第5話 周囲の人達が王様に連れていかれた件

 で、それから。

 三人は言葉通りに裏で事を進めていった。表に噴出したのは何だか裏帳簿が見つかったとかで王宮内が騒がしくなった時だ。それはそうだ。リンネとマグノリアが裏で色々動いてるのだから。


 怪しかった奴を監視。そいつに接触してきた奴をマーク。口封じはそれとなく妨害。裏帳簿とかの証拠を見つけたらこっそり持ち出して告発という形で流出とか色々やってた。やりたい放題してた。


 次はあいつ。その次はあれと色々と計画を立てて動いた結果だね。


 しかし、これでも加減してるらしいんだ。面倒臭いけど、切ってしまうと国の運営が立ち行かなくなる人達というのもいるらしいので。それで滅んだ国もあるらしい。

 だからまず僕達に関わる範囲でこっちに目が向かない程度に目障りなとこを切除。残りの腐った部分は時間をかけて真綿で首を絞めるように有名無実になるまで力を削いでいく――んだそうです。怖いね!


 で、二人が裏で動くその一方で、クリスティアは僕と共に表舞台で立ち回る。

 要するに訓練や授業に同行することで護衛をしつつも、色々やる。

 何せゴブリンの巣穴をマグノリアとの二人で壊滅させたって思われてるからね。戦闘能力はお墨付きだ。


 王様から励めって言われた通り、実地訓練と称して魔物退治とか行ったり、王国の役に立ちたいと慈善活動を申し出て街で治療を施したり。政治的にはあまり重要でない動きを見せて注目を集める。


 マグノリアの表での扱いはというと――攻撃魔法は得意だけど政治的なとこはからきしと思わせるように振る舞っている。

 何せ、見た目が子供で言動も行動も爛漫に見えるからね……。魔物退治の時以外はお菓子を食べて昼寝をして、おだてられると手の内をポロッと口にする。扱いやすいと思わせてる。


 攻撃魔法の伝授をして欲しいという要望もあったのだ。でも、そうはならなかった。

 訓練場で宮廷魔術師や魔法適性のある兵士達を前にマグノリアが魔法を実演するということになったんだけど――。


「いーい? グッとやるとこの辺がそわそわするからー……そしたらグワッてしてドーンッ!」


 とか言って星のように煌めく目を無邪気に輝かせ、初級の魔法ですごい火力を叩き出すマグノリアに宮廷魔術師は大笑いしてた。そして天才故に他人への伝授は無理だと早々に諦めたらしい。


 当人はお菓子とか食べて昼寝してていいから「役得じゃのう!」とかウハウハしてるけど。

 そんな振る舞いを見せている後ろで、魔法を使って色んなとこ監視したり干渉したりしてるんだ。僕への授業も非常に分かりやすい。時々危険な事を言うけどね……。


 そしてリンネは完全隠密。僕達以外の誰にも存在すら知られてない隠し玉だ。


「色々窮屈な思いしてない?」

「全然。影の中は広くて快適。任務で同じとこから動かず3ヶ月籠ってたこともある」


 ある時心配して聞いてみたがリンネからはそんな返答があった。


「というか、ぬるいわ。向こうは初動でこっちの重要度を低く見積もったからの。甘すぎる」

「そもそも国の中枢に得体の知れない相手を引き込んでしまった時点で最大限警戒しなければいけません」

「私のことも知らないから、どっちにしろ無理」

「カカカッ! そうなるとこうやって内側から好き勝手されるってわけじゃな! 戦乱で功ある者が平和になってから粛正されるというのは、こういう事が起こり得るのが理由じゃぞ。覚えておくように」


 ということらしい。勉強になります……。


 そして、不正の調査が進む中で僕の周囲にいた人達がごっそりすげ変わる出来事があったんだ。


 要するに……王様が僕のとこに視察にきて、僕の扱いの実際のところを確かめて、切れた。僕だけの事じゃなく、横領だとか賄賂もあったみたいだからね。


 告発にちょっとずつ僕の歳費がちゃんと使われてないのを示唆させる内容を紛れ込ませていったらしいよ。失脚する者が出る中であからさまに僕だけ得してるとバレるので、あくまで王宮内の派閥争いで告発が起きてると思わせてるのだとか。


「ほほう。余に上がっていた報告とは随分違うように思えるな?」

「そ、それは……その……」


 王様に視線を向けられて青い顔をしてるのは、警備とか身の回りの世話をしてくれてる人とか訓練とかを担当してる人とか家庭教師とか。要するに、僕をいびってた人達だね……。


