敵との再会
第29話
由希はまひろと共にアイギスからの帰りに夜道を歩いていた。
なんとなく由希が足取りの軽さを感じていると、まひろが呟いた。
「嬉しそうね」
「え?」
「なんか、良いことでもあったのかな?」
茶化すような口調でまひろが尋ねてきて、由希は照れくさくなった。
「まあ、なんていうか、さっきの任務の事でさ」
「うん」
「俺がやったことが実を結んだっていうことが初めてで嬉しいんだ」
今まで自分の行いは人を不幸にするものだと思っていた。
だが今回は違った。
オーナーという宿命を背負った小さな少女を、救うことが出来た。そしてそれをミントや、まひろに認められ、奏にも感謝された。
それは未だに暖かなまま由希の心にあった。
「思えば、俺はこうして誰かのために何かをして、感謝されたり、認められたいと思っていたのかもしれない」
気づけば一人で喋っていることに気づき、由希はバツが悪くなった。
「悪い、一人で盛り上がって」
「そんなことないわ」
まひろは穏やかに答えた。
「由希がそう思ったなら私も嬉しい」
「ありがとう……これも全部まひろのおかげだ」
「え?」
まひろが素っ頓狂な声を出した。
「どうして私のおかげなの?」
「だって、まひろが今までずっと俺の傍にいてくれたから。まひろがいなければ俺はずっと自分の殻に閉じこもっていた」
「でも、私のせいで由希はオーナーになってしまった」
「おかげさまで奏を救うことが出来たんだ。やっぱりまひろがいてくれたからだよ。まひろがいなかったら、今の俺はいない……これからもずっと、まひろには一緒にいて欲しいと思う」
由希の言葉にまひろは慌てて顔を俯けた。
「ど、どういたしまして」
俯いた顔にかかる紙の隙間から、まひろの赤みがかった頬が街灯に照らされていた。
そんな幼馴染の様子を見て、ようやく由希は自分が告白めいたことを言ってることに気付いた。
「あ、えっと、そのなんていうか今のは……」
慌てて言い訳をしようとするが、余計に変な雰囲気になってくる。
夜の帳も降り始めるような時間のせいか、辺りは非情に静かだった。
二人の歩く音と、微かな息遣いすら聞こえる程の静けさ。それに加えて明かりもどこか頼りなく薄暗い。
それに気づくと、由希は二人きりという状況を意識してしまった。
「あーなんだ」
まひろが助け舟を求めるように顔をあげてくる。
そのせいで由希は言おうとしていた言葉を忘れてしまった。再び
気まずい空気が落ちたと思ったら、唐突にまひろが意を決したように、
「由希、私!」
「な、なんですか!?」
急な攻守交替に由希が狼狽えていると、
「へへ、ようやく見つけたぜ」
「「!?」」
突然、二人の背後から声が聞こえた。
由希とまひろが慌てて振り向くと、そこには不気味な風貌の男が立っていた。
全体的にやせぎすで、眼は濁り、白めの部分は赤く濁っていた。さらに顔の下半分がぼろきれのような布で覆われている。
「もしかしてお楽しみ中だったかな?悪いな、昔から人の気持ちとか考えたことないもんでな」
「誰だ」
「はあ?お前、それ本気で言ってんのか」
意図が分からず由希は答えることができない。
「いやあ、長かったぜ……おめえらと関わったせいであんなことになっていまってよお」
「言ってる意味がわからない」
まひろが答えると、男は血走った眼でまひろを睨みつけた。
「すっとぼけやがって。俺はお前の顔はひと時も忘れなかったんだぜ?あの時、お前にぶちのめされてから、俺は今までずっと闇の中に身をひそめていなければいけなかったんだからよ」
興奮状態でまくしたてたせいで、その男の顔を覆っていた布がひらりと落ちた。
その男の口はこめかみ辺りまで裂けていた。その顔貌に、ようやく由希の記憶が蘇った。
「お前は……まさか」
「はは!ようやく思い出したか」
その男は5年前、由希とまひろを襲ったオーナーの男だった。
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