第4話 誤情報を垂れ流してみた件
三人は別に、すぐさま洞窟前に戻って騎士や兵士達をどうにかしたっていうわけじゃない。誰が僕を突き飛ばしたのかわかってなかったというのもあるし、シャーマンが仕掛けた罠を僕が誤認したのだろうって言われたら、否定しきれるものじゃなかったから。
「ふ、ふふ、ふ。その方達……どうしてくれましょうか……」
「私が昔いたとこならそんな不忠は一族郎党始末されるぐらいある」
「まだ洞窟内にいるんじゃろ? 不幸な落盤事故とかどうかの? 処す? やっちゃう?」
彼女達の背後に見える風景が陽炎みたいに揺らめいているのは目の錯覚かな。
「いやいやいや……。ちゃんとした証拠は必要だよ……。本当に知らなかった人だって、いるかも知れないし……」
「我が主は慈悲深い事です」
「じゃあ、使い走りではなくその上から根絶」
「そうさな。根っこからじっくり徹底的に行くかの」
……一先ずは止まってくれたみたいだと、僕は息を吐く。
さて。その時僕達は助けた子供に状況の齟齬を悟らせないために兵士達に会わせず先に外に出ていたけれど、これは誰が関わっているかを調べるのに使えるような気がした。「えっと……これも兵士達の判別に使えるんじゃない?」と僕が言えば、マグノリアは「ほーう。我が主殿は冴えておるのう」とにやりと笑った。
まだゴブリンの巣から出てきてない者の中に、僕を陥れようとした人がいる。でも外にも共犯がいないとは限らない。だから姿を見せて観察する。
「あれ? 殿下? 巣穴に入ってたはずじゃ?」
「そのお嬢さん達は一体……?」
僕達が姿を見せてものほほんとしていたのが外の兵士達。中で何があったかなんて知らない。中にはクリスティアとマグノリアの姿に見惚れてる兵士もいた。
二人とも黙ってたらすごい美女、美少女だからね……。リンネもやっぱり綺麗なんだけど、この時はその場にいなかった。巣穴の中の様子を見に行ってたんだ。
「ああ。紹介するよ。クリスティアとマグノリア。僕のスキルで呼んだんだ。それで、危険があったから二人の力で外に避難させてもらったんだよね」
「で、ではその方達が英雄……?」
「うふふ……。回復魔法を少々嗜んでおります。ゴブリンとの戦いで怪我人がいらっしゃいましたら私が手当てをしましょう」
クリスティアは微笑みながら治療を施す旨を伝えていた。嗜んでいるなんてレベルではないんだけど、ある程度の力を見せる事で容易に手出しはできないと思わせるまでがマグノリアの策だ。適当なところでふらついて見せて、その辺が限界だと見誤らせる二重の策じゃな、とも言ってた。
僕達が外でそんな話をしている頃、中にいる兵士達は、ようやく広間の惨状を把握したらしい。青い顔をしながら滅茶苦茶になった広間の中に王子がいないって大騒ぎになっていたみたいだ。
「あいつらの顔はしっかり覚えた」
戻って来たリンネは後からそう教えてくれた。
隊を率いていた騎士は僕達が外にいるのを見て顔色が青くなっていた。中の惨状を見たら、僕の隣にいる人達は滅茶苦茶強いって理解しているだろうし。
「顔色が優れないようですが、大丈夫ですか? ふふ、ふふふ」
笑うクリスティアに、騎士は真っ青な顔で大丈夫だと応じていたっけ。追及してこないのが逆に不気味だったのだろう。
ゴブリンの掃討から帰った僕達は、謁見の間にて王様にスキルについての報告をした。クリスティアとマグノリアが挨拶をするがリンネは不在だ。最初から姿を見せる気がないし僕達も報告に入れていない。
「ご主人様の隠し玉。どうせ初めて来たのがいつかなんて、わかりやしない」
というのはリンネの弁。ともあれスキルによって二人が実際にやってきたことで、王様も僕に質問してきた。
「ふむ。して、どのようなスキルなのか。セシル、説明せよ」
「ええと……スキルの熟達に応じた強さの人達を召喚することができる、というものです。僕の身を守ることを第一に考えて動いてくれる……みたいですね。僕からあまり遠くに離れることはできないみたいですけど」
「ほう。そこな二人は何ができる?」
「二人とも、相手は国王陛下だ。正直に答えて」
「白兵戦と回復の魔法を得意としております」
「あたしは攻撃魔法がすごい得意だよ! どっかーんってするの! マグノリアは天才魔術師なんだよ!」
すみません。かなり嘘多めです。事前に打ち合わせた上で誤情報垂れ流してます。マグノリアなんてほんとに子供の振りしてるし。
嘘を感知する魔法とか魔道具の働きはマグノリアが妨害してる。この時あからさまにほっとした者も居並ぶ者の中にいたらしい。王様も側近の宮廷魔術師と一瞬目配せをし合うと、上機嫌そうに相好を崩した。
