第26話 またかよ……、ふざけんな!!!

昇格した3部リーグでの闘いが始まります。

あと2年、ストレートに行けば1部です!

日の丸が見えて来ます!

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「今シーズンの補強も成功し、CC・FCは今や黄金期と言えるだろう」

「中盤のKAZUDONAが機能し続ける限り、我らに負けはない」


 本当に欧州は気が早い。まだシーズン前だと言うのに、こういうローカル記事が飛び交います。TVをつけたらプレシーズンの僕のプレー集がローカル番組でずっと流れている。まあ観客はいなかったけどメディアはいたからね。でもローカルチャンネルをつける度に自分が映るのはどうも恥ずかしい。御陰で自分のプレーを客観的に見直すきっかけにはなりましたけどね。

 外出したら、もう数年前と違って人だかりができるできるw プライバシーがない有名芸能人の気分が理解出来ましたよ。したくなかったけどね。とは言え、まだまだ小さな街の3部リーグに昇格したばかりのチーム。ここからの2年間が勝負。最短で1部に昇格すれば、さすがに日本のメディアも此方を振り向かずにはいられなくなる。

 当時プレミアのアーセナルのベンチウォーマーだったI・Jが試合に出てもいないのに代表に呼ばれていたのが頭に来てましたからね。1部昇格すれば代表が見える。そこで実績を積めばプレミアでもプレーできる。一応今のところは期限付きではある、ですがこういう逆境の方が燃えるんですよ。


 そうして3部リーグ・僕の4シーズン目がスタートしました。


 もう心は全開で燃えてましたね。当初の目標は3部昇格だった。それを達成した今、次は個人の目標を優先する。日本のメディアの注目を浴びてみせる。代表選手になれれば、Jリーグでも移籍先は選び放題、プレミアでのプレー資格も手に入る。大学の問題も一瞬で片が付く。辞めても充分食っていけるから。それに引退してからまた大学に行けばいい。でも今の自分はまだまだ中途半端。ここでの残り時間で結果を出さなければ2002年の日韓WCには間に合わない。

 これから先の人生を懸けたシーズンが幕を開けました。プレシーズンの各国代表と渡り合えた経験は僕にとって強烈な自信となり、蓄えられた経験値が数段上のレベルの選手に成長させてくれていましたね。


 チームは好調を維持していました。て言うか僕自身が今迄にない程神がかってました。ジェラードのマークに比べたらぬるすぎる。プレッシャーも遅い。パス回しもマンUに比べたら止まって見える。味方をコーチングして囲い込んでボールを奪い、それが僕に集まって来る。それを前線やサイドに展開・供給し、時には自分から切り込む。もう面白い程に好きなプレーができていました。こんなに体が自由に動くなんて、日本で大怪我をする前以来だったと思います。

 リーグ前半戦をぶっちぎりで折り返した僕らは「このままの勢いで昇格を獲る!」、そんな風にチームの団結も勢いもノッてました。J監督の采配も上手かったですしね。調子に乗ったトリッキーな空中でのヒールパスやら、ラボーナでクロス上げたりしてよく怒られました。それが得点に繋がれば許してくれるんですが、ミスると超キレられますw 一試合に3回までにしとこうと決めてましたね。サポーターを湧かせるような魅せるプレーはね。

 この頃は試合を楽しめるようになっていて、「プロなら湧かせてなんぼだろー」とか思ってましたからね。


 ですが、上手くいっているときの方が危ないのはいつも同じ。折り返しを過ぎたホームでの試合。5-2でリードしていた後半でした。もう監督は僕を休ませるために控えの選手を用意し、そいつがピッチ外で準備していたときです。足元に入って来たボールを、トップスピンをかけて後ろから来ていた敵を頭越しにくるくるっとボールだけ回転させて躱して駆け抜け、入れ替わる瞬間でした。軸足にしていた左足に強烈な足裏でのタックルが飛んで来たのは。

 左足首のくるぶし辺りに赤い衝撃が走って、金属がぶつかる様な嫌な音がしました。完全に躱していたのに、ボールに関係ない場所でイラついた相手に報復の悪質なファールを受けたんです。もう既に交代選手もスタンバイしていた。最後のワンプレーで、この相手を躱したら前線に繋げるつもりだった。ボールは相手の頭上をスピンして越えている。足を削られる理由がないんですよ。

 痛みで転げ回っている僕にそいつは中指を立ててきました。一発レッドで退場です。ホームのサポーターからはとんでもない怒りの大ブーイング、ピッチにはそいつに向けて物が投げ込まれます。味方もそいつや審判に向けて大勢で詰め寄って一触即発。そして相手ベンチに向かって退場していったそいつに、相手の監督は握手してお互いにハグしやがったんですよ。痛くて意識が朦朧としていたけど、「ああ、これはあの監督の指示だったんだな。俺みたいなアジア人が鬱陶しかったんだろう。差別主義者、白人至上主義者に違いないな」と思いました。J監督が相手の監督に詰め寄って何か言っていた辺り、その時くらいに痛みで意識が飛びました。


 目が覚めたときにはクラブハウスの病棟のベッドの上。左脚がギプスで固定されて天井から吊るされています。


「またかよ……。俺が何したってんだ……?」


 最初に右膝を大怪我をしたときの状況がフラッシュバックしました。救護員が目覚めた僕に声を掛けて意識の確認や状況の説明をしてくれました。その後、ドクターや監督にチームメイト達が訪れました。ドクターは、


