見えない未来へ・Epilogue

第28話 契約延長は? ifの未来地図

契約の話です。日本との文化やらの軋轢、ままならない進路。

正直ここから先は書くのが辛いです。あまり思い出したくもない。

ですが後数話、愚痴っぽくなりますが良ければ進んで下さい。

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「KAZUとの契約更新が難航している。問題は日本にある」

「彼は既に上位リーグでもやっていける実力を証明している。日本の低レベルな大学に帰すなどあってはならない」

「CC・FCに数10年ぶりのタイトルをMVPで獲得した彼を手放すことはチームの崩壊を意味する」


 シーズン終了後、僕はクラブハウスで首脳陣とずっと契約の話をしていました。僕が初めて訪れた時よりもずっと立派な施設になっていましたね。


「日本の大学と話合いを何度も行ったが、ずっと平行線だ。こちら英国の大学の単位は全てを認められない。日本の大学に籍がある以上、最低2年は日本で通学して単位を取得しなければ卒業は認められない上に、休学期間の限度が5年である以上、一度復学し、1年通学しなければもう一度休学を認めることはできないらしい。KAZU、君はまだ若い。取り返しのつかないレベルの怪我を過去にも負っている。また同じことが起こる可能性もある。君のボールテクニックは洗練されているが、それ故にターゲットにもされやすい。我々としては残って貰いたいが、大学を我々の都合で除籍させる訳にもいかない。……実にデリケートな問題だよ」


 首脳陣のオッサンはそういう意見を述べてくれました。さすが欧州は個人主義が徹底されている。融通の利かない日本とは大違い。向こう日本の痛い意見もアクセプトした上で僕の将来まで考えた言葉をくれました。


「正直、戻りたくはありません。例え1年でも、日本にはほとんど芝のピッチがない。足を痛めるのは必然でしょう。大学のクラブに所属しても、今のプロのレベルよりも遥かに劣る。そんな中でプレーしていたら自分のレベルの低下を招きます。たった1年であっても。自主練にも限度がある。日本のプロクラブに所属するなら多少話は変わってきますが、これまで僕に対しての日本メディアからの取材などの接触はなかったと聞いています。このオフの日韓WCで持ちきりですからね。そしてイングランドのDivision3(※3部リーグ)のレベルはJの1部と比べても遜色はないでしょうが、あちらはそんなことは知らないでしょう。まだ創立されたばかりの様なものですから。他国との比較ができているとは思えません。そしてやたらとネームバリューを気にする。日本で無名の僕を事情を考慮してまで、レンタルとかでも契約してくれるチームは、……ないと思います」

「なるほど……、君ほどの選手なら幾らでも引く手あまたであろうに。日本はまだプロができたばかりと聞く。スカウトにも良い選手の発掘にも問題が多いのだろうな。一度君からも日本の大学にコンタクトを取ってみるといいかも知れないな。生徒を邪険に扱う教育機関などありはしないだろうからね」


 ……あるんだよw 未だに軍国主義の様な学校制度やってる痛い国が。まあ無駄とは思いましたが、此方からも大学の責任者に電話で連絡を取ってみました。


「―――話はクラブから聞かされましたが、此方でプロとして活動する猶予は貰えないんですか? その5年ってのはどういう基準で決まったもので変更や延長はできないんですか? 母校の生徒が海外でプロ選手をしているとか、大学にとってはいい宣伝になるでしょう? 1年のブランクがどれだけ大きいかわかりますか? それにそこで学んだことは海外で全く役に立ってませんよ。留学枠が一桁って外国語の大学としてどうなんですか? だから僕は自分で貯めて行ったんですよ」


 一瞬沈黙してから、


「ふむ、君の言いたいことはわかるよ。そちらの首脳陣とはもう何度も話しているしね。でも残念ながら答えはNoだ。これは規則だからね。5年もそちらで好きに過ごせたんだろう? 戻って此方のサッカー部からJリーグにでも行けばいいじゃないか? その方が余程いい宣伝になる。休学中の選手が何をやっても此方の利益にはならんよ。プロが続けたいなら、ここを退学して其方で続ければよいだろう。だが復学するならちゃんと此方の卒業単位は満たす様に。其方の大学とではコースが異なる学部ばかりだからね。留意してくれたまえよ」

「わかってねーだろ!!! クソジジイがあああ!!!」


 ガシャーン!!!


 首脳陣達がいる部屋で受話器をおもっクソ叩きつけました。みんなが「あーね」という顔をしていました。確かに話にならん。スポーツ選手にとっての1年を何だと思っているのか? そして規則だから、例外は認められない、勝手に休学した奴が何か言ってるわー、と言う様な事務的テンプレ対応。一瞬で頭が痛くなりました。


「言っただろう、KAZU。会話にならないと」

「そうですね……。少し時間を下さい。自分の将来のことにチームの未来のこともありますから」

「悩んだらいつでも相談に来るんだよ、いいね?」

「はい、ありがとうございます」


 クラブハウスを出るとジュニアの選手たちが練習していました。小高いところの芝に座り、「あんな風に無邪気に楽しくサッカーできた時期っていつだっただろう?」と思いながら、問題と向き合うことにしました……。


 確かにまだ若いかも知れない。初めてここのピッチに立った時は19歳だった。それから4,5シーズン。日本の学校は4月からだから、後半年は契約が残っている。でもそうするとリーグ前半戦のみしかプレーできない。そこから俺が抜けたら……、3部の怪我をさせられたシーズンと同じ状況にチームを追い込むことになってしまう。J監督は賢い人だから既にあてがある選手がリストアップされているかも知れないし、ミゲルでも、俺に比べると落ちるが安定性はある。あいつ10番だしな。あいつの御陰で俺のマークはかなり楽になったし。


