第27話 飛べないペガサス(午年なので)?・立たされる岐路

契約の最終シーズン。ここで未来は大きく変わる。

怪我明けの身体はどうなってしまったのか?

どうぞ!

------------------------------------------------------------------------------------------------


「3部残留を意地で果たし、KAZUDONAも怪我から復帰。期待のできるシーズン」

「KAZUの怪我からの復帰はできたが、同じ水準のプレーができるのかは楽観視できることではない。くるぶしの複雑骨折に靭帯断裂。下手をしたらあの腐ったチームのせいで、フットボーラーとしての選手生命は終わっていた」

「しかしKAZUの存在と出来がチームに与える影響は大きい。奇蹟を見せて貰いたい」


 相変わらず地元メディアは好き勝手言います。オフに徹底的に鍛え直したので、コンディション自体は悪くない。寧ろあまり休んでいなかったため、疲労が蓄積してました。水曜にはカップ戦、週末はプレミアと被らない日程でのリーグ戦。長いシーズンがまた始まります。プレシーズンやエキシビジョンマッチには基本的に後半からか、前半までの出場で様子見でしたね。チームもJ監督も僕のことを気遣ってくれたんでしょうけど、1試合くらいはフルで出て調子を確かめたかったですね。


 そして足首の状態ですが、複雑骨折をしたくるぶしに骨の固定器具、釘みたいなものが入れられていたので、違和感が大きかったですね。うごかしかたによるとそれが神経に触れて痛いんですよ。なので緊急手術で固定具を抜きました。傷が塞がる1週間くらい休みましたね。


 復帰してすぐにシーズンが開始されました。僕自身の調子は悪くはなかったけど、どこかプレーがズレるという感覚が、過去の怪我の時のように付き纏っていました。でも「これはやっている内に修正されてくる。だから今は耐えよう」というつもりで、周囲を使うポゼッションサッカーに中盤を切り替えました。いつもなら強引にドリブルでぶっちぎる場面でも、無理せずパスで崩す様に修正していました。『ボールは汗をかかない』ですから。

 ドリブルが目立つのでドリブラーのイメージが強かったんですが、僕は基本的にパサーです。プレッシャーの少ない中盤の底からドイツのミゲルを使って、エリックらFWを使ったり、サイドを効果的に崩す様にしていました。これでも充分にチームとしては機能するんですけど、決定的な1発が足りない。それは僕のエリア内に切り込んでいく突破と数人を惹き付けてから出す、必殺のスルーパス、サイドを抉って合わせるクロスに自分のシュート。機能はするけど、どうしても決定力に欠ける。

 ですがボールタッチに違和感を抱えた状態では、リスクのあるプレーはミスってカウンターを喰らう可能性がある。ジレンマでしたね。プロじゃなければ無理矢理でも行っていたでしょう。ですが、中途半端にチャレンジするとピンチになる。何よりもチームの勝ち点を1でも取ることが優先。我慢しました。6-4で守備の割合を増やして、奪ってから味方を動かして前線に運ぶ。守備は僕がボランチの位置に入っていたため、失点はほぼされなかったけど、得点力が足りない。こうして我慢しながらシーズン前半戦を折り返しました。「もっとやれたはずなのにな」ほぼ中位で折り返したリーグ。本調子なら1位でぶっちぎって折り返せたはず。この我慢は辛かった。でも御陰で脚の違和感はほとんどなくなっていました。


「あのガキ時代とは違う。我慢したおかげで違和感は消えた。ここから巻き返す!」


 ドクターからも、本来のプレーをしても良いという許可を貰いました。ここから、この後半戦が勝負です。絶対に上がる。そして休学延長、上位からのオファー、他国でも英語ができるから構わない。イングランドリーグでの最後かもしれない、シーズン後半戦が始まりました。

 

 今迄我慢して来た。足が疼いて仕方ない。怪我をしててもプレースキックは蹴れたので、前半戦は直接FKでの得点が多かったです。


「ベッカムか、KAZUか? FK成功率」


 こういうローカル番組は止めて欲しかったw だって闘ってるリーグが全然違うんだからねw しかも勝っちゃったので、『KAZUCKHAM(カズッカム)』とか言われる始末。これは本当にやめて欲しかったですねw 彼に失礼過ぎる!


 とまあこうして折り返してからはトップ下に2-TOPのシャドーと暴れまくりました。でも前シーズンの怪我をするまでのインパクトに比べたら、全然ダメでした。オフのハードな自主練の疲労のツケが後半になって噴き出してきて、コンディション調整に苦労しました。1試合で3~5㎏減るくらい毎試合走るんですけど、スタミナが続かない試合が多かった。食事は充分コントロールできていたので、完全なオーバーワークによる失速です。一時は首位まで上がったのに、僕の出来に比例するようにずるずると順位が下がり、結局7位で終了。

 悔しかったですね。僕が戦術の中心にいる以上、低調なプレーは許されないとわかっていたのに。今年こそはと思っていたのに。甘くない。本当に甘くない。自分の出来が悪過ぎて優勝、上位昇格を最後の最後で失速して逃した。コンディション調整を誤った自分のミスだ。みんなが自分に期待をしてくれていたのに! 最終節の試合後のピッチに転がって地面を泣きながら殴りつけました。これで終わりなのか? まだ代表に掠りもしていないと言うのに……!


