第9話 歯が生え替わったから歯車も変わりだした煌ちゃん

 煌冷香の父、として煌冷香の運転手である草門くさかどさんは、30歳の女性である。

 母親が仕事で忙しい煌冷香が寂しい思いをしないために、優しくて物腰の柔らかい女性が常に身の回りの世話をするように意図されていた。そして、煌冷香の父がかわいい娘にはまだ男性を近づけたくない独占欲でもあった。


「草門さん、ありがとう。いってきます!」

「いってらっしゃいませ。いつもの時間にお迎えに参りますね。」


 草門さんは、煌冷香を学校に送り迎えするこの時間が大好きだ。なぜなら、煌冷香は決まって、降りるときにとびきりの笑顔でお礼を言ってくれるのだ。


「ああ、癒やされる。。煌冷香さんはなんてかわいいんだろう。ついに前歯が生えてきてしまったけれど、抜けたときの満面の笑みは最高だった。。」


 草門さんは、前歯が抜けたときの煌冷香と2人で撮った写真をそれは大事に財布の中にしまっていた。そのくらい、なんとも言えないかわいさだった。


 それは、クラスメイトも先生も、みんな同じことを思っていたのだ。そして、煌冷香が教室に入ると、またもや煌冷香に試練が待ち受けていた。


「おはようございます。」


 煌冷香が教室に現れると、そこにいたクラスメイトが一斉に近づいてきた。


「ああ、西園寺さん!聞きましたよ?この学校でも有数の大企業の御曹司である一ツ橋君の婚約の申し出を断ったそうですね!?」


「え!な、なぜ知っているの?」


「ご本人が言っていたのよ。それは残念そうに。でも大人になるまでに婚約を結ぶと断言していたわ?」


「ええ、そ、そんな。お断りしたのに、、。」


「あ、噂をすればご本人よ!」


 煌冷香が思いも寄らぬ騒ぎを知ると、当の本人である一ツ橋君が煌冷香の元へやってきた。


「西園寺さん、おはよう。」

「はい、おはようございます。あ、あの、」

「婚約の話だけど、君の父親に断られたのは僕の父だ。まだ僕は諦めていないから。大人になるまでにきっと、君に頷かせてみせるよ!」

「え、すごいキラキラした目を・・・!!な、なぜそんなに、、」

「だって、僕は、、君の笑顔に一目惚れしてからずっと、、」*前歯がなかったころのなんとも言えないかわいさの煌ちゃんの時。


「わぁ!なんて情熱的なんでしょう!西園寺さん!一ツ橋君がかわいそうよ!お付き合いなさいなさいよ!」*いるよね、こういうこと言う女子。


「え、そ、そんな。あ、ああっ!そうです、私には好きな人がいるんです。将来、結婚したいとまで思う好きな人が!だから無理なんです!!」


「え、そ、それは一体どこのご子息ですか!?」


「え、えーと。(草王子さんとは言えないわね、、)そ、それは、、恥ずかしくて言えません。。」*頬を赤らめうつむく天然たらしの煌ちゃん。


「ま、まさか!!このクラスの誰かじゃ!!」

「そうですわ!このクラスの誰かですのね!!!」


「え、ち、ちが・・・」


「そうなんだ!この中に西園寺さんの好きな方がいらっしゃるんだって!!」

「え、まさか!僕じゃ!?」

「ぼ、僕なら言ってくれればいつでも!!」


 

 家柄や、階級を重んじる上流階級のクラスメイトであったが、ほとんどの男子生徒の、いや。女子生徒も先生も含め、みんな、煌冷香の笑顔に打ち抜かれていたのだった。


(この子の笑顔のそばにいられるのなら、、出世してみせる!)


 一ツ橋君を皮切りに、、この日から煌冷香との婚約争奪戦は始まった。



 続く。

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