 俺程度のレベルの選手は腐る程いるだろうけど、全く同じ水準でドリブル・パス・シュート決定力・ゲーム支配力・味方のコントロール能力・左右の足でも遜色ないプレースキック・空間把握能力・3人くらいじゃ捕られないボールキープ力・一発で局面を変えられる精密な長距離パス……。そんなにいねえな、代表クラスじゃねーか。いや、ここで代表クラスまでの経験を積んでそうなれたんだ。


 最初はパスも貰えなかった。そんで味方からボールを奪って抜いて決めたんだ。みんなころっと掌返したな。それからも色々あったなあ。また大怪我したし、大なり小なりの怪我でシーズン通して無傷でスタメン全試合出場はできなかったな。それでもみんないつも気にかけてくれた。日本じゃ感じ悪い目で見られるだけだった。中心選手。毎年10番渡そうとしてきたよな、みんなが。最後のシーズンくらい着てやろうかな、記念に。


 これまでの怪我した場所に触れると、痛い。もし延長して、あと何年プレーのレベルをキープし、更にアップしていけるだろうか。俺の足はもうガラス細工みたいになっている。ロードワークもアスファルトの上は負担が大きくなってできなくなった。今はチームの練習場に来て芝の上しか走らなくなった。もう土の上は思うように走れないかも知れない。素足で歩くと足首が軋む。「次に膝の時レベルの大怪我をしたら、まともに歩けんようになるぞ」って日本の行きつけのドクターがオフに帰国したときに言ってたよな。そこまで深刻なのか、俺の足は……。

 もう日韓WCはこのオフにある。結局掠りもしなかったな。3部リーグのエース程度じゃJ程度にも見向きもされないってか? こっちのが余程レベルは高いってのに。大学に籍を置いているJの選手なんて山程いるはず。なのにウチの大学は期限期限とやかましい。

 現役は続けたいよ、そりゃあ。でも契約更新しても早い段階で足が動かなくなったら……。俺は高卒で大学中退、高度な英語資格は持っているにしても、高卒じゃあ仕事がない。もう一度受験して下らない大学に通うのは馬鹿らしい。金の無駄だ。でも日本は学歴がモノを言う。さっさと卒業してしまいたい。英語もラテン語もここでチームメイトや友人、学校から学んだ。世界の何処に行ってもプレーできる語学力に実力も身に付けることができたはず。足がダメになるまで走り続けたっていい。

 こうして考えると、全てはプロに成る為に積み重ねた事柄ばかりだ。ならぶっ壊れるまで、どこまでいけるか試してみるか? 1部まではあと少し。でもまた怪我をしてシーズンを棒に振るようなことになるかも知れない。そうしたら、そしてもうボールが蹴れなくなったらどうする? 引退してからの人生の方が遥かに長い。若さに任せて勢いで契約するのもアリかも知れない。当然除籍覚悟でだが……。

 大学にまた通うくらいの蓄えは充分稼いである。これまでのキツイ人生に比べたらなんてことはない。でも年下のガキに混ざって通学か、嫌だな。今でももう俺の同期達は卒業か院に行っているしな。どの道同じか。あーあ、めんどくせーな。


 問題は1年復学してから戻って来るか、2年で卒業して……果たして戻って来れるのか? 年単位の試合勘の衰えは致命的だ。今の自分が満足いくプレーができるレベルの場所はプロの芝のピッチにしかない。足に負担が掛かる土の上でプレーするのは危険過ぎる。ジムにでも通うか? いや、無駄に筋力のみ付けてもキレが落ちる。今の状態がベストなウエイトだ。鍛えても体幹くらいだ。

 そして年単位のブランクで集中が途切れることだってある。散々無理してきて夢は何とか叶えたが、代表の夢やWCはまだまるで果てが見えない。普段の何気ない日常に戻ったら、今のヒリつくような緊張感が失われる可能性だってあるんだ。目標のない数年間。これに俺の精神が耐えられるかが問題だ。

 地元に戻るんならT先生やS監督の下でまた指導しながら基本から調整できるが、今は県外の大学だ。そんな環境はない。八方塞がりだ。詰んでるな。改めて日本の環境やシステムを恨めしく思う。考えがまとまらない。先の人生を見越して大学に戻るか、今この瞬間を燃え尽きるまで走るべきか。何で俺の人生の岐路はこうも極端なんだろうか……? たらればの考えばかり。どっちを選んでもリスクが大きい。


 夏場で暖かい気候の中、寝転んで目を瞑って出せない答えを考え込んでいたのに疲れたのだろう。いつの間にか眠っていたらしく、見回りに来た首脳陣の一人に起こされて、その日は悩みながら帰路に着いた。


 せめて残った契約の分は精一杯やろう。その後の選択で人生が大きく変わることになろうとも、今できることに集中するしかない。そして去ることになったとしても首位でバトンを渡せるようにベストを尽くそう。


 

 







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進学か?退学してこのまま下位リーグでのプレーを続けるのか?

まだまだ若い当時の自分にとっては大き過ぎる分岐点。

さて今後のKAZUDONAストーリーはどうなっていくのか?

続きが気になる方はどうぞコメントを御願いします。

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当時のことを思い出すと、心に来るものがあって、今でも涙が出るんです。

皆様の応援が書き続ける気力になります。

よろしくお願いします。


で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!

OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177


ではまた次回・・・、もう少しお付き合いください。


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