山田の一周忌(トマト・川・山田)

 夏休み、息苦しい都会を抜けて、私は帰郷した。4月になって上京し、4ヵ月しか経っていないのに ひどく懐かしく感じた。駅を出るとぽつぽつと雨が降り始めた。ここでの雨は嫌な記憶が呼び起こされる。

 ふと携帯を見ると、武藤から連絡が入っていた。武藤とは小学校からの友人である。 「明日の話があるから後でおまえんち行くわ!」了解、といつも通りのやり取りを交わす。明日は山田の一周忌なのである。

 山田とは高校1年生の時に知り合った。親の仕事の都合で都会からここに引っ越してきて、ご両親はトマト農家としてそこで働いていた。私とは真反対な性格に惹かれ、すぐに仲良くなってしまった。「そんなんじゃ都会に出てからやっていけないぞ!」これが彼の常套句であった。そんな彼には、嫌なことが起きると家のトマトを地面に投げつける癖があった 。今思えば、都会からこんな田舎に連れてきた親への当てつけだったのだと思う。そんな子供らしい一面もあったが、私と武藤、そして山田は毎日のように遊んでいた。

 高校3年生の夏休み、山田は近所の川で溺れて死んだ。その日は前日の雨で少し増水していたらしい。なぜあの日川遊びへ誘ったのか。今でもずっと悔やんでいる。

 家のインターホンが鳴る。武藤が来た。「山田んち行く前にちょっとあの川寄ってこうよ。」了解、と応えその場所に行った。雨のせいか、生ぬるい風が体にまとわりつく。献花をした後、彼は先に道を戻っていった。ふと川の向こうを見ると誰かが立っていることに気が付いた。間違いない、山田だ。そんなことはありえないと思いつつも、私はそちらに招かれるように足を進めていた。「おい!」武藤の声でハッとした。目の前の山田は消え、流れが強くなった川の真ん中に私は居た。私は武藤に事情を説明したが、そんなわけがないと一蹴されてしまった。確かに私の幻覚だったのだろう。びしょびしょな足取りで川を後にする。道端ではトマトが潰れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【三題噺】ホラー・怪談・サスペンス もみあげ @momiageji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