 失意のリーグは終わりましたが、僕らはこのシーズンW・カップ(WCじゃないですよw)という1~3部までのチームで行われるカップ戦で勝ち残っていました。このシーズンが終わった後の去就はまだわからない。でも「このチームの為に一つでも多くタイトルは獲る!」フルシーズンを闘った体を引き摺って、僕達は決勝まで残りました。これまでのシーズンもカップ戦はあったんですが、昇格が第一ということで余り力は入れて来なかったんですよね。そしてノックアウト制なので、格下相手でも足をすくわれることも多い。格下はジャイアントキリングを狙ってますからね。てことでリーグ優先でした。疲労も抜けないですからサブ中心だったんですよ。僕はサブの育成と実力アップのために出てましたけどね。


 でもここで折角掴んだ優勝のチャンスは逃したくない。「僅かでも日本のメディアに対してアピールになるのなら、必ず獲る! 怪我とかコンディションとかそんなものはどうでもいい。獲ると言ったら獲る!」そういうメンタル状態でしたね。こういうある種のアドレナリンが噴き出して普段の自分には出来そうにないプレーができたり、疲れを感じない様な状態がゾーンです。中立地で行われる決勝戦。試合前からもう既に僕は集中しててゾーンの状態でした。


 相手は1部リーグのNT・Fとでもしときます。江戸時代からある古豪です。プレミアと行ったり来たりしてるようなチーム。ぶっちゃけ普通にやっても勝てない。でも僕の状態を見ていたJ監督が、


「格上だが、いつも通りKAZUにボールを集めろ。彼が我々をここまで、弱小の5部から引き上げてくれたのだ。KAZUのフォローを欠かすな。我々ができる彼への恩返しを全力でしなくてはならない。いいな!?」

「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」


 ドレッシングルームはもう勝ったかのような盛り上がり。涙が出そうでしたが堪えました。これは勝ってから流せばいい。先ずは試合に集中する!


 試合開始。シーズン終了後に特別というか強制休暇を取らされてたので、体の切れは良かった。絶好調に近い。足首の違和感もほとんどない。ならば今迄の自分の経験を、自分が築き上げて来たフットボールをやるだけだ。

 試合は前半、まだ相手のレベルに慣れていない段階で2失点しました。でもプレーした感じ、そこまでの強さじゃない。「いける!」と思いました。


「2点差が一番ひっくり返しやすいんだ。ラインを上げて高い位置からボール奪取してからのショートカウンターでいく。奪ったらマークがいても関係ない、俺に寄こしてくれ」


 チームは監督のフォーメーションを維持しながら、高いラインを保ち、中盤辺りでボールを奪うと、先ず僕にボールが供給されます。ボールを受けるその一瞬でマーカーを色んなテクニックで置き去りにする。前を向いたらこっちのものです。ゾーンに入っている僕には相手がスローに見える。これから出すパスの軌道もドリブルコースも上空からゲーム画面を見ている様な感覚の空間把握ができている。

 笑いが止まらない。スピードもプレーにもキレがあって、ファールでしか止められない。1部の相手を嘲笑うかのように複雑なステップのドリブルで相手を転がして抜き去り、スルーパスや、サイドからピンポイントのクロスが面白い程決まる。逆転して追加点を重ねて4-2。でもまだ終わらない。


 ロスタイム、中盤で相手を吹き飛ばしてキープしたボール。僕のハンド指示で味方がどんどんポジションチェンジして上がって行く。相手は混乱して自分のマーカーを捕まえられない。そしてこれは相手を混乱させるブラフ。本命はドリブルの中央突破です。

 驚いた相手は遅れてマークに来ますが、遅過ぎる。目の前のマーカーが下がれなくなるまでスピードで追い詰め、我慢できずに飛び出してきたところをもう一段階ギアを上げて入れ替わるように躱す。調子が良くないとあんまりできない高速のストレート・ドリブル。マラドーナのプレーから盗んだテクニックです。

 エリアに入って、シュートをする振りをするキックフェイントで相手はバタバタと体勢を崩して転んでいきます。最後はGKのみ! CC・FCのプロテストの時と同じように、飛び出したGKをジャンプしながらヒールリフトで躱し、ゴールライン上にボールを止めて振り返りました。もう勝負を投げている相手は捕りに来ません。そのままヒールキックでネットに転がしました。5-2。完全に勝負アリです。

 シーンとするスタジアムに主審の試合終了の笛が鳴り響きました。その瞬間、ウチのサポーターは大歓声! ボールを味方サポーターのところに蹴り入れ、味方にもみくちゃにされました。勝った。終わった。プロのタイトルを獲った嬉しさと、みんなからの祝福、サポーターの声援も含め、涙が勝手に流れて来ました。

 

「やり切った……。代表は無理かも知れないけど、このボロボロの足で精いっぱいやった」


 こうして僕の一時的な契約はほぼ満了。更新したいという上層部や、残ってくれと言うサポーターや仲間達。それに向けて、またしても日本の大学とのバチバチのやり合いが始まるのでした。


 僕の人生、ここが一番の大きな岐路になるとは。今現在の僕には考えられませんでしたね。





------------------------------------------------------------------------------------------------

意地でのカップ戦タイトル奪取。残り半年。

昇格はできなかったけど、今後はどうする?

さて今後のKAZUDONAストーリーはどうなっていくのか?

続きが気になる方はどうぞコメントを御願いします。

応援してくれると頑張れます!

当時のことを思い出すと、心に来るものがあって、今でも涙が出るんです。

皆様の応援が書き続ける気力になります。

よろしくお願いします。


で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!

OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177


ではまた次回・・・、もう少し続きますよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る