第11話 ダディーは煌ちゃんを嫁になんかあげないんだから!

 あれ?寝ていたはずなのに・・・。ここは、どこ?


 なんでだろう、、覚えている。私は、58歳。え、58歳っ!?

 ここは、、握手会の会場だ、、。好きなアイドルグループの、、そう、、


「にゃっちゃ~~~んっ!!!お願いっ!付きあってぇぇぇぇ!!!」

「こらっ!ストーカー常習犯め!出禁にしたはずなのに!!」

「いやぁぁぁぁぁーーー!!!すきぃぃぃ!!!!」


 そ、そうだ、、私はアイドルグループの推しに夢中になって、なんとか近づきたくて出禁になったんだった。。え、なに?なんでこんな記憶が、、


 それにしても、、ひどい格好だわ。。推しの顔がプリントされたTシャツに、なにそれ、ジャージ??体操服?

 え、なんで目にクマが・・・。そうだ、課金しすぎて平日の仕事に加えて夜勤のアルバイトを、、。寝てなかったんだ。。


 ああ、やっとよく寝た。これでにゃっちゃんに好きって言ってもらえる、かも、、


 ぱちくり。キョロ?キョロ?ん?

「・・・また、夢?っていうか、あれが私の・・・未来・・・?」


 にゃっちゃんってなんだよ!嫌よ!ちがうわ!!私はあんな将来を送るはずない!!一流商社にお勤めのエリートか、大企業の社長と結婚するのよ!!そう、優しくて、温かくて、かわいい笑顔の、、え、かわいい笑顔?そ、そうよ、草王子さんみたいな。ん?え?草王子さん?


「あ、草王子さん!いなくなってしまう!!」


 そうだ。私は草王子さんが結婚することを知って、泣いてそのまま寝てしまったんだ、、。・・・もう朝なのね。随分寝ていたんだわ。また歯を磨かないで寝てしまったわ。せっかく歯が生えてきたばかりなのに。。ちゅくぢょとしていけないわね、これでは。*淑女しゅくじょと言っている。


 あーあ。フラれてしまったんだわ。これからどうしよう。もう人生に楽しみなんて見つけられないわ。*6歳で人生詰んだ煌ちゃん。


「とりあえず、、学校行かないと。。ぐずっ・・・。」


 めそめそしながら着替えて寝室を出ると、家族が揃うダイニングへと向かう煌ちゃん。近づくにつれ、父親の声がする。何やら大声を上げているようだ。


「・・・ダメだ!・・・・絶対に!!・・・・」

「ん、どうしたのかしら。ダディーがあんな声を出しているなんて。」


 煌冷香がそっとダイニングを覗き込むと、父親は電話で誰かと口論をしていたようだった。


「絶対にダメだ!!何度でも答えは同じだ!!僕の煌ちゃんが婚約者を作るなんて、ぜーったい許さないぞ!しつこい!あああっ!うるさーい!!」プツ。


「ど、どうしたのかしら、、だ、ダディー?」

「煌冷香っ!!ああ、いろいろ話すことはあるんだけど、今日は学校へ行かなくて良いよ!」

「ええ!?なんで?」

「君を狙ってる野郎どもが待ち構えているんだ!!大丈夫だ、パパが守るっ!!」


 煌冷香が一度、婚約の話を断ったことが皮切りとなり、学校中の、上級生の親までもが乗り出して、煌冷香の父親に婚約の打診を始めていたのだった。


「そ、それは一体どういう・・・!?」

「煌冷香、、君は、かわいすぎるんだよ!!!特に、歯が抜けていた君は天使だった!!!」クゥ‼

「え。ト〇ロみたいだったですけど??」ニィッテカンジガ・・・

「誰にも渡すもんか!!転校だ!別の小学校に転校するよ!煌冷香!!庶民の学校なら、婚約など考えはしないだろう!!」アーッハッハッハ‼



「え、ええ、、庶民の・・・学校へ・・・?」



 煌冷香は、やっぱりそうなるのかと、瞬時に悟った。モイラの、そして朝の占い師の言った通りになったからだ。。そう、アイドルのストーカーにならないために。そして、ウーロンハイを飲みながら週末を迎える58歳にならないためにっ!!



「わかったわ、ダディー!庶民の学校へ行きます!!!」


 6才にして、強い心で未来を変えてみせると、固く決意した煌冷香だった。



 続く。

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