第23話 【 口づけの小道 】


「口づけの小道」

「そっか、そうだよね。リメンバーとは関係ないけど、つかさたちの年代なら憧れるよね。つかさ、キスした事あるの? ないなら俺、大丈夫だけど…… あ、あるわな。ごめんなさい」

「まあ、あるかな・・・」

つかさは、やや困ったように、見栄をはっているのか、逆にあまり軽い女と見られないように装ってるのかよく分からない返事をした。

「カップル、みんなキスして写真撮ってもらってるらしいね。ぼくらもする?  ああ、ごめんなさい。でもあそこ、悲しい歴史があるんだよね。身分の違う恋人同士が、小道を挟んだ家にそれぞれ住んでいて、ベランダから身を乗り出して毎日キスしてたらしいんだけど、それを金持ちのお父さんが見つけて、怒って実の娘を殺しちゃったんだって」

「ええっ、そうなの?  殺したの?  お父さんが自分の娘を。知らなかった」

「そう、酷い話だし、悲しい話だよね。そんなところでキスしたら不幸になる気がする。なんか、階段の三段目なら15年は幸せが約束されるけど、二段目なら呪われて不幸になるとか」

「えー、なんでこうじさんそんな事知ってるの?」

「だって、つかさに会った時のためにいっぱい調べてた。でもこの話、随分前、まだ子どもの頃にテレビで見たことあるよ。微かに思い出した。そっか、メキシコの話だったんだ。メキシコって昔から日本には身近だったんだなと思った。日本人と同じモンゴロイドだもんね」

「モンゴロイド?」

「モンゴル系民族」

「ああ、だから日本人みたいな人たくさんいたのか」

「いや、本当の日本人もたくさんいたんじゃないかな」

「あはは、あっ、そっか」

「俺がそこで、つかさとキスしたら、つかさのお父さんに俺が殺されちゃうね」

「ああ、ダメ、殺人犯の娘はいや」

まあ、行くだけ行ってみよう。もう何十年も有名なところみたいだし」

私たちは、その後、運ばれて来た肉料理、パスタ、ピザを食べてワインをそれぞれ二杯ずつ飲んだところで、お腹いっぱいになった。そして、 伝票に部屋番号とサインをして、部屋へ戻った。

「先にシャワーしていい? 」

「うん、いいよ。俺、ちょっと酔っ払ったみたい。つかさ大丈夫なの?  強いね」私は、元々酒は強くなく、ワインを二杯飲む頃には少し酔って、あまり動けなくなる。

「お湯溜めてもいいよ。その後、俺が入るから」

「ああ、エッチ」

「そっかなぁ、親子みたいなもんじゃん。俺が溺れたら助けてね。酔ってるから入れないかも? お湯抜いてていいよ。ああ、酔っ払ってきた」

私は、そのまま、眠ってしまい、寒さで起きた時は、五時過ぎだった。朝は寒いようだ。メキシコシティに着いた時スマホの時間をつかさと合わせたが、日本だと夜の8時過ぎである。日本で夕方から昼寝をして夜の8時頃目が覚めたっていう状態である。お腹が空いている。身体は夕食を欲しがっているようだ。つかさはちゃんとベッドに入って寝ている。今日は無防備な姿ではない。私は、そっと近づいて、寝顔を覗いてみた。可愛い。すぐ近くまで顔を寄せ、甘い香りに唾を飲んだ。いかん、いかん、私は、引率して来た保護者だ。シャワーしてこよう。寒。

私は、熱めのシャワーを身体が暖まるまでゆっくり長く浴びて、欲情も流し去った。髪の毛をドライヤーで乾かし、ベッドに入ってつかさの方を見ながら再び眠りに着いた。


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