第24話 【 グアナファトの街 】


 次に目覚めたのは8時、もうつかさも起きていた。

私たちは、昨夜のレストランで朝食を取り、コーヒーを飲んでひと休みしてから出かけることにした。

グアナファトの街は、ほとんど石畳みの狭い通りになっていて、その狭い通りを意外と多くの車やバスが走っていた。昔、銀鉱山だったらしく、採掘跡を道路のトンネルとして使っていて、街中あちこちにあるという事であった。

私たちのホテルからピピラの丘への入り口までは、私の足でも30分もかからないくらいで、お土産屋や帽子屋さん、食べ物屋さんなどを見ながら歩いて行くことが出来た。丘へは、ケーブルカーを使って登った。急斜面をほぼ垂直に登っていく赤い小さな可愛いケーブルカーだ。歩いて登っても15分かそこらで登れるらしいが、私はこんな身体なので、つかさには悪いが一緒に乗ってもらう事にした。上まで着くと

「わー、何、この絶景。凄いね。可愛い」 早くも観光客が多くいた。おもちゃ箱をひっくり返したようなと比喩してあったが、まさにその通りで、赤、黄色、青、ところどころ黄緑色のカラフルな建物が、山の斜面に立体的にびっしりと建ち並んでいた。

「凄いよね。ついにここまで来てしまったね」

「嬉しい。こうじさんありがとう」

「いや、こちらこそありがとう。ここまで連れて来てくれて」

考えてみれば、つかさに逢わなければ、こんな所があることも知らなかったし、来ようと思いもしなかっただろう。身体障害者の私ひとりで来れるはずもない所だし、来ようとも思わなかったはずだ。ほんとに連れて来てくれてありがとうであった。

「いや、私、何も払ってないし。私ひとりじゃ来れなかった」

「おお、やっと惚れてくれたかな? ああ、ごめんなさい」

私の言葉につかさは微笑んだ。

「食べ物屋さんもあるね。夕方また早目に来よう。夜景楽しみ」

「そやね。写真撮ろうか、つかさそっちに立って」

私たちは、グアナファトの街をバックにそれぞれの写真と二人の写真も日本人観光客に頼んで写してもらった。さんざん撮影した後、私はケーブルカーで、つかさは歩いて丘を降りた。力が有り余る若いつかさと一緒に歩いて降りたかったが、私に合わせたら降りなのに遅くてじれったいだろうし、ひとりの時間も作ってやろうとあえてそうした。

下で無事合流出来た私たちはそこからまた、たいした距離ではない所にあるらしい口づけの小道へ向けてナビを見ながら歩きだした。既に陽ざしは強く、暑くなっていた。思ったより手こずって、グルグルしながら口づけの小道までは一時間近くかかった。やっとたどり着いた小道にはやはりカップルがたくさんいて、キスの順番を待っていた。外国人が堂々とディープキスをする中、日本人もキスをしているようであったがそれは短めだった。

「キスする?」

「いやいや」私の冗談の問いに、つかさは、そう言いながら拝みポーズの片手を左右に振りながら微笑み、後ずさった。

「あははは、大丈夫だよ。しない。俺も恥ずかしい。でも、ベランダ、ほんと狭いね。あれならあんまり身を乗出さなくてもキス出来る。部屋の往き来もしてたんじゃないかな? ああ、ごめん、おじさんのいやらしい妄想でした」

「ああ、そうね。あり得るね」

意外にもつかさはあっさり同意した。そんな我慢できない若い男女の気持ちも分かるのか。私たちは、観光客も含めた小道を遠くから撮影したり、お互いの写真を撮ったり、撮影を頼んだ外国人にもっとくっつけと促されて、べったりとくっついて写ったりして、そこをあとにして、何か食べながら休憩出来るところを捜した 食べるところは多くあり、私たちはカンポスという、昔のサッカーメキシコ代表のゴールキーパーと同じ名前の店に入ってゆっくりとすることにした。そういえば、日韓サッカーワールドカップの時、たまたま、抽選で当たって、大分でのイタリア対メキシコの試合を見ることが出来た。その頃からここに繋がっているのか? まあ、それはないか。

食事は、朝ごはんもたっぷり食べてきていたし、私もつかさもタコスと飲み物を頼んだだけだった。本場のタコスと言っても、私はこれまでタコスを食べたことがなかった。若い頃、会社に中学校のALTの先生を呼んで英会話教室が開かれていて、私だけ知らなかったタコスをマックスウェル先生が英語で説明してくれたが、あまり理解出来ず、知らないままだった。今ここに来て本場のタコスを食べて美味しいと知った。中身に何が入っているかでまた違うだろうからメキシコにいる間に多くの種類を試そうと思った。

「美味しいね」

「うん、美味しい」

「初めてタコス食べた。美味しいもんやったんやね。つかさは食べたことあった?」

「うん、あるよ。でも東京のよりも美味しい」

「そっか、東京だもんね。なんでもあるわなあ」

私はアイスカフェオレ、つかさはオレンジジュースとジェラートを食べて夕方まで、街を散策することにした。バシリカ教会やラパス広場、博物館に寄ったりしたが、つかさはさすがは女の子、道々、小物を中心に買い物を楽しんだ。


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