第15話 芸術だと思い込もうとして見た件
王族用のプライベートビーチは館の裏手から直接行ける。きちんと手すり付きで整備された階段が作ってあって、そこを通ればビーチまで直行できるように整備されてる。
流石は王族のプライベートビーチという感じだけれど、僕としてはこう、至れり尽くせりだとちょっと恐縮してしまうんだよなあ……。
そして、階段を降りて僕達が目にしたものは――。
「わあ……これは、すごいね……」
「おー。良い感じ」
「うむっ! エモいのー!」
「確かに。美しい砂浜ですね」
階段からそれを目にして、みんなと共に声を上げる。
真っ白い砂浜。陽光を浴びて透き通る海はマリンブルーとエメラルドグリーンのグラデーション。
それだけでも綺麗なんだけど、三方を囲まれるような入り江になってる。
陽当たりが良くて明るい雰囲気なのに、外からはあまり目に付かない。誰かが間違って立ち入ったりということもないというか、警備する側としては対応もしやすいんだろうね。
浜辺の一角には小屋も立っていて、着替えたり休んだり、簡単な食事をとったり軽く身体を洗ったりもできるようになっているって管理人さんには教えてもらっている。
「これならばセシル様と落ち着いて過ごせますね」
「最高。私も思い切り遊べる」
「一応崖上や入り江の向こう側に探知の網は置いとくかの。小屋の方も念のために安全確認はしておくぞ」
マグノリアが保険として索敵のための魔法をかけてくれる。安全の確保と確認もできたということで、まずはパラソルとか、その辺をみんなで設置していった。
「この辺が良さそう。眺めが最高」
「小屋からも近いですからね。利便性も良さそうです」
「じゃのー」
「それじゃ、ここに決定で」
「パラソル差しますー」
日除け用のパラソルにビーチチェア、ビーチテーブル。砂浜に寝転ぶためのタオルを敷いたり……店員に聞いてきた最近の流行りだという作法通りに海水浴の準備をする。泳ぎ疲れたらここに寝転んで、飲物を飲んだりする、と。うん。
「中々良い感じじゃないかな?」
「うふふ。楽しくなりそうですね」
「うむ。では小屋も見てみるかの!」
みんなと共に小屋に入る。風通しが良くて暑さも籠らない涼しげな作りだ。採光窓からの眺めも良いね。広々としたリビング。厨房や砂を洗い流すシャワー設備なんかも充実してて、いい感じだ。
「じゃあ早速」
というリンネの声にそっちを見ると、自身の上着に手をかけているところだった。
「いや僕がまだここにいるから待って!?」
「大丈夫」
言うが早いがリンネは上着を脱ごうとして――僕は思わず視線を逸らす。
「もう下は水着。常在戦場の心得」
「常在戦場というか、遊ぶ気満々の方ですね」
「儂も実は早く遊びたくてのー」
という声が聞こえた。はあ……びっくりした。
少し安心してそっちに視線を移すと、マグノリアが服を脱ごうとしているところで――。白い腹部が結構際どい所まで露わになって……んん?
「ちょっと!? マグノリアの水着はワンピースタイプだからまだ着てないよね!?」
「……ちぇー。いや、儂も実は下に着ておきたかったのじゃがな、という話でな?」
僕がギリギリで視線を逸らしたらマグノリアはそんな言葉を続けた。確かに嘘ではないけどさ……!
「――うん。あっちで着替えてくるね……みんながちゃんと着替え終わったら教えてくれる?」
「うふふふ……わかりました」
「ご主人様にお披露目するのは楽しみ」
「くふふ……。そうですね」
「うむうむ!」
みんなの声を背中に受けつつ奥の小部屋に入る。僕の場合は水着の構造が簡単だし着替えもすぐに済む。手早く服を脱いで水着を履けばそれで完了だ。
そうして着替えてしまうと少しやる事が無くなってしまう。待っている時間にどうしてもあれこれと考えてしまうんだ。
三人からの僕に対する好意が強いのは何でだろうって、やっぱり戸惑う部分も多いんだけれど……僕に見せたいっていうのなら、ちゃんと見て感想とか言わないと失礼なのかな……。みんな、楽しそうに水着選んでたもんね。
店員は肉体美とか芸術とか言っていたし、マグノリアも芸術品なんて言っていたけれど……そう受け取れば照れずにちゃんと向き合えるんだろうか。うーん。
そのまま少し待っていると、扉をノックする音が響く。
「セシル様、私達の着替えも終わりました」
「うん。分かった」
部屋を出ると――みんなもしっかり着替え終わっていて――。
「如何でしょうか?」
「似合う?」
「くっふっふ。もっと近くで見てよいのじゃぞ……!?」
そう言って僕を見てくる三人。水着店に引き続き、またからかわれている気がするな……?
