いていますよ。大変だったようですね。私の名前は小林くるみよ。慣れないことはたくさんあるだろうけど、一緒に楽しい学校生活を送りましょうね。」


「はい。よろしくお願いします。」*深々とお辞儀をする可憐な煌ちゃん。


「可愛らしいわね。でも、、その服は学校では動きにくいかも。」


「そうですか。。実は私も周りの学生を見てそう思っていました。対策を練ろうと思います。」


「・・・では、クラスに案内しますね。」


「はい。対人関係は初頭効果が何より大事と聞きます。しっかりご挨拶せねば。」


 

 煌ちゃんは、音を立てずにしゃなりと先生の少し後ろを歩く。すでに校内は子どもの声で騒がしい。笑いながら走ってふざけ合う男子生徒を見て目を丸くする煌ちゃん。


「あのように理性を失うのだから、よほど嬉しいことがあったようですね。きっと素晴らしい学校生活なんだわ。楽しみだわ。」


 クラスに着くと、まずは廊下で待っているようにと言われた。担任がクラスに入ると、転校生がこのクラスに仲間入りすることを伝えた。


 さぁ、煌冷香。出陣だよ!!皆の心を鷲掴みだ!!


「では、西園寺さん。入ってきて?」

「はい。失礼します。」


 煌冷香はスッと静かに戸をスライドさせ、入室すると静かに後ろを振り返り、またスッと戸を閉めた。またゆっくりと振り返ると、一呼吸おいて1歩ずつ、音を立てずに前に歩く。

 先生の隣に立つと、先生に軽くお辞儀を。そして前を向き、深々とお辞儀をした。目線を上にあげ、一同をしっかりと見据えるその姿は、まるで選挙に出馬した女性議員の覚悟ある演説の前のようだった。


「皆さま。初めまして。西園寺煌冷香と申します。父は明治から続く古美術商をしております。庶民の生活は不慣れでございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。」*キラキラ煌ちゃんスマイル発動


 深々とお辞儀をして、ふぅっと小さく息を吐く煌ちゃん。きっとうまくできたに違いないと思っていた。がしかし、クラスはシーンと静まり返っていた。


「お、おい、、庶民だって。」

「すごいドレスだね。お金持ちなのか!じゃあ僕たちは庶民だな!」

「なんで父親の仕事を言ったんだろう、マウントかな。」


 え?ええ?なんだか反応が思っていたのと違うというか、、失敗したような気がする。な、なんでかしら。。 


 煌ちゃんに悪気は全くなかった。しかし、あまりに環境が違いすぎたんだ。モイラが言っていたことはこれだ。世間を知らずにこのまま大人になれば、生きていける世界が狭すぎる。


「はい、静かに。仲良くするんですよ。では、西園寺さんは、、あの空いてる席に。」


「はい・・・ありがとう、ございます、、。」


 しゅんとなってしまった煌ちゃん。言われた席に着くと、ため息をつきながら何を間違えたのだろうと困惑していた。すると、隣の席の女の子が声をかけてきた。


「西園寺さん、よろしくね。私、前園恭子。きょんちゃんって呼ばれてるよ。」


「は、はいっ!よろしくお願いします!私は、、煌ちゃんです!」


 不安なスタートを切った煌ちゃんだったが、1人、友達が出来そうだった。



 続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る