第25話 各国代表との対戦・得難い経験

遂に3部にまで上がった。

プレシーズンの試合も豪華な相手に変わっていきます。

鬱陶しい日本の事情はさておき、どうぞ!

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 3部リーグ、実力的には当時のJリーグの中位から上位くらいのレベルです。なのでプレシーズンやエキシヴィジョンも相手が豪華な上位リーグ勢になります。指名されるわけですね。プレミアのチームとかの調整相手として丁度いい程度のレベルなんです。

 僕はこの年のシーズンのエキシヴィジョン、プレシーズンマッチで各国代表の実力を肌で感じることができました。もうとんでもない得難い経験です。エキシヴィジョンは同じくらいかちょっと強いチームとの対戦でした。放映や観客が見に来るから、ボコボコに負ける試合は見せられないんですよね。

 その時はまだ1部~2部を行ったり来たりしていたマンチェスター・シティと対戦して、3-1で勝ちました。直接FKでハットトリックでした。今でこそオーナーが大富豪に変わってプレミアの優勝争いをしているチームですが、当時はまだ弱かったんですよね。「これくらいのレベルならまだ自分は通用する」と自信になりました。


 ですが、観客なしで行う調整試合はプレミア勢との対戦でした。ぶっちゃけ下位のリーグの相手に負けるハズもないので、チケット売れませんから。でもオールドトラフォード(※マンチェスター・ユナイテッドのホームグラウンド)やアンフィールド・スタジアム(※リヴァプールの本拠地)で、観客はいなくてもプレーできたことはテンション爆上がりでした。この8万人近く入るスタジアムが満員になる様な中でいつかプレーしたいなあって。


 まずはアンフィールドでのリヴァプール戦。当時のリヴァプールは守ってカウンターという傾向が強かったです。前線にイングランド代表のストライカーのM・オーウェン、中盤の底には同じく代表のS・ジェラード。各ポジションにも各国代表がひしめき合っていました。初めてのプレミア勢との試合。テンションはMAXでしたね。超燃えてましたよ。でもね、現実は甘くない。思い知りました。

 全くボールがキープできない。ジェラードに徹底的にマークされて、至近距離から体ごと刈られるんですよ。ファールも辞さない様な巨漢です。ボールを持つと削られるので、ドリブルができない。色々とポジションを変えても、スタミナがあるから余裕で着いて来る。スピードでは負けてないけど、最後のパスやらシュートは体を投げ出して潰してくる。ボールに対する執念が凄かった。必然的に僕はダイレクトで味方を使う様なプレーにシフトしていきましたが、味方は僕よりもボールコントロールが甘い。マッチアップはドイツやスイス、イタリアやスペイン代表。手も足も出ませんでしたね。

 前線の元祖ワンダーボーイと言われたオーウェンが、『1998年WCイングランド対アルゼンチン オーウェンのゴール』って検索したら出て来る動画の様に、速い速い! 一応リンク載せときます。 


https://www.youtube.com/watch?v=I4qeDBad2Go

https://www.youtube.com/watch?v=kJge6YhLKsM


 スピードではそんなに僕と遜色ないはずなんですが、ボールの貰い方やパスの引き出し方、ファーストタッチの差が違うんだろうな、持った瞬間にはトップスピードに入っている。ボコボコにやられましたね。

 ジェラードのマークも荒っぽくてイラついていたので、ファール取られなかったときに後ろから足ひっかけて転がしてやりました。気が荒い選手なので顔を突き合わせて睨み合いですよ。試合で熱くなっているので暴言をお互いに吐きまくりです。


「おい、ジャップ! やってくれるじゃねーか!」

「うるせえよ! テメーはプロレスでもやってんのか?! 体じゃなくてボールに来やがれ!」

「ちんたらボール持ってるテメーが遅くてイラつくんだよ!」

「そんなに体にチャージしてえならラグビーでもやってろ! 脳筋野郎が!」


 とまあこんな具合に試合中ずっとやりあってました。試合は5失点で終わりそうでしたが、「俺の気が済まねえ! 絶対に1点獲ってやらあ!」と、こういう格上とやると徐々に相手に慣れて来ます。試合中に「あれ、通用するぞ?」から「やれる!」という風にメンタルが変化していくんですよ。格上のチームが格下相手に序盤から圧倒的に攻撃を仕掛けるのは、早いうちに試合を決めて自信を持たせないためです。


 でも、序盤から様々なポジションに移動して、各国代表と渡り合ってきたのは大きな自信になっていました。後半ロスタイム。中盤でボールを受けた僕は、一人でどこまで行けるか、「リヴァプール、勝負!」というメンタルになっていました。スコアレスで負けてたまるかという気持ちが大きかった。中央から各国代表を次々にドリブルで抜き去り、まるでマラドーナが乗り移ったかのように突破しました。そしてペナルティエリア手前で守備に戻って来たオーウェンに倒されました。直接FKです。ほぼゴール正面。キーパーの重心を見定めてキーパーのいるファーサイドの天井に無回転でぶち込みました。1-5で一矢報いて試合終了です。すぐ隣でFKを見ていたオーウェンから、声を掛けられました。


「君は素晴らしい闘志とテクニックを持っている。僕には君が日本人とは信じられない。ユニフォームを交換してくれないか? 名前はKAZUでいいのかい? 後からサインを入れてもう一着送ることにするよ」

「ありがとう、マイケル。この試合は僕にとってもとても有意義なものだった。各国の代表相手にも自分が通用することがわかったのは収穫だった。自分に自信が持てたよ」

「君は代表選手じゃないのか?! それ程の技術のある選手が代表じゃないとは……。ジャパンのレベルは高いんだね」

「僕よりも上手い選手は五万といるよ。でもイングランド代表10番の君にそう言って貰えて光栄だよ」

「Best Wishes, KAZU. いつかプレミアのピッチで闘えることを祈っているよ」


 試合後は相手選手がみんな健闘を称えてくれました。ケンカしまくってたジェラードも「見事なファイトにスピリットだった」と称賛してくれました。二人共僕より若いのにねw 切り替えが早いなあと尊敬しました。


