第29話 最後のシーズン・ありがとうEngland
オフシーズンも終わりに近づいてきました。
答えはまだうまくまとまらない。
不安定な時期でした。
------------------------------------------------------------------------------------------------
オフシーズン、目標にして来た日韓WCが開催されました。各国代表の試合は勿論、僕が在籍していたので日本の試合も地元のローカルチャンネルで録画放映されていましたね。ものすごーく僕贔屓なコメンテーターや解説付きでw
みなさんも知っているようにグループリーグは突破しましたが、そこを目標に設定していたため、それ以降の目標が曖昧で決勝トーナメントの初戦で何もできずにトルコに敗退しました。それでも初のグループリーグ突破に『感動をありがとう』が飛び交っていましたね。気持ち悪い。「負けても褒められるから強くなれないんだよ。きっしょ」とか、モヤりながら見ていましたね。
録画試合を流していたので、チームの連中や監督、首脳陣達と一緒にクラブハウスのデッカイTVやステイ先で見ていました。
アーセナルのベンチウォーマー、しかも3部にも劣るサテライトでしか試合に出ていない選手が2得点しました。ぶっちゃけ気分悪かったですよ。少なくともベンチウォーマーよりは結果を海外リーグで残していましたし。海外組はローマのNと確かフェイエノールトのOくらいでしたから。それでもネームバリューを気にする日本のメディアには見向きもされなかった自分にも腹が立ってましたけどね。
「KAZU、あれが君の母国の代表なのかい? 悪いが君が選出されない理由がわからない。なぜアーセナルのベンチウォーマーが出場しているのか理解に苦しむよ」
「どの選手もN以外は特徴がない。君が入っていればトルコなんて一蹴できただろうに」
「監督の立場から言わせてもらっても、君ほど突出している選手はこのチームには皆無だ。君には悪いが、ジャパンはあらゆる面で遅れている。国外の選手であっても把握しておくべきだ。私が監督なら、世界中を探してでも君の様なタレントを発掘するだろうね」
「まだまだ後進国だな。経歴を見ても若い時分からほぼ同じ選手で代表が構成されている。探せばタレントは幾らでも見つかると言うのに。KAZU、君の様な選手を招集しないとはね。最早クレイジーだ。ホーム開催だからグループリーグを突破できたに過ぎないよ」
チームメイトに監督、首脳陣もメチャクチャ言います。そして番組の解説者達とかも、
「KAZUならば今の場面であの選択肢は選ばないだろう。彼がいない後進国の代表に何の意味があるのか正直意味がわからない。日本メディアはもっと他国リーグに目を向けるべきだ。我々ならアーセナルのベンチウォーマーを出場させたり、選出することさえクレイジーとしか思えない」
まあそう言って称賛してもらえるのは嬉しいんですが、正直久々に見る母国の代表はお世辞にもレベルが高いとは思えなかった自分がいたのは確かです。
「なぜこのレベルのプレーしかできない奴らが呼ばれているんだ?」
「シュートが少な過ぎる。なぜ長距離からでもバンバン撃って行かないのか?」
「あの黄金世代のアイツってあんな程度だったっけか?」
「何で誰もドリブル突破しないんだ? 勝負を仕掛けずに後ろに戻したり、はたくんだ? 俺が出ていたらもうシュート数は前半で2桁にいってるはずだ」
フィジカルバチバチのイングランドのリーグで鍛えられた自分は確実に成長していたんでしょうね。目も肥えていたんでしょう。これを読んでいる方々のお気に障るかも知れませんが、それくらい代表のレベルが下に見えたんですよ。当時の僕にはね。そうすると余計に此方を向かなかったメディアに腹が立ちましたね。ベスト16で明らかにアウェイの此方にビビっていたトルコなんかに負けて、ぶっちゃけ「ざまあ」としか思えなかったですから。
こんな奴らが選ばれていたのに、何で自分が選ばれなかったのか? どうせ人気とネームバリューだろ? そんな風にムカムカしてました。
プロ選手なんてそんなもんですよ。「自分が選ばれないとか、この国アホか?」とか、ある程度実績出してたら思ってしまうんですよ。それに攻撃的な選手ほどその傾向が強い。エゴイストでナルティスティックじゃなければ、極限状態で得点を決めるアイデアなんて出て来ないですからね。
オフの間にチームは日本のクラブにレンタル先の交渉をしてくれていました。でもイングランド3部の日本では無名選手。此方での獲得タイトルにプレービデオ、個人の実績も交渉材料として送ってくれましたが、大学に通える県の近くとなるとかなり限られてくる。今でこそ増えはしましたけど、クラブ自体が存在してないですから。しかも母体は企業。地元・街に一つはクラブチームがある欧州とは勝手も歴史も、あらゆる面で遅れている。
交渉は困難を極めました。ネームバリューを重視する、所謂カッコつけな日本にとっては高校選手権という何とも世界的に見たら下らない大会で活躍した選手の方が好まれる。書いてて腹が立って来ました。
高卒の身体ができていないプロ経験なしと海外リーグで5年プレーした選手、しかもMVPや得点王、アシスト王やリーグベストイレブンにも選出されている。5部リーグから3年で3部まで昇格させた選手です。普通どっちを獲得したいですか? 前者を選ぶのが日本と言う国です。なんでこの国に生まれたんだろう。マジで大っ嫌いだ、こんな国!
