第19話

 数日は特に何もなく、由希は放課後いつものようにまひろと別れて一人で下校していた。

 金曜日だからか、通り過ぎる生徒たちは週末の予定の相談に花を咲かせていた。

 そんな浮ついた雰囲気と、先日の任務で由希も気分が良くなっていて、なんとなく素直に帰宅するのがもったいない気になった。

 あてもなくふらふらと歩いているうちに気づけば由希は駅前にたどり着いていた。

 目に入ったのはゲームセンター。

 特に得意なわけではないが、明るい装飾に誘われるように入店した。

 ポップなミュージックとゲームセンターのテーマソングが流れる店内には、様々なゲームが設置されていた。カップルや友達グループらしき集団が楽しそうにおのおのゲームプレイにいそしんでいた。

 由希もなんとなく一台のクレーンゲームに挑戦してみる。最近人気のしゃべる猫ややかましいウサギのキャラのぬいぐるみだ。

 クレーンの中央にぬいぐるみが来るように調整して下降ボタンを押すと、由希の狙い通りの場所に降りていった。

 しかし、アームはぬいぐるみを撫でるだけで、びくともしない。

 由希は思わずため息をついて、その場を後にしようとすると、

「それは、持ち上げるんじゃなくてアームで押して動かしていくんだよ」

「る、瑠香?」

「あは、偉い偉い。ちゃんと名前で呼んだね、しかも呼び捨て」

 いたずらっぽく八重歯をのぞかせながら、瑠香は由希のやっていたゲームにコインを投入した。

 由希の狙ったところとは一つ分くらい横にずらした場所にクレーンが降下していき、アームがぬいぐるみに一瞬突き刺さると、反動でぬいぐるみが一気に横にずれて、そのまま獲得穴に吸い込まれていった。

「やったあ、一発!」

「おお!」

 ガッツポーズする瑠香に、由希もその技術に感心して声を漏らす。

 瑠香がぬいぐるみを取り出して、胸の前で抱きながら尋ねてきた。

「それにしても、由希君もゲーセンとか来るんだね」

「別にそういうわけじゃないけど」

「じゃあ何で今日はまた?」

「何でって言われるとわかんないけど」

「なんかいいことあったとか?」

「いや、なんでそうなる……って」

 由希は自分は浮かれてて、ゲームセンターのような賑やかな場所にひかれたのだと思った。

「……まあ、そういう部分もあるかもしれない」

「そうなんだあ、おめでとう、いやめでたいなあ」

「いや、なんのことかわかってないでしょ」

「じゃあ、良いこと記念に」

「え?」

 瑠香が突然、先ほどのぬいぐるみを差し出してきた。

 由希はされるがままにそれを受け取ると、瑠香が由希の隣に来て、そのままするりと腕を組んで来た。

「良いこと記念デートしよっ」

「は、はああ?」

 脈絡のない展開に由希は抗議をした。

「なんでそうなるんだよ」

「だってー、由希君とデートしたいんだもん」

「だから、なんでそうなるんだって」

「前も言ったじゃない、由希君のこと好きなんだってば」

「だから、それが意味わかんないんだって!」

 由希は絡みついている瑠香を振りほどこうするが、離れまいと瑠香が腕に力をこめる。

 瑠香が今日はノースリーブの服を着ているのも相まって、二の腕にあたる柔らかな感触がより一層感じられて、由希は一瞬で頬が熱くなった。

「ちょ、ちょっと……」

「ねー、由希君明日学校お休みでしょ?」

「休みだけどなあ……」

「それとも、これから予定とかあるの?」

「別にないけど……」

「じゃあ、決まり!それではー、ゲームセンター探索ツアーの始まりでーす」

 瑠香は由希を引っ張るようにして、歩き出した。

 由希は引きづられながら、何を言っても無駄なような気がしていた。

 それに、正直瑠香みたいな美少女に引っ付かれると、無理に断る必要もないと思って、そのまま瑠香に連れ去られていった。

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