 手応えを掴んだリヴァプール戦から数日後、今度はマンチェスター・ユナイテッドの本拠地に乗り込みました。負けはしたものの1点返したということがチームの自信に繋がっていましたね。ですが、ここで僕達は異次元と言うものの存在を知りました。

 当時のマンUにはベッカム、ギグス、シェリンガム、R・キーン、A・コールなど挙げればキリがない程のスター選手だらけ。監督もSir. Alex. Fergusson(※ファーガソンさん。マンUを何度も優勝に導いた名将)と、毎シーズン優勝候補の常連でした。同じピッチに立っただけで震えます。TVでしか見たことのない奴らがいます。武者震いが止まらなかったです。

 試合はもう一方的。シュートみたいなパスがポンポンダイレクトで回される。獲れないんですよ。お手上げです。ここまでの差があるのかよ、と愕然としました。でもね、雑草は諦めが悪いんですよ。勝利は無理だが、個人で何処までやれるのか勝負。気分は日本代表。俺が舐められるということは日本人選手が舐められる。ターゲットはベッカム。右サイドが主戦場の彼のところで、此方にとっては左サイド、僕が一番ドリブルし易い位置です。そしてベッカムは鈍足。プレースピードは速いですが、彼の売りはパス。ドリブルや守備はそこまでじゃない。

 左サイドでボールを受ける度にベッカムを抜いてゴール前まで捕られるまでドリブル突破。これをひたすら繰り返しました。そしてペナルティエリアに侵入した際に、ベッカムに引っ張られて倒されました。PKです。GKは当時世界最高と呼ばれていたデンマーク代表のシュマイケル。ゴールが小さく見えたのは初めてでしたね。でも僕の蹴り方は変わりません。ギリギリまで動かないタイプだったので、回転をかけたキックを右上隅に突き刺しました。全く反応できなかったシュマイケルが、その場で


「You're Fantastic!」(※訳:君はすばらしい!)


 と称賛してくれました。非公式ですけど、マンUから初めて点を取った日本人は僕です。試合は1-7で惨敗でしたけどね。個人としては負けなかったと、今でも思っていますよ(笑)

 試合後ベッカムがユニフォーム交換をしてくれました。そして、ファーガソン監督が、「おいでおいで」と呼んで来たのでマンUのベンチにベッカムと話しながら行きました。あんまり彼との話の内容は覚えてないけど、「僕の惨敗だよ」とか言ってたかな。ドリブルで振り回しましたからね。


「君は素晴らしい技術を持っている。繊細なタッチとスピードを兼ね合わせた稀有なプレイヤーだよ。今日はウチのDavid(※ベッカムのファーストネーム、ディヴィッド)が君に好き勝手にやられた。もっと上位チームでプレーしないのか? プレミア迄もし上がって来た時は是非君と契約したいものだよ」


 まあリップサービスだとはすぐ分かりました。でもこんな凄い人に声を掛けて貰ったこと、褒めて貰ったことが嬉しくて、涙がボロボロ零れました。フットボールをやってきて本当に良かった。フットボールはこんな素敵な出会いを僕にもたらしてくれたのだから。


「いえ、僕は日本代表にすら選ばれたことのない、母国では無名の選手です。そんな僕が代表経験が必要なプレミアでプレーすることは恐らく困難なことです。でもいつか、日本人がマンUでプレーするレベルに至ったときには、その選手を大事に育ててやってください。僕はこうしてあなたと会話ができただけで感無量ですよ」

「そうか、でも私は君が気に入ったよ。いつか契約できるレベルになれる様に祈っておこう。これは私からのプレゼントだ。ユナイテッドのユニフォームで予約させて貰うよ」

「ありがとうございます。その言葉だけでこれまでの苦労が報われます」


 そしてマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームを一式プレゼントしてもらいました。涙が止まらなかったですよ。そして、マンUの選手たちがみんな、泣いている僕に声を掛けてくれました。もう覚えてないけど、一流の選手はピッチの外でも素晴らしいんだなと思いましたね。ケンカばっかりしてた自分とは大違いでした(笑)


 実は後に元日本代表のK・SがマンチェスターUに加入した出来事がありました。僕は少年時代の彼の英語を関西で個別で指導していました。海外でもイングランドは言葉が話せないとかなり厳しいと伝えていました。ファーガソン監督のときは可愛がってもらえて、活躍していたのを運命的なことだと感じていました。あの時の約束を覚えていてくれたのだろうか? しかも自分が英語を教えた生徒という巡り合わせ。しかし、彼が引退し、別の監督が就任すると、語学力が低い彼はすぐさま干されました。現実の厳しさを知ったと思います。



 兎も角、こうして何物にも代えがたい経験をして、僕とCC・FCは3部リーグに挑むことになりました。

 しかし、ずっと順調にここまで来たのは奇跡に近い。このシーズンで僕はまたキツイ経験をすることになります。





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やはりプレミアリーグの上位陣はエグかった!

でも偉大な人達に認めて貰って涙がボロボロでした。

さて今後のKAZUDONAストーリーはどうなっていくのか?

続きが気になる方はどうぞコメントを御願いします。

応援してくれると頑張れます!

当時のことを思い出すと、心に来るものがあって、今でも涙が出るんです。

皆様の応援が書き続ける気力になります。

よろしくお願いします。


で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!

OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177


ではまた次回・・・、書きますよ!

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