第30話 逆カルチャーショック・環境格差・未来は?

仕方なく帰国。この先は結構キツイです。

遅れましてすいません。

どうぞ。

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 帰国。空港の上で大きな気流に飲まれて、飛行機がガクンガクン揺れたときは死んだと思いましたね。そのとき隣に座っていたババアが「きゃー怖い、お兄ちゃん!」と言って抱き着かれたこっちのが「ギャー」でしたけどね。


 取り敢えず大学に向かって、色々と手続き。2年通学で卒業。そこは変わりませんでした。日本の閉塞的な空気と元気のなさ、ほぼあらゆるものが日本語で書かれている異常さに、吐き気がしてクラクラしましたね。

 やっぱこの空気感は嫌だな。欧州が居心地よかったので、これから2年も大学に鎖で繋がれることに頭がおかしくなりそうでしたね。

 そして一端帰郷です。T先生やS監督にこれまでのことを伝えて、飲みに行ったりしました。大学が始まるまでは地元で指導しながら過ごしました。久々の土のピッチの上は、何とも言い難い複雑な感じでした。そして足へかかる負担が大きく、長い時間のプレーは厳しいなと思いましたね。


「こないだまでイングランドでプロ選手してたお前らの大先輩が来てくれた。たくさん学べ!」


 でもサッカーに対する意識や見方は確実に変わっていましたね。自分には勿論、他者のプレーにも厳しくなっていました。5シーズンも過ごせばさすがに変わるもんだな。良く持ってくれた、俺の足。念のためスポーツドクターの先生のところにも行って精密に脚を見て貰いました。気付いてないだけで疲労やダメージは確実に骨格に蓄積している。本気のプレーができるのはあと数年。それ以降は歩くのも痛くなる。まあ今現在歩くのに足首痛いですけどね。兎に角時間は余りない。しかも大学に貴重な2年を奪われる。

 まずはこの2年、自分のプレーの水準を最低でもキープしないといけない。あらゆるサッカー環境を探しました。

 その1、大学の部活。1年の時から体育はサッカーだったので、顧問の先生は僕にずっと加入して欲しいとしつこかった。でも当時はバイトで渡英費用を貯めるのに必死。たまに参加させて貰ったけど、お世辞にも強いとは言えない。外語大だから女子の比率のが高いですし、その地域のリーグでもかなり低い成績でした。テストでゲームに参加させて貰いましたが、行く前の僕でさえボコボコに出来た相手。プロの経験を+αした僕には、草サッカーしてるレベルでした。先生はもう土下座する勢いで、他の選手達も入部して欲しいと懇願してきましたが、そこでプレーしても4部、5部から2年で2つ昇格させたところで、何の収穫にもならない。1部のリーグとかならプロの目も向いている。でも自分の大学じゃあイングランドにいるときよりもメディアが遠くなる。保留。ピッチが芝なら考えましたけどね。

 その2、県の上位リーグ。実業団とかもあるので、1部のチームをいくつか尋ねて一緒にボールを蹴らせて貰いました。社会人とかが多く、年齢がもうあまり若くない人が多い。社会人なので試合の日(週末)以外で中々集まって練習する場所も時間もない。加入して欲しいと頼まれましたが、ボール感覚が薄れる。レベルも一番キレキレだったときの僕にはぬるま湯に感じました。部活のがまだマシ。保留。

 その3、サークル。ぶっちゃけ期待はゼロ。まずプレーする環境が悪辣、そして試合の日だけ集まってやるというほぼ県リーグと変わらない上に走れない奴のが多い。却下。

 その4、Jのテストを受ける。これは何回か行きましたが、プレー自体も悪くなかった。受かるに決まっているくらいのプレー、技術、持久力の測定を出していましたが、受かるのは何故かまだ10代から20前半の選手。当時24歳くらいだった自分はまだまだ若いしキレていたのに、謎ですね。その内受けに行くのが面倒になりました。基準がわからないので。


 そういうことで、僕に相応しい環境は全くなかった。足の調子を見ながらサッカー部で練習させて貰ったり、県リーグで無双したり、試合勘が鈍らない様にするだけで精一杯でしたね。

 大学の授業は5年もネイティヴとバチバチにやり合って来た身です。簡単すぎて時間の無駄でした。他の生徒が1時間とかかかる作業とかも僕は10分とかでやってしまうので、教諭達が、


「君は自分の分をやったら、もう抜けてもいいよ。君のレベルに合った内容は残念だが提供できそうにない」


 という感じで。エースクラスに選ばれてもそういうことを言われる始末。「あの人は何者なんだ? いつも一瞬で課題を終わらせて帰っていく」という扱いになってましたね。何の為に帰って来たんだろう? 全く身にならない授業を2年も無駄に時間を使わされて。これが帰って来いって言った大学の本音か? とか、もう腹が立ちましたね。こんな程度なら向こうで勉強していた方が良かった。単位とかなんてクソ喰らえでしたね。簡単すぎるから。