「左足首の側副靭帯断裂だ。以前にもやったことがある手術痕があったから、症状はわかるだろう。それに加え、足裏での硬いポイント(※サッカーシューズの裏に着いた凸型のでっぱりのこと。イングランドは雨が多いので、ぬかるんだピッチに対応する為、取り外し式の高さのある硬いポイントがよく使用される。チタンやセラミック製もあり、危険なため足裏でのファールは厳しい判定が下される)がくるぶしの骨に当たって、骨まで深く傷が入ってしまっている。今シーズンは絶望的だ。傷が癒えてからはリハビリだ。来シーズンには間に合わせてみせよう」


「……そうですか。また怪我ですか……。何年もかかってやっと克服したってのに! 

ふざけんじゃねー!!!」


 精神状態は最悪でしたね。壁に物を投げつけたりした記憶があります。描いていた未来地図は全てゴミになった。黄金世代の連中に代表でリベンジすることも、プレミアでプレーする夢も、目標だった日韓WCも!


「今は相手チームに事情聴取を協会が行ってくれている。君が出場できない以上優勝は厳しいかも知れないが、必ず残留は果たしてみせる。KAZU、君は怪我を治すことだけに集中してくれたらいい。いいな、みんな! 我々はKAZUに支えられて3部まで来た。今が恩を返す時だ!」

「「「「「おおおーーー!!!」」」」」


 病室で盛り上がるんじゃねーよ、全く。でもこの時はユースの時よりも気持ちが救われた気がします。あの時は生き残りを懸けたライバルだらけだった。心の中で笑っていた奴もいたはず。でもこの時はチーム。みんなが味方でした。情緒不安定だった僕は、みんなの優しさに触れて涙しました。ああ、チームっていいなあって。みんなの御陰で気持ちは落ち着いたんだと思います。ですが、思い描いていたプランは全ておじゃんです。だけど


「フットボールが二度とできない訳じゃない。切り替えろ、そうやってずっとやってきただろう? 何かしらまだチャンスはある。諦めるな。先ずは怪我を完治させることに全てを集中しろ!」


 歩けるようになってから、毎日リハビリです。一からまた闘える体にリセットしないといけない。苦しいです。何度も投げ出したくなります。でもそんなのは何度も乗り越えて来た。それに今の自分はのフットボーラー。投げ出すなんて選択肢はない。もう自分一人の体じゃない。たくさんのサポーターにチームメイトに監督にスタッフ達が支えてくれている。絶対に復活してみせる。今迄もそうして来た様に。


 数か月後、漸く外出許可が下りたとき、原付みたいなお年寄りの乗っている変な歩道を走れるおっそい乗り物で街に出ました。チームは何とか中位以下辺りをキープしてくれていたので、僕は結構安堵していました。


「何だよ、結構できるやん。いつもそれくらいやってくれよなー」


 って感じで。そして変な乗り物に乗っている僕に街のみんなが声を掛けて来ます。


「あ! KAZUだ!」

「もう怪我は治ったのかい?」

「いや、まだリハビリ中。こんなんに乗ってるんだし」

「今シーズンは残念だったが、きっと残留はしてくれる。早く復帰してくれよ」

「はは、それは俺の足に言って欲しいな」

「よし、みんなでKAZUのギプスに応援を書くぞ!」

「「「「「おおおお!!!」」」」」

「ええー」


 まあノリが良すぎるのでもう止まりません。足首の上まであるギプスにみんなが寄せ書きみたいに汚い字(※ネイティヴのハンドライティングは読めるシロモノではないです)でいっぱい書かれましたよ。全く読めないけど、優しさ、元気も期待も貰いました。温かいファンの為にも厳しいリハビリは絶対に乗り越えてみせる。そう誓いましたね。



 そしてシーズン後半残り3試合というところで、僕は懸命なリハビリの成果もあって、ピッチに戻ってきました。本調子には程遠かったけど。ホームのサポーターの『おかえりKAZUDONA』のコールは一生忘れないと思います。アウェイでも僕が非人道的なファールで大怪我をしたことは知られていたので、交代で入るときに相手サポーターも拍手をして迎えてくれたことも忘れられません。

 未来の歯車は狂ってしまったけど、それ以上に成長できた出来事だったかもしれません。調子に乗っていた僕に神様が喝を入れてくれたのかも知れませんね。「現実舐めんじゃねーぞ」ってね。


 時間は戻らない。今の自分にできることを最大限やろう。それでダメだったとしても後悔しない様に。3部残留が決まったそのシーズン、僕はオフにひたすら元の自分を取り戻す自主練をフィジカルコーチに頼んでこなしていました。来シーズンこそは必ず上に行く、と決意しながら。




 


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マジで頭にくる悪質なファール!

今でも未来を奪ったあいつらは殺したい!

さて今後のKAZUDONAストーリーはどうなっていくのか?

続きが気になる方はどうぞコメントを御願いします。

応援してくれると頑張れます!

当時のことを思い出すと、心に来るものがあって、今でも涙が出るんです。

皆様の応援が書き続ける気力になります。

よろしくお願いします。


で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!

OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177


ではまた次回・・・、もう少し続きますよ!

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