組織への入団

第9話

  由希はまひろに連れられて町はずれに来ていた。開発工事に取り残されたのだろう、寂れたマンションが建てならんでいる。

 その中の一つの前でまひろが立ちどまった。

「どこなんだ、ここ」

「由希に、見てもらいたい場所がある」

「どういうことだよ」

「言ってみれば、私たちの活動拠点」

「えっと、それってどういう……」

「教えるよりも、見てもらった方が早いわ」

 そういうとまひろはマンションに入っていった。

 由希も慌てて彼女を追う。

 古い建物のため、セキュリティは甘いようで玄関はロックはおろか守衛すらいないようだった。

 まひろがエレベーターに乗り込んだので、由希も続いた。

 何階に向かうのか由希がまひろを眺めていると、突然まひろが階数のスイッチをめちゃくちゃに連打し始めた。

「ちょ、ちょっと、まひろさん」

 小さい頃から一緒だった幼馴染の乱心に、由希はいよいよ念仏でも唱えようとした時、まひろの手が止まった。

「だ、大丈夫か?まひろ」

「何が?」

「えっと……その、色々」

「今押していたのは、秘密のコード」

「え?」

「私たちのアジトに向かうための……これを押すことで通常とは違う階層に行くことが可能なの」

 まひろが言い終わると同時にエレベーターのドアが閉まった。

「な、なるほど」

 そして、エレベーターが下向きに動き出した。

「地上ではなく、地下にエレベータが動くの」

「そういうことだったのか」

 由希は心の底から安堵した。

 幼馴染はおかしくなったわけではなかったのだ。

 二人を乗せて、エレベーターはどんどん地下に潜っていく。

 高いところに上った記憶はいくらかあるが、地中深くに潜っていったことのは初めてだなと、由希は妙な感慨を抱いた。

 やがて到着を知らせるベルが鳴り響き、エレベーターが開いた。

 その向こうに広がる光景に由希は驚愕した。

 そこには地上のマンションの敷地と同じかそれ以上の広さの空間が広がっていた。

 中央には螺旋状の階段があり、どこか客船のロビーを思わせる出で立ちをしていた。由希たちのいる1階のフロアにはホテルの客室のような扉が並んでいる。2階にも同じ扉が並んでおり、階段を上った先の扉だけは、他の扉に比べて重厚な作りをしていた。

「ここは……?」

「今から支部長に会ってもらうわ」

「支部長って?」

 勝手に歩き出そうとするまひろに、由希はとうとう抑えきれずに問いかけた。

「ちょっと待てよまひろ。そろそろ説明してくれ」

 由希の中の、今まで自分の胸の内にため込んで来た疑問が爆発した。

「ここは一体何なんだ。なんでマンションの地下にこんな空間があるんだ。支部長ってなんのことだ。あと、あの子の使ってた影みたいなのはなんだ。ついでに言えば、まひろはなんで銃を持ってて、しかもそれが手のひらから生まれてくるんだ。もっと言えば、なんでまひろはあの場所にいたんだ。ついでに、さっき言ってた『オーナー』って何のことだ。……」

「待って……そんな、いっぺんに聞かないで」

 まひろも、突然の由希の暴走にどうすればいいか困惑しているようだった。

 そんな行き詰った二人の頭上。

 階段を上った中央の部屋の扉が開くのが見え、中から人が現れた。

 出てきたのは、小柄な少女。

 輝くような金色のセミロングヘアに、可愛らしい臙脂色のハットが乗っかって、同色のマジシャン風のワンピースを身にまとっている。

 突然の闖入者に由希が唖然としていると、

「あれがうちの支部長……彼女が、すべて説明してくれるわ」

 まひろの言葉に、その支部長とやらは不敵に笑った。

 そして――

「私がここの支部長、匂坂ミントにゃ。世良由希君、君を歓迎するにゃ!」

 由希の疑問がさらに増えた。

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