第10話 煌ちゃん、初めての失恋。
西園寺煌冷香。6歳。
上流階級の家庭に育ち、髪型や服には清潔感と品格がにじみ出ていた。会話や身のこなしにも上品さが感じられる。
しかし、煌冷香が通っていた幼稚園や、現在通っている小学校には、同じく上流階級のこどもばかりが集まっている。煌冷香が特に際立って美しく見えることはなかった。・・・そのはずだが、、
「なんなんでしょう、一体。入学してすぐはこんな風じゃなかったのに。。急にモテ始めてしまったわ・・・。」
その理由は意外なことだった。煌冷香は、入学してから前歯が2本入れ替わった。そのほんのわずかな間、新しい歯が生えてくるまでの煌冷香の笑顔が、周りにいる人たちの心を鷲掴んでしまったのだ。笑った顔がクセになるひょうきん煌ちゃんだったのだ。
すでに前歯は少しずつ生えてきているが、一度知ってしまった煌冷香の魅力を、そう簡単に忘れることができない周囲のこども、そして大人達。あのモイラですら首ったけにしたほどだ。
解せないと思いつつも、煌冷香は学校が終わるとすぐに帰宅した。それどころではないのだ。大好きな草王子さんを引き留めなければならない。
迎えの車の中で、はやる気持ちを抑える6歳児。自宅に着くと、車から降りて一目散に玄関に走った。いつもなら草王子さんが出迎えてくれる。
「ただいまっ!早く開けて!!」ピンポンピンポン
「お帰りなさいませ、煌冷香さん。そんなに慌ててどうしました?」
玄関が開くと、いつも通りの優しい笑顔で迎えてくれた草王子さん。煌冷香は思わずその胸に飛びこんだ。
「草王子さんっ!私、ダディーから聞いたのよ!?ここを辞めるなんて言わないで!!ずっと一緒に居るって言ったじゃない!結婚するって言ったじゃない!!ひぃーん!!」
「ああ、聞いてしまったのですね。。ごめんなさい、煌冷香さん。どうか泣かないでください。。私は、、そう、遠い街へ行かねばならない事情があるのです。だけど、、ずっと大好きです。いつか、また会えるときまで忘れませんから・・・。」
「ぐずっ、、と、遠い街へ?なら私も行く!駆け落ちしましょう!!」*恋に前のめりな煌ちゃんの本質が垣間見えだした瞬間。
「か、駆け落ちですか、、。ああ、お気持ちは嬉しいです。でも、煌冷香さんの将来を私なんかのために無駄にして欲しくありません。」
「大丈夫よ!私が働いて養ってみせるわ!!今すぐ荷物を詰めて出発よ!」
「き、煌冷香さんっ!!(え、どうしよう。)あ、あの!話を聞いてください!」
煌冷香は本気だった。玄関から自分の部屋へと走り出す煌冷香。後ろから追いかける草王子さん。部屋に入ると、お気に入りのしましまパンツをタンスから出し、巾着袋に詰め出す煌冷香。
(わ、どうしよう、、本気だ。煌冷香さんは本気だ!お、奥様に怒られちゃう・・・。困った、止めさせないと。。仕方ない、、本当のことを言わないとっ!!ごめんなさい、煌冷香さんっ!!)
草王子さんは煌冷香の体を抱きしめると、泣きながら本当のことを告げる。
「ごめんなさい、煌冷香さん。実は、実は、、私は結婚するのです!!」
「何を言ってるの?まだ私は結婚できる年齢じゃないってダディーが言ってたわ!」
「違うんです!他の方と、、約束している人と結婚するんです!!!」
「・・・え?」
煌冷香はパンツを落とした。そして、草王子さんに抱きしめられたまま、しばらく無言で座っていた。
「ごめんなさい、煌冷香さん。。」
「・・・え?他の人??」
「ごめんなさい、ずっと言えませんでしたが、、煌冷香さんと私は年が離れすぎていて結婚できません。どうか、わかってください。」
「・・・。」
煌冷香、6歳。
姉をしたうような、そんな可愛らしい恋心であったが、突然の別れによって思いがけずに失恋をした日だった。どうにか煌冷香が悲しまないようにと、周りの大人達が配慮したのもむなしく、、初めての失恋に煌冷香は、、
「嘘ついてたのね!もう嫌いっ!1人にしてっ!わぁん!!」
「煌冷香さん、、ああ、本当にごめんなさい。。」
煌冷香に突き放された草王子さんは、今はそばにいない方が良いだろうと、そっと煌冷香の部屋から出て行った。そして、雇い主である煌冷香の母親に、一部始終を報告するのだった。
「ひどいっ!ずっと一緒に居ると思っていたのに~!!!」
煌冷香は、ベッドの上で気の済むまで泣くと、いつの間にか泣き疲れて寝ているのだった。
続く。
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