第21話 2度目の入れ替え戦・2度目のPK

2度目のシーズンもいよいよ佳境。

チームの運命は?

ではどうぞ!

------------------------------------------------------------------------------------------------


 『2年目のジンクス』も対処しました。普通は昇格したばかりのチームがその上のレベルのリーグ内で勝っていくのは難しいと言われるものですが、J2から昇格してもJ1でボコられるみたいなもの、僕達のチームは結構な快進撃を続けていました。

 リーグ優勝には手が届かないが、昇格圏内には何とか入れるかも知れない。後半戦に負傷したせいで何試合か大事を取って欠場しました。

 ウチは僕在りきのフォーメーションや戦術なので、抜けると一気に崩れるし、攻撃の幅が狭くなる。ローカルなチームなので、キーになる選手に依存していたり、選手層が薄いんですよねどうしても。ですがそういう事情は上に上がれば改善されていく。資金が潤沢になれば、獲得できる選手も増えますしね。選手や監督スタッフはそういう事情も背負ってプレーしているんですよ。


 オーナーが石油王みたいな、まあチェルシー(※石油王のアブラモビッチがオーナーになって以来強豪になった)みたいなチームならいいですよ。いくらでも金にモノを言わせて選手を獲得できる。ビジネスライクですが、ビッグクラブ程金にモノを言わせた補強やらを行いますからね。レアルやバルサ、ユベントスやインテル、マンUやリヴァプールが強いのは金があるためです。人身売買みたいですけどね。中堅・弱小チームは自分達が下部組織で育てた若手や、まだ無名な外国人を獲得して活躍させることによって移籍金を上げて資金を得る訳です。

 ここらが優勝争いに加わって来る強豪とその他のチームの違いですね。だからどのリーグも毎年あまり変わり映えせず、強豪チームが優勝を争っています。この格差は中々簡単に縮まるものではないんですよね。だからローカルチームが優勝戦線に入って来たりすると、「その年のリーグは面白い!」ってなるんですよね。


 まああんまり金銭面について触れるのは避けましょう、「結局金ないと勝てねーじゃん」って結論になるだけですからww


 逸れましたね、その昇格したシーズンで最終順位は4位。当然田舎の小さな街のメディアは大騒ぎ。新聞なんかのインタビューとか、何回か受けた記憶があります。日本のメディアは日韓WCやシドニー五輪に夢中で、見向きもされなかったのになあー(笑) まあイングランドのローカルなチーム&下位リーグ、世界的に見たらそうなるよねw でも僕は夢が叶った嬉しさや興奮で毎日が楽しかったです。

 あの燃える様な日々、数万の観客が熱狂してくれる高揚感。自分のプレーに数万人がリアクションで応えてくれる。いいプレーをした時や得点、勝利の後の満足感や達成感。その後の人生で僕はそれ以上の感動を感じたことがない。ある意味麻薬の様なやめられない、やったことはないけど、そういう中毒性があるんですよね。

 有名選手が引退後に不祥事を起こしたりするのは、今迄は自分が中心の様な熱狂的な世界にいたのに、誰も見てくれない日常に急に戻ったことで感覚がおかしくなっているんだろうなと思うんですよね。僕程度でもそれを感じるくらいですから。


 今回は4位。入れ替え戦で3部の下位4位との昇格を懸けた入れ替え戦です。どこの地域だったのかは忘れてますね、すいません。相手との初戦はアウェイ、当然の様に引っ張り回されますし、タックルの嵐が来る。それでも何とか善戦して、2-2の引き分け。確か直接FKかPKで2得点した記憶がありますね。

 引き分けですが、次はホーム。それを考えると此方に有利な状況でした。ですが僕は右足首に少々違和感があったので、途中から出るか、ピンチになったら出るということをJ監督から言われていました。

 そして前半終了時にトータル2-3で負けている状態。出番です。


「後半からはKAZUが入る。サポートとフォロー、戦術の切り替えはピッチ内でのKAZUの判断に任せる。勝って3部に行くぞ!」

「「「おっしゃーーー!!!」」


 と意気揚々とチームは後半戦に突入しました。ここからが勝負。右足の違和感はあるが、そこまで重症ではない。どの道削られるのに変わりはないんなら、ガンガン攻撃してやろう。後半から攻撃的にシフトしたチームはカウンター狙いで引いている相手陣内にどんどん枚数をかけて攻めていきます。中盤でタクトを執って味方を動かし、ボールを回して相手の守備を崩します。


「パスは自分に注意を向けさせてから出せ」


 僕はチームにずっとそういう要求を出して来ました。惹き付けてからならワンツーも唯の一本のパスも致命打になる。ドリブルで苦労して3人躱すより、一本のパスで5人一気に殺した方が手っ取り早い。