 まあ学校の体育のサッカーくらいは単位の足しになるので取っていましたが、僕がいるチームが絶対勝つので、みんな僕の元に集まろうとします。まあメチャクチャやってましたね。ゴールまでリフティングだけで躱して行くとか、歩きながらドリブルしてゴールまで行くとかね。

 若いイキリ元サッカー部みたいなのがすごく敵視してきてましたね(笑) 「囲んだら取れる!」とか言ってましたけど。そんくらいで捕られるならもうサッカー引退してやるよ。って感じでイキリ共はフィジカルでぶっ飛ばして黙らせました。「おい、ガキ共、うるせーぞ。ガチでやりたいなら体育程度でイキろうとすんな。それなりの舞台に行ってからやれ」って。そんでこないだまでイングランドでプロしてたって話したら、次から「KAZUさん、こんにちはっす!」と舎弟みたいになったので笑えました。

 帰国1年目で、徐々に温くなっていく自分がいましたね。維持することも難しい。環境がない! 恐るべし逆カルチャーショックでしたよ。土しかない。

 最終的には人工芝でフットサルをやってるDというチームに落ち着きましたね。学生時代に全国経験者とか選手権経験者とかいました。でも元プロの自分にはそれでもぬるかったです。全然ピリピリくる緊張感がない。長期休暇は地元で指導に精を出してましたね。弟を教えてたし。

 そして2年が過ぎて卒業が決まっても、僕のサッカーの進路は決まらないままでした。Jのテストは何度受けても、何の基準かさっぱり。純粋に「俺が下手なのか?」と悩みましたね。でもテストの時のあらゆる項目で1位のはずなのに、なぜ通過できないのか謎でした。


 この頃から相当悩みましたね。CC・FCは僕が抜けた後5部まで降格したらしいです。もし続けていたら降格なんてなかった。これから戻ってまた5年かけた道のりをスタートするのか? 余計に代表から遠ざかってないか? J監督も解雇されたと聞いた。戻って来て欲しいとは言われたが、今のぬるい環境でサッカーをして来た自分が活躍できるのかも未知数。いい加減に現実を見て地に足を着けて仕事をしないといけないんじゃないか? そんな風に考える様にもなってきました。


 結局24~26歳くらいのプロとしては一番脂がのってくる時期に、プロという舞台から遠ざかってしまった。そうして戻って来た日本はまともにサッカーができる環境じゃない上にプロのテストも全く通過できない。

 明らかにレベルダウンした状態で、イングランドに戻って結果が出せるのか? プロにこれからなろうと思っているときなら喜んで行ったと思います。ですが、同じ活躍ができるか保証はない。

 温い環境に漬かってしまったせいで、「もし戻ってダメだったら……、どうしよう」というクソメンタルになってしまったんだと今はそう思います。多分怖かったんですよ、全く充実しない2年間を、しかもプロのテストに落ちまくったせいで、自信を失くしていたんだと思います。自分が危惧していたその通りになってしまった。


 そこからはもう後悔ですね。「あのとき、何で残らなかったんだ」って。全てサッカーの為に積み上げて来てプロに成れたのに、自分から背を向けてしまった。2年の空白がこんなに自分を侵していたとは思いもしませんでした。


 一度帰郷したときに、T先生経由で、地元でJを目指すチームを立ち上げるから地方リーグからスタートになるが、入って欲しいという打診を貰いました。で、一応当面のテストやらは通過しましたが、練習場は土、足に悪過ぎる。これからJを目指すということは10年はかかる。その途中で年齢的に戦力外になるのは目に見えている。実際そのチームは近年になって漸くJ2の下位で戦っています。初期メンバーはもう誰も残ってません。そういう未来が見えていたので、結局断りました。途中で何処か上のリーグに移籍とかもあったかも知れない。ですが、そういう不確かなものに対して慎重になってたんですよ。ぬるま湯の中で無駄に大人になったせいでしょうね。後はそれでもサッカーを続けて来て足が限界に来ていた等、色々と理由はあります。

 結局自分の選択が自分を追い詰めた。あのときあんな程度の大学なら蹴ってしまえば良かった。しがみ付いてでもイングランドでプレーすれば良かった。


「俺は俺自身の手で、自分のフットボールの未来を潰してしまったんだ……」


 こうして最後まで残っていた糸が完全に切れました。このときはそういう状態だったんですよね。ごちゃごちゃ考えずに飛行機に乗り込めば良かった。もう二度とあの燃える様な熱い日々が送れなくなるなら、レベルが低下してどんなに批判を受けても戻れば良かったんですよ。でもできなかった。逃げてしまった。