まあ悶々としながらもラストシーズンに向けてリーグがスタートしました。足の調子はいつも入念にマッサージしてもらっていたので悪くない。オーバーワークもしていないから疲労もない。好調な状態でシーズンは開幕しました。
そして……、僕の中ではもう答えは出ていました。と言うか出さざるを得なかった。プレーに集中できなくなる。ブランクは大きいかも知れないが、今やるべきことをやってしまおう。後悔する可能性は……、どっちを選んでもあるだろう。でもプレー寿命が短いフットボーラー、恐らく僕の場合はもっと短いだろう、そこで潰れて先の人生を台無しにするのはダメだ。クソみたいな大学でも学歴くらいは刻んでおこう。フットボールは何処でもできる。またチャンスの神が通り過ぎるのを狙おう。
高校生の大怪我から復活して5年間もプロとしてプレーできた。上出来だよ。もうチマチマと考えるのは止めだ。残りのシーズン前半戦、首位でバトンをみんなに託して、一度夢の世界の外に出よう。日本代表のレベルも今の自分には手が届く位置にある。日本で再チャレンジしてみよう、と。
そしてラストシーズン、僕は10番を付け、折り返しまでの試合でぶっちぎりの成績でチームを牽引し、首位でバトンを託しました。前半戦MVP、ベストイレブンに得点・アシストトップで。
最終戦はホームでした。
『KAZU、行かないでくれ』
『絶対に戻って来てくれ』
『俺達の心はいつも君と供にある』
『KAZUDONAの伝説はまだこれからだ』
『君は我々の誇りだ』
『CC・FCの扉はいつだって君の為に開けてある』
『勇敢なジャパニーズ! 決して君を忘れない』
大きな横断幕に僕へ向けたメッセージが観客席中に書かれていました。
「試合前に泣かせんじゃねーよ! 最後になるかも知れない俺のプレーを目に焼き付けとけよ!」
観客席に大声で応え、イングランド最後の試合のホイッスルが鳴りました。
7-0。ホームの大声援。これがもう聞けなくなるのかも知れない。サポーター・ファンの泣き声と声援が同時に聞こえて来るホームスタジアムで勝利者インタビューです。掲示板のスクリーンに僕が映し出されます。
「ヘイ、KAZU! 今日も絶好調だったね。今日の出来は何点だい?」
「そうだね、文句なしの満点だよ。これもチームメイトや監督にスタッフ、サポーターのみんなの御陰だ。ありがとう」
「君はいつも模範的な回答をするね。最後くらい自分の武勇を誇ってもいいと思うよ」
「僕の武勇なんてのはみんなの御陰で成り立っているんだよ。一人じゃフットボールは出来ないからね。それを自分の武勇だと驕った様な人間にはなりたくないしね」
「なるほど。確かにその通りだ。素晴らしい! これから帰国になってしまうけど、僕も含めこの街の誰もが悲しむだろう。最後に言っておきたいことはあるかい?」
「うーん、今まで僕を、チームを応援してくれてありがとう! ホームでの試合はいつも格別だった。アウェイでも駆けつけて来てくれるサポーター達も。それがどれだけ僕達の勇気になったことか。本当に感謝してるよ。決して忘れない。もしかしたらここに戻って来る可能性もあるんだ。だから『さよなら』じゃない、『ありがとう』で〆させて欲しい。もう……涙が出そう、だから、さ」
「ありがとう、KAZU! いやKAZUDONAの伝説の続きを待ってるよ。スタジアムのみんな、彼に最後の声援を!」
「「「「「わあああああああああ!!!」」」」」
「ありがとう!」
こうして僕のイングランドでのプロ挑戦は一旦終わりを告げました。今でも思い出すと涙が出る。最終戦がホームで良かった。心に刻まれていますね。
でもチーム連中、監督や首脳陣も含めてまだ帰してくれません。そのままクラブハウスに戻り、着替えてから酒盛りですよ。てかこれ毎回なんですよ。ホームの後は。勘弁して欲しいなあ、こちとらそんなに飲めねーんだよ。という僕にチームメイトが、
「Cheers, KAZU!」
「MVPは一番飲まないとな!」
と、どんどんパイントでビールを注いできます。飲み切ったと思ったらまたスタンバイしてやがる、最早イジメです。そして大体みんなクラブハウスに寝泊まりします。メチャクチャ飲まされてこっちはフラフラでベッドに沈みます。でもこういうのも楽しかったなと今では思います。本当にみんな仲間だなーって感覚。日本じゃこんなのほとんどなかった。
お世話になった方々にお礼を言って回って、帰国当日。まだ朝早い空港にタクシーで向かった僕は、そこで驚きました。サポーター達が集団で空港に集まって来てたからです。何処で知った? この日程?
面会可能なゲートまで彼らは『KAZUDONA~! 行かないでくれ~!』とか大声で言いながら見送りに来てくれたんですよ。嬉しかったし悲しかった。その場で考え込んでしまった。
「俺は本当にやり切ったのか? 大学なんて只の保身で本当はピッチから出たくないんだろ? 燃え尽きるまでやったのか? 泣く泣く帰国を選んだだけじゃないのか? 怪我が怖くて逃げたんじゃないのか? 本当は……」
足が止まりかけました。できることなら、大学の都合なんかに邪魔されたくなかった。まだ今なら戻ることも……
「ありがとう、みんな……」
ゲートをくぐったとき、僕は涙が止まらなかった。ありがとう、僕をプロにしてくれたイングランド。
------------------------------------------------------------------------------------------------
今回は思い出すのが辛かったです。
ボロボロ涙が出ました。イングランド、第2の故郷。絶対に忘れない。
今後のKAZUDONAストーリーはどうなっていくのか?
続きが気になる方はどうぞコメントを御願いします。
応援してくれると頑張れます!
当時のことを思い出すと、心に来るものがあって、今でも涙が出るんです。
皆様の応援が書き続ける気力になります。
よろしくお願いします。
で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!
OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~
https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177
ではまた次回・・・、もう少しお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます