第11話

 まひろに連れられて由希は、アイギスの一人一人に割り当てられているらしい、彼女の部屋に案内された。

 中は所謂ワンルーム、所謂一人暮らしの平均といった感じの部屋となっていた。ベッドが一つと机と椅子のセットが配置されていて白を基調としたやや無機質な印象の部屋だった。

「由希の部屋も既に用意されてる。この部屋の隣がそう」

「そうなのか」

 とはいえ、由希はいまいち実感がわかなかった。

 実の両親じゃ無いとはいえ、帰る場所があるからだ。

 その気持ちはまひろも分かっているようで、

「別に無理やり住む必要はないわ。実際、私も常に使ってるわけではないし。ただ、オーナーになると、そういう境遇の人は少なくない。だから、こういった施設が必要なの」

「なるほど」

「座って」

 部屋に入ってから突っ立ったままの由希をまひろが促した。

 迷った挙句、由希はベッドに腰かけた。

 まひろは立ったまま続けた。

「支部長変わってるでしょ」

「うーんと、変わってるというか。まあ、俺たちの中の常識が通じない感じがしたかな」

「そうよね」

 まひろは思いを巡らすように語った。

「あの人は、オーナーになった人間がそれからどんな苦難にさらされるのかたくさん見てきているの……それは、最初に超能力で目覚めた時に周りを巻き込んでしまうことなんて、全然軽いくらいに」

 まひろの口調は硬くて、どこか自分を責めているように聞こえた。

「さっき由希が女の子に襲われたことだってそう。CSの連中は目的のためになりふり構わない。それに奴らだけじゃない。色んな勢力から狙われるようになるの。それは政治のためだったり、研究のためだったり……危ないから始末しようとするためだったり……オーナーになるっていうのはそういうことなの」

 由希は再び、少女に襲撃されたことを思い出した。

 これからの人生、あのようなことに巻き込まれ続けるというのか。

「ごめんね」

「え?」

 また、まひろが由希に謝罪をした。

 問い返そうとして、不意にベッドがきしむのを感じた。

 そして、由希は隣から小さな衝撃を感じた。

「私が、由希を巻き込んだ」

「……まひろ」

 まひろは由希の肩に額を当てながら、消え入りそうな声音で言った。

「あの日、私たちが宝探しに出た時の事、覚えてる?」

「……ああ」

 忘れるはずがない。

 それは、まひろが変わってしまったきっかけになった日だ。

「あの時、私たちはレリックに触れてしまった。そして、アナザーセンスを得ることになった」

 人は、レリックに触れることで超能力「アナザーセンスに」に目覚める。

 軽率なことに由希とまひろはレリックに触れてしまった。

「私は目覚めてすぐ、アイギスに保護されることになった。でも由希はそうならないまま、退院することになった。どうして由希だけ見つからなかったのか理由はわからない。でも私はそれ以来、由希がオーナーであることが知られることがないようにした。アイギスの活動をしながら、決して由希の事はばれてしまわないように……でも、結局だめだった」

 まひろの声音は既に途切れ途切れになっていた。

「ごめんなさい……あたしが、あの時、考えなしに、由希を誘ったせいで……」

 それは懺悔だった。

 まひろは目覚めてから、ずっと罪の意識に苛まれ続けてきたのだろう。

 そして、由希の事を見守ってきていたのだ。

 今もこうして、か細く震える声で罪を告白している。そこに、どれだけの葛藤があったか。どれだけの勇気が必要だったか。

 それを、俺は……。

「まひろ」

「え?」

「謝らなければいけないのは、俺だ」

「そんな……由希は悪くない」

 大きな瞳に涙をためながら、まひろが否定する。

 そんなまひろを真っすぐ見つめて、由希は続けた。

「俺だって、まひろを守ることが出来なかった。守るって約束していたのに、何もできなかった」

 今度は由希が懺悔をする番だった。

 由希はしがみつくまひろの薬指に目をやった。

 そこには、何もつけられていない。

 しかし、それだけのことだ。

 小さいことにこだわっていた自分が恥ずかしくて仕方なかった。

 まひろはここにいて、由希をこんなにも想ってくれている。

 それだけで十分だ。

 由希はまひろの頭に手を置いた。

「今までちゃんと言えなくてごめん……それと、ありがとう。まひろ」

「由希……っ」

 まひろが腕に力を込めてくる。

 それは痛いくらいだったが、不思議と心地の良い痛みだった。

 正直言って、まだ全てを受け入れられているわけじゃない。

 いきなり超能力が使えると言われても、ピンとこない。

 アイギスという組織について、具体的な事は何もわかっていない。

 それでも、今こうして自分の胸の中に、決意のようなものが生まれるのは感じた。

 それは確かな熱を持っていた。

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