【三題噺】ホラー・怪談・サスペンス
もみあげ
第1次パン戦争(クリームパン・四面楚歌・犬)
今日の世界はあんぱん派とカレーパン派に二分されている。世界で最も影響力のある新アメリカ国の大統領が発した一言が事の発端だったらしい。ある日を境に、世界ではその二つ以外のパンを食べることを禁止された。かくいう私の家族はクリームパン派である。私たちのような少数派は常に排除されてきた。だから私たちがクリームパン派であることは秘密にしている。しかし私には密かにクリームパンを提供してくれる知人がいるのだ。彼の名前はトム。世界がこんな風になってから急に路地裏に現れた。
今日は月に一度のクリームパンが支給される日だ。私は周囲を気にしながら家を出る。「気を付けて。」後ろから嫁の声が聞こえた。いつもの路地裏に着くと、そこには私の他にもクリームパンを求める人がちらほら見られた。おかしい。いつもならば怪しまれないように受け取る時間はずらされているのだ。そう思ったのも束の間、前後からは見慣れた武装をした兵士がやってきて、あっという間に私たちを包囲した。やられた。トムは軍の人間で私たちを騙していた。隠れたクリームパン派をあぶり出し、まとめて捕まえるつもりだったのだ。これを四面楚歌というのか。家族のためにもここで捕まるわけにはいかない。私は隙を見つけてその場から逃げようとした。パンッ、といった乾いた音と共に腹部に鈍痛が走る。痛い。私はその場で倒れ込んだ。そこで家族との思い出が走馬灯のようによみがえってくる。ダメだ、帰らなくちゃ。私は最後の力を振り絞って、何とか路地裏を抜け出した。
帰宅すると、飼っている犬が激しく吠えていた。妻も号泣している。「大丈夫、心配しないで」と笑って妻に言った。血だらけの自分に驚いているのか、妻はずっと泣いている。こんな事になった後だ。もうクリームパンは諦めて妻と静かに暮らそう。
ふとテレビを見ると速報が流れていた。「クリームパン派を一斉確保」という大きな見出しと共に、私の顔写真が映されていた。
あぁそうか。
「私はあの時死んだのか」
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