でも、みんなもちゃんと見られるように僕もみんなに目を向ける。やっぱり露出が多くて頭がくらくらしそうな光景ではあるんだけど。
あー……えっと。店員さんはなんて言ってたっけ。そう、肉体美だ。マグノリアは芸術だとか……。あれは芸術、芸術……。うーん。
「えっと――……」
クリスティアは――そうだね。三人の中では一番背丈が高く、身体もメリハリがある感じ。前衛としてはスピードタイプのリンネとはまた違って、かなり頑強な印象があるんだけど、神聖魔法や身体強化の魔法も得意だから、騎士や兵士達と違って別段筋肉質なんていう事はない。細身でスラッとしていて、引き締まるところは引き締まっているのに部分部分では肉付きが良くて、柔らかなシルエットをしている……って言えば良いんだろうか?
黒くて艶やかな髪と、白い肌のコントラストが印象的だ。白いパレオ付きの水着も、実際に着ているところを見るとドレスみたいな印象があって。普段から白い法衣を纏ったり金色に煌めく魔法を使っているから、その辺のイメージもあって荘厳で神聖な雰囲気も感じられる。
クリスティアが柔らかな印象なら、リンネはしなやかな印象だ。
身体が柔らかくて俊敏なリンネは、体術というか体幹というかが、とにかく洗練されていて、何気ない動作も流麗なんだ。普段の動きからしても大きな猫を思わせるところがあるからね。
勿論、鍛え上げられているんだろうけど、筋肉質過ぎるという感じはやっぱりしなくて。お腹とか鍛えられた筋肉の上に薄っすらと肉がついていて、肉の上から筋肉の流れがちょっと分かる感じが、確かに芸術というか奇跡的なバランスだ。
普段あまり体型のでない服を着ているということもあって、身体の線を見ると意外にって言うか結構メリハリがついた起伏に富んだ体型をしている。
水着は上下共に黒に近いブルー。フリルがついていて、実際に着ているところを見ると最終的には可愛らしいイメージが強くなる。
当人も時々可愛い物が好きって言ってるし、リンネの好みで水着を選んだんだろうね。白いラインも入っていて、黒と銀色に分かれた髪色に合わせた感もあって、よく似合っていると思う。
マグノリアは――アンバランスさの魅力、って言えば良いんだろうか。
子供モードの時は爛漫に振舞うけど、素の部分、内面は大人なんだよね。見た目より長生きしてるって教えてくれたけれど。
だから破天荒な行動もするけれど、動作とか振る舞いというところでは大人のそれが垣間見えると思う。
存在感のある黒い水着と甘い感じのあるストロベリーブロンドが合わさって両方を引き締めているんだけど、子供か大人か判別付きにくいアンバランスさっていうのはやっぱりマグノリアの魅力だ。
細身で子供らしい特徴が強いのに、成長するとこうなるんだろうなって思わせられる部分があって。そこにマグノリアの大人としての内面から来る振る舞い、仕草が合わさると、目を惹きつけられるっていうか。
ワンピースの水着も臍のところや脇腹のところが開いていて、黒い水着だから肌の見えている部分を強調してよりそういった部分部分に意識を向けさせて魅力的に演出しているっていうのはある……気がする。
と……そこまで真面目に考えて分析して感想を抱いたけれど、いざそれをみんなに伝えようとしたところで、芸術とか肉体美とか考えて誤魔化せていた集中が途切れた。
いやこれは……冷静に考えると露出高いよねとか、胸の谷間にホクロがとか、一度気付いて色々意識してしまうと、駄目だ。顔が赤くなってしまう。
「や……ごめん。見て欲しいって言ってたから真面目に感想を伝えられるようにって思ったんだけど、うん。その……ごめん。ちゃんと感想は伝えるから」
そう言って顔に手を当てて目を閉じる。
「くふっ。これは良いですね……」
「これは可愛い」
「うーむ。想像以上に破壊力が高いのう」
うーん。……さっきまでしっかり見ていたから目を閉じてもみんなの水着姿が脳裏に焼き付いてしまっているというか……。まずは落ち着こう僕……。
――――――――――――――――――――――――
次回で第一章終了となり、次回更新までは少し間が開くことになるかなと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます