再会と襲撃
第5話
警察の事情聴取は簡易に済まされ、目覚めたその日のうちに由希は退院することになった。
病院が叔父夫婦に連絡してくれたようだが、仕事を抜け出してまで迎えに来てもらうほどでもなかったので由希はまひろと共に帰宅することになった。
自宅までの道中、由希は先ほどまひろに聞きそびれたことを思い出した。
「さっきはどうして謝ったんだ?」
行きの問いかけにまひろは答えようか迷ってるようだった。
まひろの反応に由希はなんだか悪いことをしてる気になり、話題を変えることにした。
「今日は大丈夫だったのか?」
「え?」
「ほら、いつも放課後は用事があるって言ってどこかへ言ってたじゃないか。その用事は今日はなかったのか?」
「……うん、大丈夫」
由希の思惑とは裏腹に、まひろの表情は沈んだままだった。
どうしたものかと、悩む行きだったが、意外にもまひろの方から口を開いた。
「こういう時のために私はそれをしていたから」
「それは、どういう意味なんだ?」
「......えっと」
再びまひろが言葉に詰まった。
しかし、それはどうすれば上手く説明できるかを考えている間だった。
今はそれだけで、由希にとっては十分だった。
やがて由希の自宅とまひろの自宅との分かれ道に差し掛かり、お互い立ち止まった。
「まあ、言いたくなったら教えてくれればいいから」
「……ありがとう」
「いや、お礼を言うべきなのは俺の方だ」
「え?」
まひろは目を丸くして由希を見た。
「俺が目覚めるまで隣に居てくれて、ありがとうな」
由希に言われたことがよほど意外だったようでまひろは更に目を大きく開いた。
そして、照れくさそうに顔を伏せて、
「.......どういたしまして」
「じゃあ、また明日な」
「うん」
別れ際に由希がまひろの顔をこっそり盗み見ると、ちょうどまひろも由希の顔を覗き見たようで、目があった。
夕日のせいかもしれないが、まひろの白い顔が赤く染まっているように見えた。
由希まで照れくさい気持ちになりながら、まひろと別れて家路に向かった。
帰宅すると、いつも見慣れたわが家の匂いに出迎えられたり
たった一日入院しただけなのにひどく懐かしく感じた。
由希は自室に戻り、着替えもせずにベッドに寝転んだ。
由希は何をするでもなく、ぼんやりと見慣れた天井を見つめる。
叔父夫婦はまだ帰って来ておらず静かな家の中で、ようやく由希は自分が日常に帰ってきたのだと感じた。
そうすると、今度はこの前の出来事が本当にあった事なのか信じられ無くなってきた。
気絶する前の記憶を思い起こす。
周りの者がひとりでに動いたり、破壊されたりしていた。
言うまでもなく非現実的だ。
しかし当時は、自分の中に信じられないくらいの大きな衝動がわいてきていて、それを不思議とも思わなかった。
そんな事を考えてくると、否応なく嫌な思い出まで蘇ってくる。
次々と巻き込まれている不良たちの姿。
自業自得とはいえ、決して軽くはない報いを受けた。
胃の中に湧き上がる不快感を感じながら、由希は改めて自問する。
あれは、本当に現実だったのか
由希が彼らを傷つけたという事実。
それは果たして本当に起きてしまったことなのだろうか。由希はその現実から目を背けたい気持ちになる。
由希は病院の事情聴取での警官たちを表情を思い出した。あの時はもどかしく思えた彼らの様子が、今は却ってそうあって欲しいものになっていた。
そわそわと落ち着かない気持ちになって、やがて、由希はたまらなくなってベッドから起き上がり家を出た。
由希が向かったのはあの時の事件現場だった。本当にそれが実際に起きたことなのか、確かめずにはいられなくなったのだ。
部屋でうとうとしていたせいで、外はもう暗くなっていて、学校へ向かう道はほとんど人通りがなかった。
やがて現場にたどり着くと、由希は目の前の光景に愕然とした。
学校の校舎を出て、裏道に入った路地。
そこはまるで、天地がひっくり返ったようなありさまだった。
立ち入り禁止を示す黄色いテープの向こうで、かろうじて生き残った電灯が、闇の中の無残に破壊された車や、壁、地面を照らしている。
あまりの惨状に、由希は膝から崩れ落ちた。
これを、自分がやったというのか?
いまだに信じられない。ここまでの現実を目の当たりにしても、いや、むしろ改めて見たからこそわからなくなっていった。
呆然としながら、由希は頭の片隅でこれが人通りの多くない場所で良かったと思った。もっと被害が大きくなったことであろうし、何よりこの光景を前に呆然と膝をついているのはどう考えても不審極まりないからだ。
そうして由希が僅かに安堵していると、
「こんなところで何してるのかな、ヒーローのお兄さん」
由希が驚いて振り向くとそこには少女が一人、立っていた。
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