第4話 煌冷香6歳。前歯が2本生え替わるの。
「ねぇ、ダディー。鏡月ってなぁに?」
「ん?鏡花水月のことかな?はかない幻のような物の例えだよ。」
「んん、、たしかに、あれは幻だったような気がするわ。お酒の名前だと思ったけれど。」
煌冷香がモイラと話した翌日、目を覚ましてあたりを見渡すと、やはり元の絵のままだった。いくら話しかけても反応はなかった。
朝食を食べながら、煌冷香は1つずつ、記憶の整理をしていた。
「じゃあ、百合ってなに?私は百合なんだっていう人がいるの。」
「??百合のように美しいと言われたんだね?そうだね、煌冷香はガーベラみたいだと思っていたけど、百合のような気品もあるね。」
明治から続く古美術商の御曹司である煌冷香の父親。日頃飲むのは年代物のブランデーやワインであった。鏡月を知らない。そして、百合って花のことでしょ?それ以外ある?という感じだ。
「あとでマミーにも聞いてみよう。なんてったって、大学教授だもの。なんだって知っているわ。」
それにしたって、昨日のことは夢かもしれない。だって私はお熱があったから。夢と現実の区別がつかなかっただけかも。
それに、モイラ達は、これから1人ずつ、1度だけ私に教えに来ると言っていたわ。もし昨日のことが本当なら、いずれ来るってこと。冷静になりなさい、煌冷香。その時が来たらするべき質問をまとめておけば良いのよ。
「煌ちゃん、体調はどうかしら?ママはもうすぐ大学に行かないといけないわ。」
「うん、マミー。すっかり元気よ。でもウイルスによるお熱だったので、明日まで幼稚園はお休みしますと電話するわ!皆様にご迷惑をおかけしたら申し訳ないもの。」
「そうね。じゃあ、ママはそろそろ行くわね?」
「あ、マミー?悪役令嬢ってなぁに?」
「煌冷香。いつも言ってるでしょう?漠然となぁに?と聞くのではなく、どういう点について疑問に思い、どういう点を知りたいのかはっきり説明なさいと。」
「はいっ!マミーがお戻りになる前に、自分の考えをまとめておきます!」
「良い子ね。知性と品性を忘れずにね、煌ちゃん。」
煌冷香は一流の保育園に通っていた。来年からはエスカレータ式にお嬢様達の通う小学校へ通うことになっている。今日と明日は大事をとって、お休みすることにした。両親が仕事にでている間は、マナーの教育係でもある家政婦さんと共に、勉強をして過ごした。
そして、月日は流れて、、翌年の3月。もうすぐ小学校へ進学という頃。すやすやと眠る煌冷香の夢の中に、ついに現れた。モイラの1人が・・・。
「煌ちゃん、煌ちゃん!私よ。アトロポスよ。」
「わぁ!アトトトス様!!もう来ないかと思ってた!」
「かわいい!まだ歯が生えきってないのね!?」
「前歯2本がないの。見て?面白い顔でしょ?いー!」
「あはは。かわいいわよ!なんてかわいいんでしょう!」
ああ、もっとあなたのことを見ていたいわ。煌冷香ちゃん。私、あなたが大好きよ。そのほっぺ。ぷよぷよのあんよ。ドレスがとても似合っているわ。
だけど、私たちは本当は北欧のこどものところにしか現れてはいけないの。日欧条約みたいなものがあって、日本の神様にバレたら条約違反で怒られてしまうの。神様って笑いながら怒るから、かえって恐いのよ?
さぁ、時間がないからしっかり聞いてね?
あなたは庶民の通う小学校へ通うことになるわ。そこではあなたの言動は、ちょっと変わっているの。イマイチ空気が読めないやつとか、上から目線だと嫌われるわ。でもね、この社会のほとんどの人は、あなたと感覚が違うの。早く慣れておく必要があるわ。なにしろ、あなたは58歳になってもそれが原因でフラれ続けるから・・・。
いいこと?庶民の感覚を身につけるのよ?
それから、どうしても困ったときは、朝のテレビでやってる占い番組を見なさい。私たちのお友達があなたに必要な事をそこで教えてくれるわ。
じゃあね!愛してるわ!煌冷香!!あっ!ムー民のやつが攻めてきたようね!私たちはあいつらと敵対してるのよ!!ちょっと日本でちやほやされてるからって生意気なのよ!!じゃ、そういうことでっ!!!
「あああっ!もう行ってしまうの!?なにも質問してないのに!!アトトトスーーーー!!!アトトトシュ様ーーーー!!!」
こうして、煌冷香は、夢の続きを見ることなく、朝までぐっすり眠るのだった。
続く。
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