「ふむ。中々有用そうなスキルよな。召喚された者達に見劣りせぬよう、セシルも励むがよかろう」
「はい。精進します」
ちなみにゴブリン掃討に付き添った騎士は体調を崩したとかで欠席だ。
僕はスキルを使って助かったけど、それは結果論。巣穴の中で見失ってしまったのは失態だと言われていたし、だから仮病を使っているのだろうなんて噂されていた。
出世コースから外れるとか噂してる人もいたとか。目論見通り僕が死んでても、そうなってたかも知れないね。
王様への報告を終えて自室に戻って来た僕が騎士について感想を述べる。
「ところであの騎士は、何か弱みでも握られてこんなことしたのかな。僕が死んでても、すごい立場悪くなるよね」
「何も考えてない可能性」
「……珍しいことではありませんね。コネや賄賂で不相応な地位にいる方というのは時折います」
「ふふん。なら後ろ盾に甘えてるんじゃろうよ。いずれにせよ愚物じゃな」
リンネがそんなことを言うと二人も所感を口にする。
「ま、これからじゃ。守りを固めつつ牽制して出方を見る」
「で、怪しい騎士や兵士の周囲を監視してそこで得られた情報から証拠集め」
「僕は……何をしたらいい?」
「うふふ。私達に万事お任せ下さいませ。セシル様は寛いで過ごして下されば」
「そうじゃな。後は儂らが愚物を端から潰していくだけのこと」
それで良いんだろうか……と、僕としては悩んでしまうところがある。それが顔に出ていたのか、マグノリアがふと真面目な表情になる。
「……触れるだけで思考や精神性が穢れる奴らというのはおるのじゃよ?」
「触れるだけで……」
「そうですね。ですから、任せるのが心苦しいのなら私達だけで対処をしようとしているのは、私達の方が主に関わって欲しくない人達だからなのだと、そう思って下さい」
「そういうのに影響されずに向かい合うのって、心構えとか信念とか芯とか……何でも良いけど準備がいる。セシルがそんなのを見なきゃいけないのは、少なくとも今じゃないと思う」
三人の言葉にはどこか実感めいたものがあって。
でも少し真面目な空気もそこまでだった。
「うむっ。そこ行くと儂なんかは大人じゃから酸いも甘いも噛み分けとるってわけじゃな! カッカッカッ!」
僕と同じぐらいの背丈のマグノリアが腰に手を当て、胸を反らして笑った。
「マグノリア、何歳?」
「見ての通りピチピチのギャルじゃが? ま、そもそも儂らに実年齢を問うのも意味がない気がするがの!」
「うふふ。享年しかはっきりした事は言えませんね」
「あ……。そこも気になってた。僕のスキルで来てくれたみたいだけど、その辺どうなってるのか聞いても……大丈夫?」
享年。一度亡くなって、それで再臨したって言うのは間違いない。僕は僕の知れる範囲でしかスキルを理解できてない。3人とも僕を主といって大切にしてくれるけど、その辺に理由があるんだろうかと、不思議に思っていたことを尋ねた。
「うふ、うふふふふ……。勿論ですとも。何でもお答えしますよ、セシル様」
僕の質問にクリスティアは胸のあたりに手を当てて言ってきた。何か嬉しそうというか、テンションが上がってるというか、目をカッと一瞬見開いてた。
「じゃあ。聞いても大丈夫なことなら」
「私の場合は――人生が終わりを迎えようというその時に、天啓を得たように悟ったのです。これが終わりではない、と。この魂を掬い上げ護って下さる方がいる。いつかセシル様とお会いできる時が来るのだと、そう理解し、主から差し伸べて頂いた手を取りました」
「右に同じ。だからセシル様は命の恩人だし、同時に心も一度救われてる。命の方は一度死んでるんだと思うけど」
「儂もそうじゃな。そういう特性を持ったスキルなのじゃろうと、今のとこは主観で感じた範囲からの推測でしか言えん。連続性が保たれているかどうかは不明じゃが、生前との変化は観測しておらん。主殿のスキルも含め、未知が増えたというのは喜ばしい」
「僕がスキルの使い方を理解した時みたいな感じに、こうなる事を理解した……って言う感じでいいのかな」
「うむ。しかも時代も距離も関係なくといったところか」
「まさに奇跡の御業です」
こんなすごい人達が僕みたいに何でもない子供を主としてくれるのは、そういうわけらしい。
僕はその時、安心したのを覚えている。洗脳だとか強制的に言う事を聞かせてるとか、そういうのじゃなくて良かったと思った。
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