第2話

工藤が、精一杯顔をしかめてすごんだ。


「いいかい、山田くん。君は悪党になりたくない。そうだろ?」

「もうそれでいいです……」


川瀬はそうだろうと言うように頷いた。


「だが山田くん。私は悪党になると決めた。だから君が悪党にならないのは都合が悪い」

「…………」

「山田、こっちを見るな」


山田はもう何が何だかわからず、泣きそうな顔をしている。


「だから山田くん、私は君を殴る!」


工藤の拳がぺちり、と山田の頬に当たった。

そのまま拳が頬を優しくグリグリする。


「痛いな!山田くん!」

「ふぃ、ひふぁいっふ!」

「痛そうだな、川瀬くん!」

「うん、痛そうだな」


工藤は満足そうに拳をおろした。


「山田くん!もう殴られたくなければ、大人しく言うことを聞くんだ!」

「…………」


山田は、今度はこの茶番の意味がわかって泣きそうだった。

工藤は、もし捕まった時に、自分が少しでも罪が軽くなるようにしてくれているのだ。

自分は罪が重くなるかもしれないのに。


「山田くん!私と悪党になるんだ!じゃないともう一度殴る!」

「な、なります!」

「川瀬くん、聞いたな!私が殴ると脅して、山田くんはそれに屈したな!」

「証拠もバッチリ撮れた」

「……それは消そうか。流石に裁判所で披露できる演技力じゃないと思うな」


こうして、山田は開放された。




3人はいつものようにラーメンを食べた。

具はもやしと卵だ。

これから悪い事するんだぜ、卵くらいなんだ。とは川瀬の言である。


「食べながら聞いてくれ」


川瀬は、自分だけさっさと食べ終えて言った。山田と工藤は顔を見合せてから頷いた。


「まず、俺たちは郵便局強盗をする」

「銀行ではなく?」

「銀行は警備体制もしっかりしてるだろう。郵便局もでかいとこじゃなく、近所の小さいとこだ」

「三丁目のやつすね」

「そうだ。今の俺たちには窓口3つ、ATM1つの郵便局でも大物だ。それでも、窓口で脅すのとATMぶっ壊すのと並行して進めたい。貰えるだけ貰って逃げる」


食べ終わった山田が、自分と川瀬の器を流しへ運ぶ。どことなく、器を持つ手つきが不安定に見える。


「1度成功すれば元手ができる。次からの資金になるはずだ。生活にだって余裕ができる」

「生活に余裕ができれば、私は久しぶりに外食がしてみたいな……」

「広い銭湯とかも行ってみたいっす……」

「…………」

「…………」

「ダメならいいっす!」

「「行こう!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る