「余はこう命じた。後ろ盾を持たず、城下で育ったセシルが王宮で立場が弱いのは仕方がない。しかし至らぬ部分は育てれば良いとな。それを踏まえた上で王族として恥ずかしくないよう鍛えるようにと。それをこのような扱い。王家の血を軽んじておるのか? 貴様らが仕えているのは一体誰だ? 余か? 外戚か? 他家の者か?」

「も、勿論陛下でございます……」

「では、何故こうなっている? 誰か。誰でもいい。明確に答えよ」


 と言われた面々は発言できない。青い顔のままこの世の終わりみたいな表情で俯くばかりだ。そうだね……。王様にガン詰めされてる場面で迂闊に矢面に立ちたくないね……。


「もうよい。この連中を下がらせよ。沙汰は追ってする」

「お、お許しを! ど、どうか!」

「陛下! 陛下ー! は、離せ!」

「わ、私は言われた通りにしただけで……ッ!」


 王様が言うと、彼らは謝罪や言い訳の言葉を口にしたり、泣いたりしながら兵士達に引き摺られていった。


「……というわけだ。いらぬ苦労を掛けてしまったな、セシル。これからはこのようなことがないようにしよう」

「お心遣いありがとうございます、陛下。今のお言葉を胸に、腐らず精進を続けたいと思います」

「そうか……うむ。実際にそなたは召喚された二人と共に精力的に動いているとも聞いて感心しているぞ。そなたには期待している」


 王様は僕の返答に満足そうに頷くと立ち去っていった。

 王様。本当の父。僕としては……どう接して良いか全然わからない人だ。会った時から王様として接してくるから、僕だって他人行儀になるしかない。父だという実感もない。

 だから……貴族や王様に接する時の礼儀というのを教えられた通りにこなしてる。これは、父さんや母さんから教養として教えてもらったことなので、間違ったことじゃないみたいだ。


 王様が何を思って僕を外に預け、どうして呼び戻したのか。それを僕は知らない。


 どこの馬の骨かもわからない端女の子。

 そんな風に僕のことを呼んでいる人がいることを知ってるし、実際にそう言われたけれど。本当のところがどうなのか。それを僕は知らない。知ったら、王様への考え方も何か変わるんだろうか。

 王様とか、王子とか。王族が重い物を背負っているっていうのも、実感はしてなくても立場を考えればきっとそうなんだろうって想像することぐらいはできるから、何も言えなくなってしまうんだ。普通の親子とは、違うんだろうなって。


「集めた情報からすると、さっき王様が言ったことは本当みたい。少なくとも敵ではない」


 僕達だけになった部屋で、影の中からリンネが言った。


「私としてはあの方について何か言うのは控えておきます」

「そうじゃな。庇う事も悪く言う事もせんことにしよう」

「それは……うん。有難いかな。あの人に対しては、どんな形であっても僕の中で納得がしたいんだと思う」


 これが答えだって外から決められてしまうのは、嫌だし。

 ただ、敵ではないし、建前と本音が違うのかは分からないけれど、僕の扱いを知ったら怒った。それは、ちゃんと覚えておこうと思う。


「……ちなみに、私は味方。命かけていい」


 影の中から半分だけ顔を出してリンネが言ってくる。


「む。そこの。抜け駆けはやめんか」

「じゃあ私達?」

「そこに全く異存はありませんが、他人の命を勝手にかけるのは如何なものかと?」

「異存ないんだ……? 命まではかけないでね……?」

「そんなセシル様だからこそ、仕えたいと思うのですよ? ああ。良い……。くふっ、うふ、うふふふ……」


 頬に手を当てて恍惚としたような表情になるクリスティアである。クリスティアは僕に関することで何かがツボに刺さると偶にこうなるみたいなんだよね。


「わかりみが深い」

「同感同感」


 目を閉じてうんうんと頷くマグノリアと、顔を半分だけ出したまますいーっと泳ぐように滑っていくリンネ。

 三人とも何か……やたら僕への評価が高くて、困惑することしきりだ。彼女達が僕を守ってくれるのは、彼女達が僕のスキルで助けられた、みたいなことを言っていて、それを恩義に感じてくれているからだと思う。


 でも、僕自身を評価してもらえるようなことを、僕が何かしてるのかと言われるとよく分からない。


 んー。それともあれかな。僕は疎まれていたし、褒めることで自信をつけて欲しいとか? 歳の離れた弟みたいに見られてて、可愛がってくれてるんじゃないかなみたいなところもあるしね。それなら……うん。分かる気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る