 『ボールは汗をかかない』という言葉があります。自分一人が無茶するよりボールをどんどん回して主導権を握った方が効果的なんですよね。なので僕はメイクするときは先ずチーム全体にパスが行き渡る様に展開する。偶にしかにボールに触れていないと感覚が鈍るんですよ、たかが一試合の中でもね。だから全員で前に運ぶように組み立てる。みんながボール感覚を掴んだら、どんどん仕掛けます、何人も惹き付けておいて、一発のパスで崩したり、ドリブルからミドルやサイドへ展開など、敵のポジショニングなどを俯瞰した感じでピッチ全体を見渡す。そして危険な箇所、此方にとってはチャンスエリアに持ち込んで、人数をかけて波状攻撃をします。

 この時の相手はべったりゴール前に張り付いて、カウンター狙いの逃げ切り準備になっていましたから、中盤に自由なエリアがかなり空くんですよ。そしてへばりついたDF相手に有効なのは遠距離砲。遠目からでも撃って来るとわかれば、撃たれない様に前に出る。定石ですよね。そして前に出てきたら裏にスペースが空くからスルーパスが決まる。冷静に着実に相手を焦らして前に出させる、ロングも決まればそれだけでOK。中央からだけでは単調になるので、両サイドも忠実に抉る。こうした作業をゲームメーカーは着々とこなしているんですよ。全体の状況を把握しながらね。


 試合は結局攻めあぐねましたけど、僕のロングが突き刺さって3-3の同点。決着はPK戦にもつれ込みました。僕は五番目のキッカー。右足の違和感は試合中にタックルを喰らいまくったので酷くはなっていましたね。でもそんなこと言ってられません。チームの未来が懸かってますからね。


 PK戦、中学3年の最後の試合を思い出す荒れ模様でした。そして僕の番が回ってきます。場内はKAZUDONAコール、もう高揚感が半端なかった。僕が決めたら勝ち、ですが失敗して相手の最後のキッカーに決められたら負けです。うん、多分そんなんだった。以前も書きましたが、公式戦でPKを外したのはたったの2回です。中学の1回目、そして、


 カアーーン!!!


 右上隅を狙った右足でのキック。キーパーは全く動けなかったのに、ゴール右上隅のクロスバーに弾かれました。インサイドで巻く様に回転をかけてキーパーの届かないところからゴールに突き刺さる。そういう得意にしていた、分かっていても止められないキック。無情にもバーに弾かれました。うわー、やっちまった! 空を見上げて呆然としました。味方もまさか僕が外すとは思っていなかったのでしょうね。唖然としていました。戻るときに味方GKが


「気にするなKAZU、俺が絶対止めてやるからな!」

「ああ……、すまん……」


 これが漫画やアニメならね防いでくれるんでしょうね。でも現実は甘くない。ズドンとサイドのコースにぶち込まれました。負けです。昇格したばかりで丸々1シーズンを過ごしたのは初めてです。もう悔しくて仕方なかった。みんな泣きながらも僕のことを気にかけてくれました。


「ああー、こんなに悔しいんだ。勝負を、命運を懸けた試合で負けることって」


 涙が止まりませんでしたね。サポーターに挨拶しに行ったときも。でもみんなが声を掛けてくれました。


「KAZU! 来シーズンで魅せてくれ!」

「PKは運だ! また次だ!」

「俺達私達はみんな君の味方でファンだからな!」


 こういうことはちゃんと覚えてますね。サポーターに握手しに行ったら、引っ張られて観客席に持っていかれてみんなにぽいぽい胴上げの様に放り上げられました。なんて温かいんだろう。そう思ってまた涙が出て来ましたね。


 こういう『大事な試合には魔物が潜んでいる』とよく言われます。WCではジーコもプラティニもR・バッジオも、そしてマラドーナさえもPKを失敗しています。


「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」


 1994年のアメリカWC、決勝戦でPKを外したR・バッジオはこう言っています。僕のレベルとでは雲泥の差ですけど。大観衆の中で命運を懸けたPKを蹴るのは、相当なメンタルが要求されます。上手くいきすぎていただけなんだろうな。プロになって浮かれていた。現実は残酷だということを、これまでの経験を思い出しましたね。


 2シーズン目、CC・FCは3部昇格は果たせませんでした。しかし、昇格したばかりのチームを4位にまで導いたということ、更に得点王とアシスト王も獲ったので、4位のチームなのに異例のリーグMVPにベストイレブンにも選出されました。でも結局は昇格できなかった。この悔しさは忘れない。来シーズンは絶対に昇格する!


 そう決意をして、僕のプロ2年目は終わりを迎えました。





------------------------------------------------------------------------------------------------

そんなにうまくいくはずもない。

だって現実なんだから。そう実感した最後です。

さて今後のKAZUDONAストーリーはどうなっていくのか?

続きが気になる方はどうぞコメントを御願いします。

応援してくれると頑張れます!

当時のことを思い出すと、心に来るものがあって、今でも涙が出るんです。

皆様の応援が書き続ける気力になります。

よろしくお願いします。


で、そんな僕が連載しているファンタジーです。良ければこちらも眺めてやってください! お願いします!

OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177


ではまた次回・・・、書きますよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る