 もう選手としては終わってしまっている。だったら、ガキの頃に思った様な指導者になろう。日本でサッカーの指導者として食って行くのは難しい、それは空いた時間。先ずは英語の教師だな。教職は途中で蹴ってしまったから予備校とかでいいだろう。


 こうして新しく指導者の道を歩み始めることになりました。これはこれで色々とキツイ目に遭わされましたけどね。最初は兎に角『教える英語』と言うものを勉強しました。


 そして数年後にはその予備校やグループの塾でトップの教師になってました。ですが、出まくった杭は打たれる。これぞ日本です。僕に成績で負けた奴らがつるんで嫌がらせをして来る日々。学生の頃は楽だった。拳でぶっ飛ばせば良かったからね。何度も面と向かって色々と言ってやりましたが、腐った奴らはどこにもいるもので、段々面倒になってきました。我慢し過ぎて鬱にもなりましたよ。今も絶賛通院中です。治らないですからね。

 生徒からと保護者からの信頼は完全に獲っていたので。僕が担当を外れると上司に抗議が行ったりしてましたね。まあそういうのも気に入らない要因だったんでしょう。そして僕が話す内容は、自分では当たり前のことをして来たつもりですが、「あいつはイキっている。元プロだからと偉そうだ」と言われる。そこまでにどれだけの苦労があったかも知らないくせにね。異質な奴は排除しようとして来る。これぞ日本ですよね。本当にしょうもない。色々な予備校やらを転々としましたが、結局どこも同じ。何か気に入らないと思われる。「数字出してるんだから問題ないだろ?」って思ってましたよ。こっちは何も悪くない。もうバカとはやってられん。


 高齢化と少子化が進んで来たので、もう学校で教員やろう、と働きながら大学で半分くらいまでやっていた教職を取り直して、高校の英語教師になりました。サッカー部の顧問も兼ねて。数年で過労死しかけましたね。あれは普通体育の教師がやるものです。授業が楽な分、部活の顧問で相殺で調度良い。普通の教科担当がやるもんじゃない。やることが多過ぎる。


 結局もうなんか色々と燃え尽きた気がする。ならもうのんびりマイペースで生きるか。友人達に色々と相談したら


「マジで壮絶よなー、KAZUの人生。お前普通の人の人生五回分くらい生きてんぞ。やってきたことは確かにすげーけどなー、何かおかしいもんなー」

「おかしくねーやん、精一杯生きた証拠やろ」

「いや、まあ確かに命削ってる。普通の奴なら死んでる。やっぱ異常やわー」

「失礼な。頑張って来たんだよ」

「まあのんびりしたらいいんじゃねーの? プロ時代の遺産まだあるんやろ?」

「まーなー、でも意味なくダラダラとしても暇なだけじゃね?」

「じゃあさー、ラノベとか書いたらいやん。お前人生経験豊富やし」

「ほー、それは面白いかもしれんなー」

「お前の勢いならアニメ化とかいけんじゃね? 昔から成績も良かったしさー、マジ何でもできるよなー。せこいわー」

「せこくねーよ。そっか、ラノベかー。時間がたくさんあるし折角やからデッかいのが書きたいなー」

「まああんまもう気張り過ぎんなよ。気楽に生きていけよな。これで肩書に作家が付くわけか、意味わからんなー(笑)」

「いやーマジわからんわー(笑)」


 ツレ達はそう言って背中を押してくれました。そしてこの界隈で出会えた人達が


「それ絶対にエッセイとかノンフィクションで書いたらいいと思うよ」


 そう言って背中を押してくれた御陰で何とか書いたものです。このエッセイはキリがいいのでここで一旦終了です。マラドーナを見てプロを目指して数十年。たくさんの経験、挫折に奮起と繰り返して来ました。でもKAZUDONAのストーリーは僕が生きている限りは続く。今度はラノベで夢を追いかけよう。

 夢や希望がある限り、人は熱く生きていける。サッカーでの燃える様な日々はもう来ないけど。人生はチャレンジ。あのときこうすれば良かったって、もう思いたくない。やれることを一生懸命にやろう。誰にでも可能性はあるんだから。他の人にやれて自分にできないことはない。

 今度こそは笑って終わりを迎えられる様に頑張ってみよう。拙いエッセイを皆様最後まで読んで頂きありがとうございました。


                           一旦 完

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これを書きながら、人生はままならないなあと思い返していました。

最後まで読んで下さった方々、ありがとうございます。

ここで一旦このエッセイは終わりですが、しょうもない小ネタとか思い出したら「プールにわかめ?」の回くらい振り切ったネタ回やらを書くと思います。


で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!

OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177


ではまたいつか・・・、ネタ回でも書きますね。

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